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陸軍航空の情報センター

ER/MP無人航空機システムが部隊にもたらすもの

陸軍中佐 ケビン・メッサー及びジェームス・ハーバーグ共著

「沢山あります!」 これが「ER/MP無人航空機システムが部隊にもたらすものは何か?」という部隊長等の質問に対する中高度滞空機プロダクト・オフィスの答えだ。
 無人機プロジェクト・オフィスの中高度滞空機担当プロダクト・マネージャは、MQ-1C型ER/MP(Extended Range Multi-Purpose,滞空多目的)無人航空機システム(unmanned aircraft system,UAS)の米陸軍戦闘部隊への供給を担当している。(訳者注:MQ-1Cは、ウォーリアとも呼ばれ、米空軍が装備しているMQ-1プレデターの改良型である。)
 中高度滞空機プロダクト・オフィスの重視事項は、第1線部隊に対し、高度な偵察、監視及び目標捕捉能力を供給し、適切な時期と場所に適切な部隊を投入するための情報を適時に獲得できる能力を付与することである。
 また、第1線部隊への主導的かつリアル・タイムの攻撃能力の付与も重視している。この能力により、単に敵情を偵知し、その情報を伝達するだけではなく、自ら直接火力を発揮して流動的な敵情に即応し、地上部隊の作戦を支援することが可能となる。
 さらに、ER/MP無人航空機システムの運用範囲をさらに拡大し、複数任務の同時遂行を可能とするため、広範囲で長時間に渡って任務を遂行できる通信中継能力を付与することも重視している。

部隊装備はいつになるのか?

 簡単に言えば、「すぐに」である。
 しかしながら、全ての第1線部隊が、師団管理品目として取り扱われる重要な装備品であるMQ-1Cシステムを今日受領できるというわけではない。
 正確に言うと、一部の部隊には直ちに限定的な能力を有するシステムを補給し、それ以外の部隊には今後数年の間にさらに能力を向上したシステムを補給する。その後、先行的に補給された部隊のシステムの改修を行うということである。
 このように複雑な手順で装備化を行う理由は、設計、開発、訓練、試験、装備、維持という本システムの調達プロセスが未だにその途上にあるものの、その完了を待たずして直ちに装備することが必要な部隊が存在し、先行的に装備化を行わざるを得ないからである。
 このシステムの装備化が完了するまでの何年にも及ぶ計画、準備及び実行を完遂するためには、軍事作戦を遂行するのと同じくらいに膨大な調整と努力が必要である。このため、何千とは言わないまでも、何百人という軍事、行政及び民間の関係者が本システムの調達プログラムの遂行に関わり、適切な製品を適切な部隊に適切な性能を発揮できる状態で供給すべく、複雑な計画の立案に努めている。
 最初にQRC(Quick Reaction Capability, 装備品緊急取得手続)の適用を受けて編成されたのは、第1騎兵師団の1個中隊である。この中隊のシステムは、4機のMQ-1C、2機のワンシステム地上管制装置及び17名の人員で構成されている。
 2008年4月、議会は、「イラクの自由作戦」における第1線部隊の要求に応えるため、2個ER/MP無人航空機システム部隊を速やかに展開するように指示した。この指示を受け、8月上旬にイラクに派遣されたのがこの中隊である。
 この中隊が完全に運用可能な状態となれば、その装備するMQ-1Cは、電子光学・赤外線イメージ・センサー、合成アパーチャ・レーダー移動目標表示器センサー及びレーザーによる目標識別能力並びに1日あたり22時間までの通信中継能力を備えることとなる。これが実現すれば、第1騎兵師団は、滞空時間の長い偵察、監視及び目標捕捉能力を独自に保有することができる。
 2010年に展開する第2次QRC対象部隊は、武装化されたMQ-1Cを装備し、ヘルファイア・ミサイルを発射して、直接的な攻撃任務を遂行できる能力を有している。
当初に装備された第1次QRC対象部隊には、MQ-1Cシステムに要求される性能が完全には備わっておらず、まだ80パーセントの能力しか発揮できていない。
 完全な装備化を完了した第2次QRC対象部隊は、12機のMQ-1C、5台の地上管制装置及び128名の人員で編成され、年に1-2個部隊のペースで配備が予定されている。これらの完全装備化部隊には、さらに長時間の飛行が可能な改良型のMQ-1Cが装備されおり、2011年にはさらに能力を向上するための改修が予定されている。これらの能力向上型MQ-1Cには、戦術通信情報パッケージ及び森林貫通レーダー(森林の樹木の群生する葉を透過するレーダー)が搭載される。

