AVIATION ASSETS

陸上航空(陸上自衛隊航空科職種)の教育訓練、運用、装備、安全等に関連する米軍情報の発信源

TSAS

触感を利用したワークロードの軽減

ジョン・ラミッシオ
アート・エストラーダ博士
アンガス・ルーパート博士
米陸軍航空医学研究所
アラバマ州フォート・ラッカー

最近発生したある航空事故を調査した結果、SD(Spatial Disorientation, 空間識失調)による航空事故は、いかなる飛行部隊においても発生しうることが改めて明らかになった。残念なことに、これまで数多くのトップクラスの操縦士がSDの犠牲になってきたが、統計学的には、今後もSDに起因する事故が増え続けることが確実な状況にある。
 今日の陸軍航空科部隊においては、夜間、悪天候及び低高度における飛行が増加しているが、これらはすべてSDの要因となりうる。また、武力紛争の勃発は、SD事故を劇的に増加させる。「砂漠の嵐作戦」においても、イラクやアフガニスタンとの戦闘が開始されると同時にSD事故が急増した。イラクやアフガニスタンは、ブラウンアウト等のDVE(degraded visual environments, 悪視程環境)が発生しやすい環境にあったのである。一方、SDは、非戦闘状態における航空死亡事故の主たる原因でもある。任務の不履行、任務効果の減少、航空機又は航空器材の物的損害並びに搭乗員の死亡及び身体障害等の人的損失など、SDは大きな不利益をもたらす。
 DVE環境下においては、SDに関連する操縦士のワークロードが増大する。新型の航空機(改修された旧型機を含む)には、旧型の航空機よりも、DVE環境下での着陸に必要な情報を収集するためのセンサーがより多く装備されている。問題なのは、これらのセンサーにより収集された大量の情報をマルチファンクション・ディスプレイ(多機能表示装置)に表示させても、それを読み取る操縦士が、既にオーバーロード状態にあるということである。多くの操縦士が言及しているように、操縦が非常に困難なDVE状況下においては、これらのセンサーにより供給される情報が多すぎて、消化しきれない場合もある。
 数多くの航空機メーカー及び研究グループは、少しでも操縦士が見やすい形で情報を表示できる視覚表示器の開発に取り組んでいる。しかしながら、操縦そのものを自動化しない限り、ブラウンアウト等のDVE環境下での着陸には、得られた情報を操縦士に見せるのではなく、直感的・本能的に感知させることが必要である。
 USAARL(U.S. Army Aeromedical Research Laboratory, 米陸軍航空医学研究室)は、触感を利用して空間姿勢等の状況認識に必要な情報を操縦士に供給するTSAS(Tactile Situational Awareness System, 戦術状況認識システム)を開発中である。このシステムは、格子状に配置された触感生成器を軽量なクーリング機能付きベストに組み込み、体に接近した状態に保持できるようにしたものである。
 TSASは、航空機用センサー(データ・バス装備機の場合)又は専用内蔵センサー(データ・バス未装備機の場合)から、航空機の位置、速度、姿勢、高度及び敵情に関する情報を取得する。TSASの作動モードには、以下ものがあり、多目的表示装置のページと同様にそれぞれの飛行状態に応じて必要性の高い情報を供給するようになっている。
 ・ ホバー・モードでは、水平方向のドリフト速度及び昇降速度情報を供給する。
 ・ 前進飛行モードでは、高度及び姿勢情報を提供する。また、既存の航法表示器と同様の航法情報を供給する。
 ・ アプローチ・モードでは、対気速度低下情報に加えて、グライド・スロープ及びコース情報を供給する。
 ・ 脅威モードでは、操縦士が目視できない脅威の方向及び大まかな距離を操縦士に供給する。操縦士が機体を旋回・機動させても、触感生成器は相対的な脅威の位置及び距離に関する情報を継続的に供給する。敵の脅威下においても、操縦士が航空機の外を見ながら飛行することが可能となる。

 TSASは、CV-22,MH-47,MH-53M及びMH-60K用のシミュレータを用いた試験はもちろんのこと、UH-60A、MH-53M、及びカナダのベル205を用いた実機による試験飛行も完了している。これらの試験により、TSASは、視界不良時における計器確認の必要性を減少させ、操縦士のワークロードを軽減し、飛行安全を向上させる効果を有することが確認された。定性的及び主観的データにより、TSASがホバリング能力の向上に役立つことが実証されたのである。
 TSASは直感的に操作できるように工夫されており、操縦士はその使用法を短時間で修得することが可能である。操縦士が視覚的計器を使わなくてもホバリングできるようになるまでに、10分もかからないであろう。
最近のUSAARLの技術者による研究により、TSASを用いた方向情報を操縦士に供給すれば、例え疲労していても適切な操縦ができるようになることが実証されている。疲労は、多くのSDに起因する事故における副因のひとつであり、この研究結果は、航空事故を防止するための対策としてのTSASの有効性を示すものであると考えられる。

 NVGがより幅広く使用されるようになり、陸軍航空は、すでに「夜の征服」を宣言できる状態になっている。TSASがもたらす新しい技術は、新型センサーの開発とあいまって、DVE環境下における飛行の安全に大きく貢献してゆくことであろう。

出典:KNOWLEDGE, August 2009, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

コメント投稿フォーム




関連記事






コラム