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陸上航空(陸上自衛隊航空科職種)の教育訓練、運用、装備、安全等に関連する米軍情報の発信源

パワー・マネジメントの重要性

上級准尉2 エリック・B・バーネット

アフガニスタンへの展開に先立って、現地で必要となるパワー・マネジメントに関する訓練を実施していたことが、役に立った事例を紹介します。最高気温が摂氏32度、空は晴れ渡り、視程も良好な飛行日和の日に実施された任務でのことでした。後で変更となりましたが、当初予定されていた任務は、「アフガニスタン東方地域コマンドで実施されるミーティングに参加する将官の空輸」でした。現地における任務を開始してまだ間もない頃であり、その将官は、某統合作戦における住民との小競り合いの発生状況を把握しようとしていたのでした。住民の抵抗は、当初から予期されていたので、任務は計画どおり続けられていました。我々が搭乗する2機編隊のUH-60ブラック・ホークは、その将官がミーティングに参加している間に、数人の要員を乗せて、東方地域のバグラムまで往復する予定であったことから、満タン状態で準備されていました。いつものように慌ただしく昼食を食べていると、その将官の幕僚から電話がありました。「敵と接触中の地上部隊から、弾薬及び水の緊急輸送が要求されている」ということでした。このため、私の搭乗する航空機の任務は、「地上部隊に対するスピード・ボール(弾薬や水などの補給品を詰め込んだ遺体袋)の緊急輸送」へと変更になったのです。複数のスピード・ボールが機体に搭載されるとすぐに、パワー・コントロール・レバーを引き上げて離陸しました。搭載されたスピード・ボールは非常に重そうに見えたので、搭乗員に重量の見積を指示しました。彼らの見積では、合計2,000ポンド位だろうということでした。降着地域の高度は7,000フィートで、気温も高いことが予想されましたが、その重さであれば満タン状態であっても何とかなるはずでした。しかし、ホバリング・パワー・チェックを実施すると問題が発生しました。データ・シートの表を用いて算定したところ、機内搭載貨物の重量は、3,000ポンドを少し超えた値になったのです。ただし、計算上は、目的地までの間の燃料消費を考慮すれば、7,000フィートのLZに安全に着陸できるレベルまで航空機の重量が減少すると考えられました。

LZまで飛行する15分の間に、敵と接触中の地上部隊に対し近接航空支援を実施している2機のアパッチと無線で連絡を取りました。アパッチからは、「LZはまだチェリー(攻撃を受けている状態)であるため、進入を延期したほうが良い」という情報がありました。燃料を消費する時間が多いほどよかったので、「何も問題ない」と思いました。しかしながら、別な問題が知らされたのです。

アパッチからもたらされたのは、「LZの実際の高度は、8,500フィートだ」という情報でした。これでは、パワー・マージンがほとんどなくなってしまいます。安全に着陸するためには、航空機の重量をさらに減らす必要がありました。燃料の消費を増やすためにエンジン・アンチ・アイスをONにし、APUを始動しました。搭乗員からは、「重量を軽くするため、スピード・ボールをひとつ外に落とした方が良い」という提案もありました。

アイス(安全に着陸できる状態)であるという連絡を待ちながら周回飛行をしている間に、LZでの風向について、グッド・ニュースがありました。風は、進入方向に正対していました。LZの地形は、機首と右主脚の方が少しだけ斜面になっていましたが、特に問題とならないと思われました。データ・シートの表を使ってもう一度計算すると、ブラック・ホークが安全に着陸するために必要なパワーをかろうじて確保できそうでした。

アパッチから、「アイス」の連絡を受けると、地上部隊への再補給を開始しました。操縦は、機長が行っていました。私は、計器の監視と応急的に構築されたLZの両方に注意を分配していました。我々の機体は、理想的な速度及び高度で進入を開始しました。機長が「降下速度を落そう」と言った時、ローターRPMが下がり始めていることに気づきました。機外に目を移してから、計器に目を戻すたびにその示度が1パーセントずつ低下していたので、計器の読み上げを開始しました。ローターRPMが低下するに従って、私の緊張は高まりました。地面がどんどん近づいて来るように感じました。

対地高度約100フィートまで降下した時、低ローター回転の警報音が鳴り響きましたが、我々は着陸を継続しました。私は、「着陸の衝撃が大きいかも知れない」と考え、それに備えました。ローター回転を維持するため、機長がコレクティブを緩めると同時に、機体がIGE(イン・グランド・エフェクト)に入りました。着陸直前に生じたクッション効果により、これまでブラック・ホークで経験した中でも最も素晴らしい着陸ができました。機体の着陸姿勢が地形のわずかな傾斜と一致し、完全な「3点同時着陸」となりました。安全に着陸した我々は、地上部隊にスピード・ボールを卸下するように手を振って合図をしました。離陸時は、3,000ポンドも軽くなっていたので、全く支障がありませんでした。

アフガニスタンへの展開前に、現地で遭遇する可能性のあるパワー・マネジメントの問題に関する訓練を実施していたことが、非常に役に立ちました。我々は、全ての飛行訓練に併せて、重量の計算や表形式のデータの使用に関する訓練を行っていたのです。「高高度及び高温環境下における性能の把握」に熟練できていたことは、あの時、「素晴らしい着陸ができる」か、「悪夢の日を迎える」かの差をもたらしたし、これからもそうなるだろうと思っています。

出典:KNOWLEDGE, June 2016, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    「スピード・ボール」って、実戦的ですね。遺体袋に入っているというのが凄い。

  2. 管理人 より:

    「チェリー」と「アイス」という隠語を知っておくと、共同作戦で役立つかも知れません。




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