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陸上航空(陸上自衛隊航空科職種)の教育訓練、運用、装備、安全等に関連する米軍情報の発信源

陸軍航空整備の将来について

陸軍中佐 ジョセフ・M・ハーマンおよびオズワルド・イングラハン

1機のAH-64Eロット4改良型機がアラバマ州レッドストーン工廠からアリゾナ州メサに向かう途中、地上で監視している要員にリンク16(北大西洋条約機構で用いられる戦術データ・リンク)のバッテリー容量の低下を知らせるメッセージを送信した。リンク16のバッテリーに不具合が発生した場合、リンク16のLRU(line replaceable unit, 部隊交換可能部品)の修理が必要であり、OEM(original equipment manufacturer, 相手先商標製品の製造会社)に後送しなければならない。当該機が飛行している間にP4/T2(Problem, Plan, Part, People, Time and Tool, 故障状況、計画、部品、人員、時間及び工具)分析が実施され、ボーイング社がバッテリーの在庫を確認し、機体が到着したならば、直ちに容量の低下したバッテリーを交換するための準備が開始された。リンク16用バッテリーがボーイングの手元にない場合は、当該機が最終目的地に到着するまでの間に、アパッチPMO(Project Management Office, プロジェクト・マネージャー・オフィス)は、そのバッテリーの入手可能性について、DLA(Defense Logistics Agency, 国防兵站機関)に確認することとなる。

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2016年5月21日、アフガニスタンのFOB(Forward Operating Base, 前方運用基地)フレンティでホット・リフューエルを行うAH-64。第40戦闘航空旅団のカリフォルニアおよびワシントン陸軍州兵のチームが燃料再補給支援を行った。/米陸軍所有写真 第40戦闘航空旅団広報室2等軍曹イアン・M・クムマー撮影

あるAH-64Eバージョン4が遠隔地に着陸する際、地上監視組織にEGI(Embedded Global Inertial, No.1GPS慣性一体型航法装置)の不具合およびBUCS(Backup Control System, バックアップ制御システム)の問題を送信した。地上要員は、その機体の問題に関して、P4/T2分析を実施した。この分析には、じ後、回収任務が行われる可能性のある着陸地域や道路の評価も含まれていた。また、必要に応じ、操縦士が遠隔地で航空機をシャットダウンする前に、STAMP(Smart Tools for Aviation Maintenance Picture, 航空整備展開図用スマート・ツール )を装備した地上局ダッシュボードに地図位置情報が提供された。

あるAH-64Eバージョン4が、任務遂行中、No.1 MP(ミッション・プロセッサー)に不具合が発生したという警報をプロダクション・コントロール・オフィスに送信した。プロダクション・コントロールは、当該機が帰投するのを待ってから整備評価プロセスを開始するのではなく、当該機が飛行中に状況のP4/T2分析を実施し、部品、整備員および技術援助要員を着陸に備えさせた。
これは、アパッチ整備に関する空想科学小説であろうか? 違う。これは、SLED(System Level Embedded Diagnostics, システムレベル一体型故障診断)およびSTMPが装備された場合のアパッチ整備の実話である。

いかにしてそこに到達したのか?

アパッチ・プロダクト・オフィス、AED(Aviation Engineering Directorate, 航空設計部局)およびOEMは、新しい装備であるAH-64Dのデータを把握できていなかったため、機体の改善に関する支援が十分にできない状態であった。唯一、受領できていたのは、紙ベースのSTAMIS(Standard Army Management Information System, 標準陸軍管理情報システム)の情報だけであった。すべてのデータは、紙ベースのデータ・システムと部隊のデータ管理者によって収集されていたのである。機体からリアル・タイムに近いデータを利用可能な形で受領して分析し、機体の改善に役立て、整備員の負担を軽減するための事業がスタートしたのは、2003年のことであった。アパッチPMOは、タスク・フォース160(第160特殊任務部隊)と提携し、紙ベースのログブック(整備記録)をタスク・フォース160のELAS(Electronic Logbook System, 電子ログブック・システム)に換装した。電子ログブックのデータは、部隊からアパッチPMO、AEDおよびOEMに送られ、構成品(コンポーネント)の改善に必要な経費の確保が図られるようになった。

