AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

ダストオフ!(海上における救助活動)

上級准尉 スタン・ステイシー
上級准尉 ブライアン・ジョンソン
第3-2GSAB

第3-2GSAB(General Support Aviation Battalion,全般支援航空大隊)C中隊に 所属する2機のUH-60Aは、朝鮮西海岸沖の航空戦闘訓練地域Aにおいて、陸軍航空で最も厳しい訓練のひとつであるOWPR(0verwater Personnel Recovery、海上人員救助)訓練を実施している。C中隊は、OWPR任務を恒常的に担任し、朝鮮沿岸を飛行する第2戦闘航空旅団4-2戦闘部隊を支援する飛行中隊である。本記事は、OWPR訓練の実施に必要な条件、実施の手順及び統制の要領について紹介するものである。

OWPR訓練は、危険度の高い訓練であるため、旅団長の許可がない限り、2機の航空機を使用して実施しなければならない。また、使用する航空機は、地面効果外ホバリング及びシングル・エンジン飛行が可能な状態であり、かつ、次に示す装備品を搭載していなければならない。

機体装備品:

・電波高度計
・高度計×2
・昇降計×2
・GPS×l
・音声警報装置

任務用追加装備品:

・30-50フィートの縄梯子
・外部ホイスト
・HUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)(各操縦土用)及びNVG(全搭乗員用)
・毛布及びリッター×2
・サバイバル・キット及び救命浮舟×1
・ケミカルライト×12
・カーゴ・ストラップ×4
(OWPR訓練に使用する2機のうち1機は、これら全ての装備を搭載していなければならない。)

1機目の機体は、全ての任務用追加装備品を搭載し、PR(Personal Recovery, 人員救 助)機として海上の被救助者の救助活動を実施する。2機目の機体は、インストラクター・パイロット(教官操縦士)又はスタンダーディゼイション・パイロット(訓練担当操縦士) が1名と、もう1名の操縦士(資格制限なし)が搭乗し、訓練支援機として被救助者の海上への配置等を実施する。

訓練実施前に、次の事項について、有資格者による教育が実施されなければならない。

各個訓練:

・海上救難訓練法(Dunker及びHEEDS(Helicopter Emergency Egress Deployment System)に関する事項)
(訳者注:Dunkerとは、航空機を模擬した装置の中に人員を乗せたまま水没させ、脱出要領を訓練する水中脱出訓練用シミュレータである。HEEDSとは、ヘリコプターが水没した場合に使用する緊急呼吸用空気ボトル等で構成される緊急脱出用器材である。)
・個人救命醇舟の点検、装着及び使用要領
・耐寒スーツの性能及び着用法
(米陸軍教範AR95-1に従い、水温15℃以下において実施すること。ただし、指揮官が承認した場合は、水温18℃-20℃において実施することも可能)
・救急救命キットの使用法 ・倍号器材の使用法
・救命浮舟及び閲梯子の使用法
・ホイストの使用法
・搭乗員訓練プログラム及びSOP要求事項
・捜索救助計画及び運用
・PR任務の組織及び通信

OWPR訓練には、通常、3日間にわたる合計12時間の飛行訓練が必要となるが、換縦士の練度に応じて短縮も可能である。訓練初日は、昼間飛行のみが実施され,2日目及び3日目は、昼間に加えてNVG飛行訓練が実施される。

全ての搭乗員は、救命胴衣、耐寒スーツ、ケミカルライト×5個及びHEEDSボトルを装備する。

訓練実施のための最低気象条件は、シーリング1,200フィート以上かつ視程3マイ ル以上であり、水平線が90度以上にわたって視認できる範囲が少なくとも2箇所なければならない。
訓練の危険度を判断するにあたっては、水温、シー・ステート(海面の風波状況を示す指標)及び海岸からの距離について考慮しなければならない。
上記判断基準は、下表のように類別できる。

PR磯及び訓練支援機の搭乗員は、線上訓練の実施に先立ち、「フィート・ウエット・チ ェック」と呼ばれる最終チェックを実施する。このチェックは、増槽タンクの移送機能の点検、正確な燃料量の読み上げ、及び各搭乗員用HEEDSボトルの作動状態の確認を行うものである。また、最終的な任務の確認、航法システム及び電波高度計の点検、及び航空機の高度・速度の修正量の確認も併せて実施される。

