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陸軍航空の情報センター

モロッコで発生したV-22死亡事故の原因は操縦ミス

日本の防衛大臣政務官に説明

リチャード・ウィッテル
2012年8月16日

mv-22-ospreys-japan

ワシントン:本ウェブ・サイト(ブレイキング・ディフェンス)が7月9日にお伝えしたとおり、4月11日にモロッコでMV-22Bオスプレイが墜落し2名のクルー・チーフが死亡した事故に関し、操縦していたパイロットがフライト・マニュアルに示された手順に反するなどの操縦ミスを犯していたことが海兵隊の調査により明らかになった。

ブレイキング・ディフェンスは、この事故に関するJAGMAN(法務総監マニュアル)報告書の要約を入手した。米国政府は、この報告書をもって、日本国民や日本政府にオスプレイが安全かつ有効であることを納得させようとしている。沖縄への24機のオスプレイの配備計画に反対する日本の抗議活動を鎮静化させるための日米両政府の活動の一環として、当該報告書の要約書を日本の防衛大臣政務官に提出したのである。

7月の本州の岩国海兵隊航空基地へのV-22の到着を出迎えたのは、数隻のボートに乗ったオスプレイ反対派たちのグループであった。また、沖縄県は、その航空機の配備に反対する決議案を議決していた。

本日、海兵隊総司令官ジェームス・アモス大将は、この問題に関する自らの個人的な見解を次のとおり表明した。

米軍における最先任の現役パイロットとして、個人的に断言する。日米同盟の航空能力を強化するために、この高性能な航空機を速やかにアジア太平洋地域に展開する以上に効果的な方法はない。

ブレイキング・ディフェンスが入手したJAGMAN(法務総監マニュアル)報告書の要約には、2名のパイロットに対する「行政処分または懲戒処分」は行わないとしたうえで、「コックピット内での一連の不適切な判断および対応」がその事故の発生要因であるとする補足意見が付記されている。

海兵隊は、金曜日にJAGMAN報告の全文(編集済み)を公表し、航空副司令官のロバート・シュミードル中将が国防総省で記者会見を行って当該事故に関する質問に答える予定である。

アモス大将は、火曜日に沖縄を含むアジア太平洋地域の視察から戻ったばかりであるとも述べた。その際、普天間海兵隊航空基地において、オスプレイに更新される予定のCH-46シーナイトでの飛行も行っていた。そして、オスプレイの安全性に関する日本の懸念に関連して、日本と協力して「その懸念を払拭しようとしている」と述べた。そのうえで、「MV-22Bの日本への展開および沖縄への配備は、米国が相互安全保障条約上の責務を果たすために不可欠であることを付け加えた。

オスプレイは、ヘリコプターのように離陸し、翼端に位置する2つの「ナセル」と呼ばれるポッドに取り付けられたローターを前方に傾けて飛行機のように飛行し、再びナセルを上方に向けて着陸することのできる航空機である。JAGMAN報告によれば、事故機のパイロットは、モロッコで実施された軍事演習において十数人の海兵隊員を沿岸の降着地域で卸下したのち、オスプレイを約20フィートの高さでホバリングさせ、直ちに180度の右旋回を行い、約46フィートまで上昇しながら5度の機首下げ操作を行い、ナセルを速度域に応じた制限を超えて前方に傾けた。当該パイロットは、また、背風を考慮する着意にも欠けていた。これらの要因により、当該機は、急激に機首を地面に向けることとなった。

報告書は、そのうえで、本事故の主因は、VTOL時のホバリング・モードおよび低速飛行に関するNATOPSの規定を逸脱したことにある、と結論付けた。NTOPS(Naval Air Training & Operating Procedures Standardization, 海軍航空訓練運用手順書)は、海軍および海兵隊で用いられるフライト・マニュアルの一般的名称である。また、VTOL(Vertical takeoff and landing)とは、垂直離着陸を意味する。報告書は、また、「180度のホバリング旋回を行うことにより、事故機は15~27ノットの背風を真後ろから受ける形になった」と述べるとともに、このことも、NATOPSの指示に反していると指摘した。