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また、フェーズ点検も紙ベースで実施されており、製造業者の情報網の外に置かれていたため、整備間隔の改善ができない状態であった。フェーズ点検が完了すると、記録された点検記録はCCAD(Corpus Christi Army Depot, コーパス・クリスティー陸軍工廠)に送られ、6ヵ月後に破棄されていたのである。アパッチPMOは、タスク・フォース160のもうひとつの成果であるIMPS(Integrated Maintenance Phase System, 統合フェーズ整備システム)を活用することにし、AH-64Dを装備する6個の飛行大隊にこのシステムを展開し、その使用に関する訓練を支援した。AEDによるフェーズ点検に関するデジタルデータの収集およびフェーズ点検結果の評価により、AH-64Dのフェーズ点検間隔は、250時間から500時間に延長され、アパッチ飛行大隊の可動時間を事実上倍増させることができたのであった。これらのデジタル整備システムは、新型の陸軍STAMIS、ULLS-A(E)(Unit Level Logistic System-Aviation (Enhanced), 部隊レベル兵站システム-航空(改善型))として採用された。

陸軍における整備のデジタル化が進むに従い、アパッチPMOは、困難な整備環境の元、より迅速な対応を可能にするため、航空機から整備員に対し機体情報を送信する必要性があるとの認識に至った。CLOE(Common Logistics Operating Environment, 共通兵站運用環境)は、現在および将来の兵力構成のため、兵站構想、組織的アプローチ、情報、および新世代の技術を運用的および技術的基本設計概念に同調させる陸軍軍事行動計画である。その目標は、即応体制の向上、状況把握の改善、陸軍における装備維持費の削減であった。CLOEのPoC(Proof of Concept, 構想の検証)を行うための機体として選ばれたのは、AH-64Dであった。

米陸軍のアパッチLIA(Logistics Innovation Agency, 兵站革新機関)は、VSAT(Very Small Aperture Terminals, 極小衛星通信地上局)およびCAISI(Combat Service Support Automated Information System Interface, 戦闘戦務支援自動情報システム用インターフェース)を運用部隊(テキサス州フォート・フードの第4騎兵連隊第1飛行隊)に供給し、実地試験を行った。

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この試験においては、野外行動中の無線化された飛行隊からアラバマ州レッドストーン工廠のアパッチPMO専用サーバーの収集ポイントまでの、STAMIS、MDR(Maintenance data recorder, 整備データ・レコーダー)およびMSPU(Modernized Signal Processor Unit, 近代化通信プロセッサ・ユニット)のデータの自動送信が実証された。この専用サーバーは、JATDI(Joint Aviation Technical Data Integration, 統合航空技術データ統合)最上位サーバーと呼ばれる。

このPoCの成功により、FBCB2(Force XXI Battle Command, Brigade-and-Below, フォースXXI(21世紀戦力整備構想)旅団および隷下部隊戦闘指揮所)によるVSATの交付基準が、1個大隊あたり1個VSATから、1個大隊あたり5個VSATへと増加された。これにより、大隊の整備組織は、自己専用のSTAMIS兵站連接用VSATを保有することとなった。また、航空機のログブックからJATDI最上位サーバーへのCAISIの無線または有線ネットワーク連接によるデータ・フローが可能となり、ログブックがVSATに連接されることになった。

SLEDおよびSTAMPのIETM(Interactive Electronic Technical Manual, 対話型電子整備実施規定)への統合

アパッチPMOは、近リアル・タイムではなく、リアル・タイムでの飛行中の不具合発生状況の把握が整備運用の対応時間を大幅に減少させ、兵站上の状況把握を向上させると認識していた。AH-64Eバージョン4およびバージョン6には、この能力が搭載されており、自己診断を実施して、機上処理によるシステム・レベルの健全性評価およびBFT II(Blue Force Tracker II, 味方追尾装置)ネットワークによる部隊の装備管理部門への送信が可能となっている。

