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陸軍航空の情報センター

多用途ヘリコプター関連事業の進捗状況

コリー W. マハンナ


昨年、陸軍中佐 チップ・ラン及び陸軍少佐 コートニー・コートが、多用途ヘリコプター関連事業に関する記事をアーミー・アビエーション誌に掲載して以降、4機のUH-60M試作機と、26機のUH-60LまたはHH-60L(訳者注:「HH」は、Search and Rescue Helicopter(捜索救難ヘリコプター)を意味する。) が新たに製造され、27機のUH-60Aが改修を完了した。また、572機のUH-60が、任務遂行に不可欠な系統についての一部改修を完了した。一方、米陸軍の多用途ヘリコプター用整備用部品の充足は、過去最高のレベルにあり、特殊工具、工具セット、修理用キット及び整備用資材の充足率も100パーセントを維持している。このため、部品待ちによる非可動時間は、過去最低のレベルに止まった。さらに、部隊等への最新型航空機管理用機器の装備により、航空機等現況把握及び将来需要予測に必要な情報収集が極めて容易になった。
 一方、LUH(Light Utility Helicopter, 軽多用途ヘリコプター)については、製造会社から提案書を受領し、その評価を行っている段階にある。
 米国陸軍は、その戦術、技術及び手順に関する改革の最中にあり、戦闘、戦闘支援及び戦闘戦務支援任務を担う陸軍航空への期待は、これまで以上に高まっている。陸軍航空は、海外及び国内のあらゆる地域におけるSASO(stability and support operations, 安定化及び支援作戦)に参加し、その任務を完遂してきたが、今後もさらに多くの場面における活躍が求められてゆくであろう。

焦点はライフ・サイクルへ

12月16日、UH-60Mブラック・ホークのデモ・フライトのためにコックピットに乗り込む航空担当プログラム・エグゼクティブ・オフィサーのPaul Bogosian氏

航空担当プログラム・エグゼクティブ・オフィサーであるPaul Bogosian氏は、関連組織の改編を推進し、これまでの「個々の派遣等に焦点を絞った運用」から、「長期的ライフ・サイクルを考慮した運用」への脱皮を図ってきた。
 UHPO(Utility Helicopter Project Officer, 多用途ヘリコプター・プロジェクト・オフィサー)は、このコンセプトに基づき、「新造機の調達」、並びに「現有機の耐用命数延長及び性能向上」について、バランスのとれたアプローチを模索している。

次世代ブラック・ホークの状況

世界最先端の多用途ヘリコプターであるUH-60Mの調達は、計画どおりに行われており、最終的には1,227機の新造機を取得し、合計1,806機のブラック・ホークを保有する予定である。必要な生産ラインの整備はすでに完了しており、17機のUH-60Mが現在製造中である。UH-60MのDTP(Developmental Test Program, 開発試験プログラム)は逐次完了し、9月以降に運用試験が開始される。
 UH-60Mは、「ローター・ブレーキ」及び「耐久性能向上型ギアボックス」を装備した新しい機体、「翼弦長拡張型ブレード」、「701D型エンジン」、「性能向上型IRサプレッサー」、「耐クラッシュ性向上型外部燃料タンク・システム」、デジタル・バス化され航法機器と完全に連接した「グラス・コックピット」等の特徴を有している。また、「IVHMS(Integrated Vehicle Health Management System, 統合航空機状態管理システム)」を装備し、オン・コンディション整備方式の実施に必要なデータを記録できる。UH-60M用の「MEP(MEDEVAC mission equipment package, 患者後送任務用装備セット)」も新規開発中であり、これを装備することにより、患者用酸素ボンベ等、通常の緊急治療室と同等の能力が得られるようになる。
 既納機のUH-60Mへの改修については、昨年10月に事前設計審査を終了しており、CH-47F及びARH(Armed Recon Helicopter, 武装偵察ヘリコプター)と同一の 「CAAS(common avionics architecture system,共通アビオニクス・アーキテクチャ・システム)」、「フライ・バイ・ワイヤ」、「FADEC(Full Authority Digital Engine Control, 完全デジタル式エンジン制御器)」、並びに「複合材製のドライブ・シャフト及びテール・コーン」の搭載・装備が予定されている。この改修にあたっては、他機種と共通のハードウェアを使用することにより、将来的な維持・整備を容易にするとともに、取扱性及び安全性を向上させて、より厳しい任務環境における運用を可能としている。この改修は、2006年に最終設計審査を受ける予定である。