調達機関

カリフォルニア上空で試験飛行を実施中の長距離多目的中高度長時間対空無人機

2008年5月19日、ER/MP無人航空機システムの調達プログラムは、陸軍が管理する調達カテゴリーⅡの調達プログラムから、国防取得審議会が管理する調達カテゴリーⅠ(D)の調達プログラムへと切り替えられ、調達、技術及び兵站担当国防次官が所掌する事業となった。
 調達プログラムのレベルが高くなったことにより、法規上必要となる業務が大幅に増加したが、国防長官官房がMQ-1C型ER/MP無人航空機システムの調達プログラムに関する陸軍の方針を強く支持していることは、本調達プログラムの推進に大きく貢献することであろう。
 また、RAA(Rapid Acquisition Authority, 迅速調達機関)が本システムを承諾したことにより、新しいシステムの迅速な部隊への供給と緊急事態への対応が容易になり、QRC対象部隊の展開が推進された。
 なお、100%の能力発揮を目指して時間をかけてゆっくり装備化するのではなく、80%の能力発揮が可能となった時点で速やかに装備化を開始することにより、中高度滞空機担当プロダクト・マネージャに大きな自主裁量の余地が与えられることとなった。

ER/MP無人航空機システムの試験

MQ-1Cの設計は、基本的にはすでに装備化されているMQ-1を踏襲したものであるが、大規模な変更及び改良箇所もあるため、数多くの再試験が必要である。これらの試験は、環境試験から、運用試験までの多岐にわたっており、次に述べる試験項目で構成されている。

システム・レベルの環境試験

2009年1月から4月にかけて、あらゆる環境に対するER/MP無人航空機システムの適合試験がフロリダ州エグリン空軍基地マッキンレー・ラボで実施された。この試験は、運用中及び駐機中の各種状態における高温、低温、積雪、強風、氷結、雨等の各種の環境状態に対する適合試験を網羅していた。
 本試験によりシステムの適合性は良好であることが確認されるとともに、問題点に対する対策が施され、予想されるいかなる環境においても正常に運用できるように改修された。

陸軍運用試験

2009年4月、第1次QRC対象部隊の装備品及び兵員を対象とした陸軍運用試験が実施された。 この試験は、初めてのQRC対象部隊の編成に伴う訓練の最終試験を兼ねて、カリフォルニア州のアトミックス将軍エル・ミラージュ施設において実施された。
 本試験の実施に際しては、陸軍運用試験コマンドがアラバマ州フォート・ラッカーから派遣された教義に関する専門家の支援を受けた。
 試験は、5つの段階に区分され、兵員の訓練成果を助長し、部隊派遣の準備を整えられるように計画され、カリフォルニア州のエル・ミラージュ湖からエドワード空軍基地地域まで飛行しながら実施された。本試験の実施を通じ、兵員達は、偵察、車両縦隊に対する支援、目標の指示及び協同戦闘作戦の任務遂行能力の向上を図ることができた。

第1次製品満足度試験

2009年11月及び12月に、ER/MP無人航空機システムの追加試験として、カリフォルニア州の海軍チャイナ・レイク・テスト・センターにおいて、16発までのミサイル発射試験を実施する予定である。
 この試験においては、様々な高度及び攻撃方向からの、昼間及び夜間の自立的かつ遠隔地での作戦遂行能力を確認するため、静止目標、移動目標等の各種目標に対する戦闘が実施される。
 この試験により、ER/MP無人航空機システムのヘルファイア発射能力を確認し、限定的な使用部隊試験の実施及び第2次QRC対象部隊の展開に向けた準備を完了できるものと考えている。

限定的な使用部隊試験

2010年5月から6月にかけて、カリフォルニア州フォート・アーウィンの国際トレーニング・センターにおいて、MQ-1C型ER/MP無人航空機システムの限定的な使用部隊試験が実施される予定である。
 本試験においては、第2次QRC対象部隊の兵士がER/MP無人航空機システムを運行し、地上作戦部隊に対する偵察・監視及び目標捕捉支援を実施する。この際、ER/MP無人航空機システムのミサイルによる目標捕捉交戦を実施できることを確認するため、8発のヘルファイア・ミサイルの発射が予定されている。
 また、協同戦闘作戦を実行するため、ヘリコプターから発射された2基のミサイルを誘導するためのレーザー・スポットの照射についても、試験することが予定されている。
この限定的な使用部隊試験は、陸軍試験及び評価コマンドが第2次QRC対象部隊の展開を支援することを容易にするだけではなく、ER/MP無人航空機システムの低価格化にも貢献できるものと考えられている。

結 論

ヘルファイア・ミサイルの装備化のための試験を実施中のER/MP無人航空機システム。機体下部に2発のミサイルが確認できる。2009年11月及び12月には、ER/MP無人航空機システムの追加試験を実施し、カリフォルニア州の海軍チャイナ・レイク・テスト・センターにおいて、16発のミサイルを発射する予定である。

完成度がまだ80パーセントのシステムを兵士の手元に届けるという要領には、利点ばかりではなく欠点があっても何ら不思議ではない。兵士達の任務遂行に最も有効なツールを得るためには、技術革新のためのたゆまぬ努力が必要である。
 中高度滞空機担当プロダクト・マネージャ及びその所属人員は、現時点において最良のER/MP無人航空機システムを可能な限り早期に兵士に供給することにより、現在実行中の作戦に必要な改善事項というフィードバックを蓄積することに貢献している。

陸軍中佐ケビン・メッサーは、無人航空機システム・プロジェクト・オフィスの中高度滞空機プロダクト・マネージャであり、ジェームス・ハーバーグは、レッドストン補給処において中高度滞空機を担当している軍交通部と契約している納入業者である。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2009年11月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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