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ベテランよ、油断するなかれ!

米陸軍戦闘即応センター事故調査課

この最新式の機体は、飛行開始から約56分後、高さ1,000フィートのタワーと、それを支えている太さ1インチのサポート・ケーブルに対地高度約917フィートで衝突した。この事故により、4名の搭乗員が死亡し、副操縦士が軽症を負った。

当該機は最新型のCH-47チヌークであり、山野の上空をVFR(visual flight rules, 有視界飛行方式)で飛行しながら、NAS(National Airspace System, 全米航空システム)の運用要領を訓練していた。当該機長と副操縦士は、以前から何度も一緒に飛行しており、その組み合わせに規則上の問題はなかった。機長は2,800時間以上、副操縦士も860時間以上の飛行経験があり、どちらの操縦士もMTP(maintenance test pilots, 試験飛行操縦士)の資格を保有していた。さらに、機長は飛行大隊のME(maintenance test flight evaluator, 試験飛行検定官)であった。いったいなぜ、このようなベテラン操縦士達が、航空事故を起こしてしまったのであろうか?

その任務は、特に危険を伴うものではなかった。天候も、米国南部地域の夏の天候としては、特異なものではなかった。機長は、訓練前日に中隊長から命令を受領し、副操縦士が訓練計画を作成した。計画上の飛行高度は1,000フィートを予定していたが、天候上の必要に応じて、高度を下げるつもりであった。すべては順調に進んでいるように思えた。ただし、当日の気象は、VFR状態ではあるものの、若干の悪化が予想されていた。また、離陸前の機長による搭乗員ブリーフィングは一応実施されたものの、十分な内容のものではなく、また、副操縦士による経路説明は実施されなかった。当該機は、定刻どおりに離陸した。
 ボイス/データ・レコーダーの記録によれば、副操縦士は、離陸直後に予報よりも天候が悪いことを口にしていた。ややしばらくして、天候は一旦回復したが、飛行開始からおよそ45分後に再び悪化し始めた。操縦士同士の会話は、雲を回避するための高度変更に関するものが多くなった。機長は天候の悪化をあまり気にしていないが、副操縦士は少し不安を感じているようであった。副操縦士は、IFR飛行方式への移行について、それとなく口にしていたが、はっきりと意見具申するには至らなかった。
 当該機は、フル・カップリングした自動操縦システムと地図表示が可能なディスプレイを装備していた。このため、機長及び副操縦士は、本来はクルー・コーディネーションを活用して状況を認識すべきであったのに、ディスプレイに表示された地図に頼り切ってしまっていた。天候が悪化しているにもかかわらず、彼らはなおも、計器速度約140ノットで予定された経路を飛行し続けた。次のチェックポイントは、地上高1,000フィートの2つのTVタワーの500メートル南に予定していたが、その地点に近づいてきたことについて、どちらの操縦士も口にすることがなかった。飛行を始めたころは良好であったクルー・コーディネーションが、天候が悪化するに従って明らかに乱れ始めたのである。
 墜落の約3分前、副操縦士は「やっぱり、降下しなきゃだめか!」という言葉を発した。しかし、機長の「いや、もうちょっとで抜けるさ」という言葉で、高度変更を思いとどまってしまった。この時すでに当該機は、陸軍規則95-1「飛行規程」が定めるところのIIMC(Inadvertent Instrument Meteorological Conditions, 予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)に陥っていたものと推定される。機長のこの言葉によって、副操縦士は、不安を感じながらも、断続的な雲の中、対地高度900フィートで飛行し続けた。
進入レーダーの記録によれば、墜落の約20秒前、当該機は若干左に旋回を始めた。続いて、副操縦士が、「雲のない1,500フィートまで上昇すべきじゃないですか?」と言った。機長は「いや、多分大丈夫…」という言葉を発したが、残念ながら、これがボイス/データ・レコーダーに記録された最後の言葉となってしまった。
 当該機は、飛行開始から約56分後、計器速度140ノット(対地速度150ノット)、対地高度約917フィート、機首方位約269°、ほぼ水平飛行状態で飛行中、2つの地上高1,000フィートのタワーの一方と、それを支えている太さ1インチのサポート・ケーブルに衝突した。機体は大きく3つに分断され、2軒の農家のすぐ脇に落下した。この事故により、4名の搭乗員が死亡し、副操縦士が軽症を負った。
なぜ、このような事故が起きてしまったのであろうか?機体は、地図表示システムを搭載した最新式であり、機長及び副操縦士は、アフガニスタンで戦闘任務を完遂してきたベテラン操縦士であった。それにもかかわらず、一見何の危険性もないようなVFR飛行中に、農場に墜落し、4名の兵士と何百万ドルもする航空機が失われてしまったのである。
 墜落の原因は、危険性が低い任務に対する操縦士の気の緩みだと考えられている。彼らは、「状況を正しく認識するために、クルー・コーディネーションを確行する」及び「天候急変時は、躊躇せずにIFRに移行する」という基本を忘れてしまっていた。全般的には危険性が低い任務においても、比較的危険度の高い部分が必ず存在するものであるが、彼らはそれがどこなのかを認識できていなかった。
グラス・コックピットを装備した最新式の機体により、危険性が少ない米国本土の郊外を飛行するという任務は、あたかも心地よいタイヤ音だけを聞きながらハイウェイを走行しているときのように、彼らの安全意識を低下させてしまったのである。彼らは、戦場における飛行を含む十分な経験を有し、優秀で信頼できるベテランパイロットであったことに間違いはない。彼らは、ただ単に基本の実行を忘れたに過ぎないのである。この事故は、我々の組織にひそむ、ベテランパイロットが落ち込みやすい、大きな落とし穴の存在を明らかにした。貴重な航空機と、かけがえのない人材を失ったこの事故の教訓を忘れてはならない。ベテランとは、何を意味するのであろうか?危険性が低い任務を安全に遂行するために、心がけるべきことは何であろうか?

本記事に関するご意見等は、Combat Readiness Center (CRC) Help Desk(DSN 558-1390 (334-255-1390) または helpdesk@crc.army.mil)までお寄せください。事故調査課の連絡先は、CRC Operations(DSN 558-3410 (334-255-3410)またはoperationssupport@crc.army.mil)です。
出典:FLIGHTFAX, August 2006, U.S. Army Combat Readiness Center
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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