LUHの状況

LUHプロダクト・オフィスは、2005年に発出した提案依頼書に対する回答を、すでに各製造会社から受領しており、現在、その内容を比較・検討中である。
 個人的には、2006年当初に業者選定のための性能実証が完了し、その後、中間決定がペンタゴンから発表されるものと予測している。可能ならば、2006年度に322機のLUHを発注したいと考えている。

T-700シリーズ・エンジンの状況

T-700エンジンについても、目覚しい進展があり、現行エンジンを701D型に改修するために必要な生産ラインの転換をすべて完了した。701Dエンジンは、従来型と比較してコスト、パワー及び耐久性が大きく改善されており、陸、海及び空軍の航空機において統合的に使用される予定である。
 また、T-700シリーズ・エンジン用FADECの調達が開始されており、2007年度にUH-60Mへの改修に併せて機体に搭載し、確認試験を行う予定である。

部隊装備品の状況

モジュール式の「特殊地上支援器材DSK( Deployment Support Kit, 展開サポート・キット)」の試作品を製造し、1月に1個戦闘航空旅団に1個セットの補給を完了している。

教育訓練の状況

教育訓練に関しては、各種の新型訓練用器材及びシミュレータを世界中の部隊へ配備した。具体的には、UH-60Mの整備員を養成するための「降着装置及び電気系統整備訓練用装置」の補給、「飛行シミュレータ」の改修、並びに「移動式シミュレータ」の開発などを実施した。また、フォート・ラッカー及びフォート・ユースティス所在の航空学校には、「IMI(interactive multimedia instruction, 双方向型マルチメディア教材)」を補給した。

改修チームの派遣

安全確保及び能力向上のための機体改修を迅速に実施するため、「多用途ヘリコプター改修チーム」を編成し、国内外の複数の地域に派遣している。このチームは、すでに12機の改修を完了し、現在25機の改修を実施中である。このチームによる12項目以上に及ぶ改修項目のひとつは、「耐弾装甲システム」であり、既に部隊運用が開始されている。

整備性の向上

UH-60の計画整備については、かつてない大規模な変更である「ESM(Enhanced Scheduled Maintenance, 改善型計画整備)プログラム」に着手した。このプログラムは、計画整備に関連する全規定の見直し及び統合を行い、重複する点検を削除し、点検手順を論理的順序に従って再整理するものである。このプログラムの実施により、各フェーズの所要工数を28パーセント、整備回数を33パーセント削減することができる。また、従来どおりの計画整備工数で可動率を5パーセント増加させるとともに、定期整備の間隔を従来よりも200飛行時間増加できるものと見込まれている。

海外の状況


同盟国の多用途ヘリコプター・プログラムについては、ブラック・ホークを運用している国は、26カ国に及んでおり、特に台湾及びコロンビアは、新造機を継続的に輸入している。また、UH-60M計画に関する海外からの質問が非常に増えている。
 タイ、ブラジル及びコロンビアは、UH-60の保有機数をさらに増加する予定である。コロンビア向けの8機とブラジル向けの6機のUH-60Lに関する契約が新たに締結され、コロンビア向けの4機、ブラジル向けの8機及びタイ向けの12機の新型UH-60Mに関する契約が現在準備中である。バーレーン及びUAE(United Arab Emirates, 在アラブ首長国連邦)も、UH-60Mの購入に意欲を示している。

結 論

2005年の多用途ヘリコプター全機の累計飛行時間は989,314飛行時間(12月15日現在)であり、米陸軍の機動力発揮に多大な貢献をしている。世界各地に部隊を派遣している極めて厳しい状況下において、この膨大な飛行時間を達成したことは、高く評価されてしかるべきものであろう。
 なお、本記事に記載の数値及び統計値の取扱にあたっては、あくまでも現時点における目標値であることに留意する必要がある。

陸軍大佐 コリー W. マハンナは、アラバマ州レッドストーン造兵廠航空担当プログラム・エグゼクティブ・オフィスに所属する多用途ヘリコプター・プロジェクト・オフィサーのプロジェクト・マネージャである。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2006年02月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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