事故機の機長は、「前進飛行に移行しようした途端に機体の制御が不能になった」と述べている。パイロットのうちの1名(いずれのパイロットであるかは、報告書には明記されていない)は、「事故機の機首を押し下げる力が働いているように感じた」と述べている。

2名のパイロットの名前などはブレイキング・ディフェンスが入手した報告書からは削除されていたが、墜落時に操縦していた副操縦士のオスプレイでの飛行時間が160.1時間であったという記述が削除されずに残っていた。このことから、それほど経験が豊富ではないものの、十分に訓練されたパイロットであったと考えられる。

事故が発生したのは、昼間(現地時間15:35)であり、天候も良好であった、とJAGMAN報告は述べている。「事故機に要求されていたの全ての整備項目が完了しており、(天候も)安全上問題がなかった」

ノースカロライナ州ニュー・リバー海兵隊航空基地のVMM-261(第261海兵中型ティルトローター飛行隊)に所属していた事故機は、第24海兵機動展開部隊に配属され、「アフリカのライオン」と呼ばれるモロッコとの統合軍事演習に参加していた。強襲揚陸艦USSイオー・ジマ(LHD-7)を支援基盤としていた当該機は、その日、モロッコのタン・タン(Tan Tan)という町の近くにあるプラージュ・ブランチェ(Plage Blanche)と呼ばれる飛行場まで飛行した。事故が発生したのは、プラージュ・ブランチェから、その北にある大西洋に面した平地であるキャップドラ(Cap Drâa)まで、一度に12名の海兵隊員を運ぶ3往復の飛行を行っている最中であった。

「LZノース」と名付けられたその降着地域は、大西洋から切り立った崖の壁から662フィート離れた平地にある、408フィート×492フィートの長方形の地域であり、その整地された地面には小石が敷き詰められていた。その降着地域への最初の飛行においては、機長が操縦を行い、「LZノースに機首を330度の風の方向に向けて着陸した」と報告書は述べている。「LZ周辺にかなりの数の住民、テントおよび車両がある」ことを確認した機長は、プラージュ・ブランチェに戻るために離陸する際には、ホバリング後、進入してきた方向に機首を向けるように旋回してから、離陸することに決した。離陸時、機体をホバリング状態に浮かした機長は、ペダルを踏んで右に180度の旋回を行い、問題なく離脱した。「機体に何の異状も発生しなかったため、いずれのパイロットもこの機動に何か問題があるとは認識しなかった」と報告書は述べている。

プラージュ・ブランチェに向かう復路の間に、機長は操縦を彼よりも若い副操縦士に代わった。その副操縦士は、事故発生まで操縦を継続することになる。プラージュ・ブランチェで2回目の12名の海兵隊員を搭乗させ、LZノースで卸下した後、事故機のパイロットは、機長に対し、機長がその降着地域から離陸した時と同じ要領で離脱する、と報告した。機長は、「その判断に同意した」と報告書は述べている。

「事故機が地面から約20フィート浮かんだ時、(パイロットは)右方向に180度の旋回(機首を右、尾部を左に向ける操作)を開始した」と報告書は述べている。離陸10秒後、機体を所望の方向に向けた時、機体はすでに地面から46フィートまで上昇しており、機首が5度下に(一時的には10度下に)傾いていた、とパイロットは調査官に語った。副操縦士は、MV-22Bの TCL(推力制御レバー)についている小さなサムホィールを回転させ、ナセルの角度を下げ始めた。事故機のナセルは、3秒間で87度から71度に傾けられ、許容レベルを超えてしまった。