航空機が海上に墜落した場合、PR機の搭乗員には、次の表に示す情報(「エコー・レポート」と呼ばれる。)が通報される。

訓練支援機は、被救助者を海上に配置したならば、まずエコー・レポートを発信し、次に被救助者の上空1,000フィートにおいて旋回飛行を実施して、PR機が被救助者の位置を発見しやすいようにする。PR機が現場に到着したならば、訓練支援樵はその位置 から離れた待機地域へと移動する。PR機は、次の2つの捜索パターンのうちの一方を行って、被救助者を捜索する。1つめのパターンは、「集中捜索パターン」と呼ばれるものであり、通報を受けた墜落地点から、1マイルの足をいくつも延ばすように捜索するものである。2つ目のパターンは、「正四角形捜索パターン」と呼ばれるものであり、PR機は、直線飛行を実施した後、90度の旋回を繰り返す。この際、各旋回後の飛行距離は、前回の飛行距離よりも少しずつ長くする。いずれのパターンにおいても、捜索は、通報された 墜落地点から開始する。

夜間の場合は、被救助者を発見した後も、その上空で捜索のための飛行パターンと同じ 要領で飛行を継続する。その間に、被救助者は、ケミカルライトを着水した航空機の両側 に配置し、PR機がホイストや縄梯子を使用する際の参照点を確保する。これは、「Deploying a runway(滑走路の展開)」と呼ばれる手法である。被救助者は、負傷しているが意識を失っていない場合には、(可能な限り)4個のケミカルライトを配置し、水面に両手を広げて仰向けになる。負傷していない場合は、4個のケミカルライトを設置し、もう一つのケミカルライトを頭の上で振り、救助されるまで動かないようにする。

被救助者を回収する際に第1優先に使用する器材は、ジャングル・ペネトレータである。 (訳者注:ジャングル・ペネトレータとは、柱状の支柱の下部に2-3本の折りたたみ式 の脚が取り付けられた、レスキュー・ホイスト用救助器材である。被救助者は、脚にまたがって腰掛け、支柱を抱きかかえるようにして吊上げられる。フォーレスト・ペネトレータとも呼ばれる。)ジャングル・ペネトレータは、静電気を除去するため、被救助者が触れる前に海面に接水させなければならない。被救助者に意識がない場合は、メディック(救助員)が降下し、ジャングル・ペネトレータに被救助者を固定する。被救助者に意識がある場合には、脚部を広げた状態でジャングル・ペネトレータを降下し、被救助者が自らペネトレータへの固定を実施する。被救助者は、ジャングル・ペネトレータの脚部に腰掛け, ストラップを一旦取り外し、体の周囲を回してから再び取り付ける。

被救助者からメディックに「準備よし」の手信号が送られたならば、被救助者の吊上げを開始する。ホイストの荷重制限は、600ポンドであり、C中隊のSOPによる風速制限は20ノット(ガスト15ノット)である。OWPR任務を実施するためのホバリング高度は、通常、100フィートであり、最大パンク角は30度である。被救助者がホイストに吊り上げられている問は、最大風速が20ノット、最大降下速度が毎分1,000フィートに制限される。

ジャングル・ペネトレータが使用できない場合には、縄梯子を用いる。縄梯子も、ジャングル・ペネトレータと同様に、被救助者が触れる前に海面に接水させ、静電気を除去しなければならない。50フィートの縄梯子を使用する場合には、航空機のホバリング高度を30フィートにして、梯子の一部が水中に没するようにする。被救助者は、自分のベストからDリングを取り外し、梯子の横木に取り付ける。救助員は、被救助者を航空機に引き上げるか、又は被救助者が地面に接地した後に回収する。
梯子を使用する場合の風速制限は、梯子を水中に没した状態に保つことができるかどうかで決まる。被救助者が梯子に掴まっている状態での最大対気速度は40ノットであり、 被救助者が掴まっていない状態では、早足行進と同じ程度の速さになる。

海上において救助された搭乗員は、外見上全く問題がない場合であっても、確実な医療診断・処置を行うため、PR機に乗せられたままソウル市内の第121戦闘支援病院まで空輸される。

OWPR任務の遂行には、他の任務には見られない特異な鰯題に対する迅速な対処が要求される。C中隊は、常に細心の注意を払いつつ、OWPR訓練及び任務を計画・実行し、 海上対特殊作戦に伴う連用上のリスクの軽減に貢献している。C中隊のたゆまぬ努力は、 4-2戦闘へリ部隊のAH-64搭乗員の任務遂行問における柔軟性の保持及び不測事態発生時における平常心の確保に大きく寄与している。C中隊は、連日24時間態勢でMEDEVAC及びOWPR任務を実施している唯一の飛行中隊である。C中隊に所属する兵士たちのプロ意識とその能力が誇り高き「ダストオフ」の伝統を継承し、朝鮮半島の安定 に貢献しているのだ。

           

出典:Knowledge, U.S. Army Combat Readiness Center 2008年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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