ベトナム戦争以来、整備員たちは、機体が帰投し、着陸後、ログブックに不具合が記入されるまで飛行中に発生した不具合の修理作業を計画することができないでいた。2014年8月、開発および近代化プロダクト・マネージャー・オフィスとアパッチSLEDチーム・リーダーであるスティーブ・サザーランドは、SLEDおよびSTAMPシステムをフロリダ州エグリン空軍基地に展開し、FOTE(Follow-on Operational Test and Evaluation, 技術的追認 )を成功させた。

STAMPのダッシュボードは、航空機の現在の状態が反映されるように変更され、機体に発生したWCAFE(Warnings, Cautions, Advisories, Faults and Exceedance’s, 警報、注意、勧告、不具合および許容超過)を整備員が速やかに把握できるようになった。また、部隊まで帰投できる航空機と、予防着陸を行わなければならない航空機を判別することもできるようになった。ダッシュボードからは、完全なSLEDレポートを参照し、WCAFEに関する詳細情報を入手することが可能である。飛行中にリアルタイムで送信される情報には、その不具合が検知され、MDRに記録された時間とその時点で検知・表示されているWCAFESが含まれている。航空機からSTAMPダッシュボードに送信された不具合は、IETMに送り込まれ、整備員による不具合の迅速な評価を可能とするとともに、P4/T2分析を実施し、部隊が航空機の帰投または改修に対応する準備を行うことを可能にする。

予防着陸地点もSTAMPダッシュボードに送信され、整備員がその地域への進入要領、警戒上の処置および不具合発生機の回収計画の見積を容易にするとともに、回収作業を支援するために必要な情報を提供する。全ての情報は、リアル・タイムで提供されるため、整備員が実施するP4/T2整備管理手順の効率化を図ることが可能である。

FOTEおよびその後の任務において実証されたとおり、STMPは、飛行中の航空機からのリアル・タイムの不具合データを活用して、航空機のターンアラウンド・タイム(再発進準備所要時間)を最適化できる可能性を有している。STMPは、また、必要な部品を速やかに決定することにより、任務不能状態および一部任務不能状態における整備時間を短縮し、航空機が飛行している間における兵站計画手続きを活性化することが可能となる。

陸軍は、デスクトップ・アプリケーション(コンピューターにインストールして使用するソフトウエア)に加えて、アンドロイドおよびiOSを使用するモバイル機器で動作するクロス・プラットフォーム・ソリューション(仕様が全く異なる機械(ハードウェア)またはオペレーティングシステム)上で、同じ仕様のものを動かすことが出来るソフトウェア)を開発中である。このモバイル機器への対応により、STAMPの能力が拡大し、アパッチ航空整備関連機関が近リアル・タイムで航空整備に関する情報にアクセスすることが可能になり、整備兵站の軌跡把握を効率化するとともに、更に重要なこととして、航空機の運用状態への迅速な復帰を可能にする。

STAMPは、整備員たちに、陸軍航空でかつて経験したことのない、有利なスタートを切らせることを可能にする。FOTE試験において、ある下士官整備員は、「今すぐに部隊でこれが欲しい」と述べたのである。

陸軍中佐 ジョセフ・M・ハーマンは、アパッチ・プロジェクト・オフィスのアパッチ開発および近代化オフィスのプロダクト・ディレクターである。また、オズワルド・イングラハンは、開発および近代化プロジェクト・オフィスの支援を担当する兵站および維持リーダーである。両者とも、アラバマ州のレッドストーン工廠で勤務している。
出典:ARMY AVIATION, September 2016, Army Aviation Association of America
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    個人的には、リアル・タイムでの故障状況の送信までは必要ないのではないかと思います。ただし、米陸軍においては、フェーズ点検に関するデジタルデータの収集およびフェーズ点検結果の評価により、AH-64Dのフェーズ点検間隔が250時間から500時間に延長されているようです。これは、必要ですよね。




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