MV-22BのNATOPSには、「通常のホバリング高度に達したらならば、」操縦士は、「機首を水平に保つように、ナセルの角度を調整しなければならない」と指示されている。NATOPSには、また、「ナセルを前方に傾けるに従って、機体が機首下げ姿勢になる傾向がある。パイロットは、水平姿勢を保つように後方サイクリックをあてる必要がある」とも記載されている。「後方サイクリックをあてる」とは、操縦桿を引いて機首を上に引き上げることを指している。

ブレイキング・ディフェンスがかねてより報告してきたとおり、オスプレイのNATOPには、「離陸時にナセルを前方に過早に、かつ、過大に傾けた場合、急激な機首下げおよび高度低下が生じる可能性がある」という「警告」(負傷または死亡につながる可能性のあるリスクを強調するために使用される用語)も記載されている。MV-22BのNATOPSは、また、機体が降下しないために必要な揚力をローターに発生させるため、40ノット以下では、ナセルを75度以上に保つようにパイロットに指示している。

事故機のパイロットは、機首が前のめりになり始めたと気づくと、「サイクリック・コントロール・スティックを急激に左に動かしながら、最後方まで一杯に引いた」副操縦士が操縦不能になったことに気づいた機長は、自分自身でもコントロール・スティックを後方に引いたが、「すでに後方一杯に引かれている」ことが分かった、と報告書は述べている。離陸から15秒後、オスプレイは、機首をさらに下げ、45度から60度の角度で地面に激突した、と報告書は続けている。

「墜落直後に」大隊降着チーム1/2および戦闘兵站大隊24が「墜落した航空機に急行し、生存者の捜索を開始した」。誰かが2名のパイロットを引っ張り出して、機体から離れた場所まで運んだ。どちらのパイロットも負傷しており、海軍の衛生下士官が応急手当を開始した。

2名のクルー・チーフは、どちらもシート・ベルトを装着していなかった。それが彼らが死亡した要因であることは、明らかであった。

カリフォルニア州サンバーナーディーノ出身のロビー・A・レイエス伍長(25歳)は、前方クルー・チーフとして、広い後方キャビンの前方にあるコックピットのすぐ後ろのところに立っていたが、「頭部および胴体に複数の重大な負傷」を負った、と報告書は述べている。レイエス伍長は、残骸から引き出すことができなかった。1名の海兵隊員がレイエス伍長を救助しようとしたが、すでに死亡していることがすぐに分かった。

他の海兵隊員たちが後方クルー・チーフのニュージャージー州サーレム出身のデリク・A・カーンズ伍長(21歳)をキャビンの後方から引っ張り出そうとしたが、1本の太い「ガナーズ・ベルト」で機体に結ばれただけで後方ランプドアの近くに立っていた「一本気でおしゃべりな」カーンズ伍長は、わずか3マイル離れたところにある前方医療施設までモロッコのピューマ・ヘリで運ばれる途中で死亡した。カーンズ伍長が死亡したのは、現地時間17時30分、墜落から90分後のことであった。

カーンズ伍長の最終的死因は、装着していたガナーズ・ベルトの衝撃による腹部への外傷であったが、異なった種類のハーネスを装着していたり、何らかの方法で機体にベルトで固定されていたならば、死なずに済んだかどうかは不明である、とJAGMAN報告は述べている。

レイエス伍長とカーンズ伍長の死亡原因を踏まえ、主任調査官は、海兵隊に対し、飛行中にクルーチーフが立ち上がったり、歩き回ったりすることが本当に必要な場合について調査するように勧告した。オスプレイなどの大型ヘリコプターにおいては、クルーチーフがそのような行動をとる場合が多いのである。「本当に必要な場合以外は、搭乗員は4点式の安全ベルトを装着して着席すべきである」と報告書は述べ、「非戦闘状況下」において、キャビン内を動き回ることの必要性を検討するように海兵隊に促した。

その調査官は、また、「ガナー用ベルトの身体の動きを急激に止める際の衝撃を拡散するための形状についての検討」も行うように海兵隊に勧告した。「身体に対する衝撃を拡散できるような形状をしたガナー用ベルトを装着していれば、カーンズ伍長の負傷を大幅に軽くできた可能性があった」ためである。

