AVIATION ASSETS

陸上航空の教育訓練、運用、装備、安全等に関連する米軍情報の発信源

飛行中のテール・ローター脱落

上級准尉 ジェシー スクルーグス
アリゾナ州兵

AH-64Dにおいて、飛行中にテール・ローター全体が脱落する事案が発生したが、操縦士の適切な対応により、最悪の事態を免れ、無事着陸することに成功した。以下の記事は、本事案の発生直後に記録された機長の証言に基づぐものである。なお、本記事の掲載にあたってば、機長の許可及び承認を得ている。

アフガニスタンへの派遣準備期間中、訓練担当操縦士が教育してくれた「現地における脅威の優先順位」は、「環境」、「航空機」、「敵」の順であった。今回の事案が発生したとき、アフガニスタンにおける派遣期間の半ばに近づいており、「山岳地帯(環境)」の脅威と「タリバン(敵)」の脅威は既に克服できていた。そしてついに、最後に残った「航空機」の脅威に立ち向かうこととなった。

任 務

その日の任務は、ある前方作戦基地(forward operating base,FOB)から、我々が展開している前方作戦基地サレルノまで、負傷した捕虜を空輸するUH-60(1機)をAH-64Dにより同行援護するものであった。それは、天候が良好な、静かな日曜日の朝であり、前席には優秀な副操縦士が搭乗しており、何の問題もないフライトになるはずであった。

2機の編隊は、捕虜の搭載を完了し、前方作戦基地サレルノに帰投中であった。私の機体(コードネーム:「ブッチャー23」)は2番機として、1番機のUH-60(コードネーム:「ダストオフ」)の後方を飛行していた。前席の操縦士が操縦し、FOBの手前約15マイルの地点に到達したとき、突然「ドスン」という大きな音がして、機体が10フィートくらい上方に跳ね上がった。当初は、強いクービュランスに遭遇したか、あるいはロケット弾に被弾したと考えた。機体の姿勢は、機首が右に約20度振れて、下に10度-15度下がった状態で安定した。

前席で操縦している女性副操縦士に「操縦桿をしっかり保持しろ!」と指示してから、計器類を確認した。警報、注意及びアドバイザリの警報表示はひとつもなく、左側ペダルが底づいているのに機体が反応していないこと以外に異常は見られなかった。

次に副操縦士から操縦を交代し、「ダストオフ」に後ろに回ってテール・ローターを確認するように依頼した。テール・ローターに何らかの不具合が発生しているのは明らかであったが、その程度を確認する必要があった。「ダストオフ」からの連絡は、ヘリコプターの操縦士であれば、誰もが聞きたくない内容であった。「ブッチャー23、テール・ローターが完全に脱落し、スタビレータも半分も無くなっている!」

行動方針の決定

最初に決心したことは、ロールオン・ランディング(滑走着陸)が可能な場所まで、飛行を継続することであった。幸運なことに、約300フィートの高度と約120ノットの対気速度を確保できており、残りの経路間に高い峠はなかった。機体姿勢は、機首が右下方向に向いた異常な状態であったが、なんとか操縦可能であった。機体は、丘陵地帯の上空を順調に飛行し続け、前方作戦基地サレルノを取り囲むすり鉢状の地形に進入を開始した。

次に、チェックリストに基づき、「テール・ローター推力の喪失一巡航飛行(飛行継続可能)」の手順を確認した。水平飛行状態であるにも関わらず、サイクリックの後方側への余裕は、1インチ程度しか残っておらず、機体の重心がずれていることは明確であった。チェックリストに記載された手順のうち、検討が必要だったのは、「適宜」実施することとなっているロケット・ポッドの投棄であった。現状のままでも飛行継続は可能であり、かつ、市街地の上空を飛行していたことから、投棄しないことに決心した。今になって考えると、この決心が、我々の生還に大きな影響を及ぼすこととなったのである。

タワーに緊急事態であることを通報し、ロールオン・ランディングを実施するという意図を伝えた。着陸に際しては、機体が滑走路まで5-10フィートの高さに達するまでは、対気速度90ノットを維持するとともに、前席の操縦士がパワー・レバーを操作して方向をコントロールし、私は機体の操縦に専念することにした。

これまでに受けてきたテール・ローターの不具合についての教育訓練を通じて、「可能な限り理想的な着陸ができる状態になるまで、航空機を飛ばし続ける」ということを叩き込まれてきた。最初のアプローチにおいては、満足な方向コントロールが得られるまでに、砂利敷きの短い滑走路の約半分を過ぎてしまい、滑走距離が足りなくなった。もちろん、ゴー・アラウンドは、できるだけ避けたいことではあったが、飛行状態は安定していたため、その実施を決心した。

この1回目のアプローチにより、「90ノット以上の対気速度において、地面効果が機体にどのような影響を及ぼすのか」、「どの位の速度で、どの位のパワーを使えば、機首が滑走路の方向に向くか」及び「滑走路の手前側エンドを通過する時に、どの位の速度であればいいのか」というような情報を収集することができた。

ゴー・アラウンドしてから、機首が右下方に振れた姿勢のまま、大きく右旋回をしてファイナルを完了し、浅い進入角で2回目のアプローチを開始した。滑走路まであと5フィートの高さとなった時、対気速度は約85ノットで、機首が若干右に振れた状態であった。副操縦士が私の指示によりパワー・レバーを引くと、機首が左に振れ、滑走路と一直線になり、機体はいつものロールオン・ランディングと同じように接地した。ロケット・ポッドが地面と接触し、機体をまっすぐに保ってくれたのである。機体は、泥だらけの溝に沿って右にすべり、今度は溝の右側側面に衝突して右側に傾いたが、右側のロケット・ポッドが機体を支えてくれた。機体はまっすぐな状態に戻ると、溝を乗り越えて、滑走路末端の駐機エプロン上で停止した。周りを見渡すと、待機していた消火員達の大歓声に我々は迎えられていた。

教訓事項

最後まで航空機を飛ばすこと
簡単ではあるが、含蓄のある言葉である。私はかつて、飛ばすことをあきらめ、乗客になり下がってしまった操縦士を見たことがある。わずかでも残ったパワー、速度、高度およびローター回転を活用し、機体が安全に停止するまで飛ばし続けなければならない。

航空機の能力の限界を知ること
幸いなことに、以前にも、訓練中に異常な機体姿勢のままゴー・アラウンドした経験があり、そのような状態で発生しうる状況を予測することができた。航空機を飛ばし、安全に着陸するために必要な自信を得る方法は、訓練以外にない。

落ち着いてプロに徹すること
緊急事態に遭遇しても、とりあえず飛行が継続できる場合は、パニックに陥ることなく、自らの行動方針を確立し、部下にそれを徹底しなければならない。また、安全のために必要な条件が揃わないまま、焦って着陸してはならない。

今回の事例を新人パイロットの訓練内容に反映してくれた米陸軍コンバット・レディネス・センターに感謝したい。

我々は、世界一安全な航空機に搭乗させてもらって、レベルの高い訓練を受けているのであるから、その職務を必要以上に危険なものだと考えるべきではない。一方、我々の任務は決して安全ではなく、いかなる状況にも対応できるように腹案を保持しておく必要がある。「環境」や「敵」という脅威だけではなく、突然、「ドン」という音とともに、「航空機」という脅威が襲ってくるかも知れない。くれぐれも、気を抜いてはならない。

出典:KNOWLEDGE, October 2007, U.S. Army Combat Readiness Center

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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