第2海兵隊航空団を率いる、経験豊富なオスプレイ・パイロットであるグレン・M・ウォルターズ少将(コードネーム:ブルート)は、この報告書に対する公式の補足意見として、搭乗員の機内での移動に関する勧告を重視したい、と述べている。「回転翼機を装備するすべての部隊等において、どうしても必要な場合を除き、搭乗員が安全ベルトを装着して座席に座ることを徹底しなければならない」とウォルターズ少将は述べた。「このことは、非戦闘状況下での飛行や訓練飛行において、特に重要である」

JAGMAN報告の「事故防止方法に関する意見」には、その他の判明した事項として、次の事項が記載されている。

「事故機の副操縦士は、事故発生時にLZノースから離陸する際、風速を把握できていなかった」
「ホバリング旋回中に機首下げ姿勢になった時に、姿勢を回復できなかったことが状況を悪化させ、事故発生の要因を増加させた」
「事故機は、15~27ノットの背風でホバリングしている状況であるにも関わらず、ナセルを前方に傾け過ぎた」
第2海兵隊航空団司令官のウォルターズ少将は、この「事故防止方法に関する意見」に次の内容も含めるべきであると述べている。「事故機の副操縦士は、ペダルを踏んで旋回している間にナセルを後方に操作すべきであった。そうすることによって、サイクリック・スティックに十分な後方マージンを確保して、機首下げ姿勢から回復し、相当な背風を受けながらでも、エアクラフト・モードに移行できたはずであった」

第24海兵機動展開隊の指揮官であるフランク・ドノバン大佐は、その報告書の補足意見の中で、「負傷したパイロットが回復し、近い将来に一緒に勤務できる機会が得られることを願っている」と述べた。ドノバン大佐は、また、「レイエス伍長とカーンズ伍長を失ったことは、第24海兵機動展開隊にとって大きな損失である」とも述べた。どちらの隊員も優れた海兵隊員として高く評価され、我々の任務および部隊に大きな貢献をした隊員であった。

日本の防衛大臣政務官である神風英男は、日本の専門家チームの一員として、今週、ワシントンおよびノースカロライナ州ニュー・リバー海兵隊航空基地を訪問し、オスプレイおよびモロッコでの事故に関するブリーフィングに参加した際に、この報告書のコピーの提供を受けた。オスプレイ2個飛行隊を沖縄に配備するという海兵隊の計画に対する日本での反対運動のため、日本の専門家によるモロッコでの事故および6月13日に発生したフロリダ州での空軍用CV-22Bの墜落事故の原因調査が完了するまで、先月、日本に輸送された12機のMV-22Bを飛行させないことを米国は約束していた。

オスプレイについて議論するために8月3日に国防総省で開かれたミーティングにおいて、国防長官のレオン・パネッタは、日本の防衛大臣である森本敏に、米国は8月の末までに空軍の事故調査結果を日本に提供すると約束していた。

JAGMAN報告は、また、モロッコで失われたMV-22Bの調達時の価格は7300万ドルであったが、ベル・ヘリコプター・テキストロン社およびボーイング社の50対50のパートナー製造業者との現在の契約の下では「同様の装備を有する」機体を6400万ドルで調達することができる、と述べている。

                               

出典:Breaking Defense, Breaking Media, Inc. 2012年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    この記事は、オスプレイに関するノンフィクション「ドリーム・マシーン」の原著者であるリチャード・ウィッテル氏が、オスプレイ関係者にとって参考となる記事として紹介してくれた、いくつかの記事のうちのひとつです。他の記事についても、引き続き、翻訳・掲載してゆきたいと思います。

  2. 管理人 より:

    オスプレイの導入に関わっている者にとって、過去の事故事例から知るべきことは、「オスプレイは安全かどうか」なんかじゃない。「どうすれば安全を確保できるか」だ、と思います。