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陸軍航空の情報センター

定量的な危険見積の実施について

少佐 カーティス・アレクサンダー
第204中型ティルトローター訓練飛行隊(VMMT-204)

Quantitative Risk Assessment
VMMT-204が用いている危険見積ワークシートは、危険因子が存在する任務を遂行しなければならない海軍および海兵隊の隊員に対し、最良の危険見積手順をもたらしている。(提供:カーティス・アレクサンダー少佐)

1970年11月21日、米空軍と米陸軍は、北ベトナムのソンタイ捕虜収容所から61名の捕虜を救出するための統合作戦を実施した。それは、非常にリスクの大きい作戦であった。要塞化された敵陣地にヘリコプターで突入し、まるで意図的に墜落するかのような強行着陸を行わなければならず、かつ、失敗した場合の救援処置は望めなかった。

このソンタイ急襲作戦の飛行に関する危険見積は、どのようなものだったのであろうか?計画によれば、その飛行は、余りにも危険すぎるものであったと言っても過言ではない。作戦遂行に不可欠な危険因子の危険性を軽減するために、講じられた対策は、次のようなものであった。
・志願した隊員のみで任務を遂行すること
・エグリン空軍基地において、実物大の施設を用いた予行を行うこと
・「バナナ・ワン」と呼ばれる、意図的な墜落を行う1番機のヘリコプターの床にマットレスを縛着すること
・隊員にソンコン川からの襲撃に対する最終防御要領を敵部隊を制圧するまで周知しないほど、情報管理を徹底すること

軍のリーダーであれば、誰でも何らかのリスクマネジメントを行っている。その対象は、日々の飛行任務かも知れないし、斥候として攻撃開始線を超越することかも知れないし、あるいは、国家レベルの任務を遂行することかも知れない。ソンタイ急襲作戦の場合、計画を立案したのはアーサー・D・サイモンズ大佐であり、HH-3Eを捕虜収容所の壁の内側に正確に墜落させたのはハーブ・カレン少佐であり、そして、その作戦とそのための危険見積を承認したのはニクソン大統領であった。

ある軍事目的を達成するため航空機を意図的に墜落させたこのケースは、非常に極端な例ではあるが、そこには適切な危険見積の実施手順が存在していた。パイロットである我々には、任務の遂行にあたって、危険を予測、特定および軽減したうえで、その承認を受けることが常に求められている。そして、その過程における手順は、当該パイロットが所属する部隊の任務、恒常任務の危険度、および飛行要領により異なったものとならざるを得ない。

近年の駐屯地を基盤とした運用から海外派遣における運用への移行により、それが諸軍種の統合作戦であろうとも、あるいは、諸外国との共同作戦であろうとも、飛行部隊の運用は、より複雑なものへと変わってきている。重要なことは、あらゆる状況に適合する最良の危険見積の実施要領は存在しない、ということである。より良好な成果を得るためには、ある特定の任務に適合するように実施要領を修正したり、過去に類似した任務を遂行した他部隊の実施要領を適用したりすることが必要なのである。

この考え方を既に導入しているのが、MV-22オスプレイを保有する艦隊対応飛行隊(Fleet Replacement Squadron, FRS)である第204海兵中型ティルトローター訓練飛行隊(Marine Medium Tiltrotor Training Squadron-204, VMMT-204)なのである。VMMT-204は、米空軍、米海軍、米海兵隊、そして日本の自衛隊など、世界中の部隊のティルトローター・パイロットを育成している、非常に珍しい部隊である。諸兵科連合が必要な環境に置かれてきたこの部隊は、技術を標準化し、複数の軍種の意見を比較する機会に恵まれてきた。このため、危険の認識、分析、軽減およびそれにかかわる意思疎通の深化が図られてきたのである。

VMMT-204は、指揮系統上、ニュー・リバー海兵隊航空基地第26海兵航空群(Marine Aircraft Group-26, MAG-26)およびチェリー・ポイントの第2海兵航空団(2nd Marine Aircraft Wing, 2ndMAW)の隷下部隊である。その危険見積の実施については、第2海兵航空団による指揮・指導を受けてきた。しかしながら、飛行時間ゼロの学生、蓄積する慢性的疲労、練度向上の要求、規定ギリギリの気象、高度な訓練内容など38項目の特別な危険因子が存在するこの飛行隊は、その指揮・指導だけでは十分にその問題を解決できていなかったのである。

もう一つの問題は、危険度を低レベル、中レベル、高レベルの3段階に区分するという一般的な手法にあった。ある一つの危険因子が中レベルだと判断されると、その飛行全体が中レベルのカテゴリーに属するものとして扱われてしまっていたのである。このため、複数の中レベルの危険因子が累積しようとも、あるいは、その危険度を軽減する処置が施されたとしても、その扱いが変わることがなかった。定量的危険見積を導入する以前は、2016年度に実施した2,200回の飛行のうち1,375回(62.5パーセント)は、飛行の24時間前の時点で中程度の危険度であると判断されていたのである。例えば、管制圏内における局地飛行のような、ごく標準的な任務に関する危険見積であっても、その結果を「中レベルの危険度」まで自動的に押し上げてしまっていた。

この状態を改善するため、低レベル、中レベルおよび高レベルの指標を累積的かつ定量的なものに改めた。各レベルに数値的なしきい値を設定することにより、低レベルの危険因子が累積すれば中レベルであると判断し、あるいは、中レベルが累積すれば高レベルであると判断するようにした。これにより、一つの中レベルの危険因子が存在するだけで、飛行全体が中レベルと判断されることがなくなった。さらに、季節、学生の練度、人的要因などの環境の相違に応じた統計学的な危険見積を実施できるようになった。この手順で得られたデータにより、危険因子の傾向および将来予測される傾向の根本的原因を分析し、あるいは、事故の防止および危険性の軽減を図ることが可能となったのである。

定量的危険見積の目的は、危険見積を実施する者による判断の偏りを防止し、客観的な見積を行うことにより、指揮官によるリスク把握を容易にすることである。

2016年8月以来、VMMT-204で有効に機能してきたこの手法は、既に空軍のCV-22飛行隊でも採用されている。VMMT-204においては、38項目の固有の危険因子が存在するにもかかわらず、中レベルと判断される飛行が10パーセント程度まで減少し、中レベルの危険度の任務に対する、それまでの不適切な認識が改められたのである。

各飛行部隊には、それぞれの特性があり、ある特定の事象に対する危険レベルの判断が部隊によって異なる場合がある。あるMV-22が高度200フィートを240ノットで飛行することは、別の部隊のMV-22やその他の機種が同じ要領で飛行するよりも、危険度が高いと判断される可能性もあるし、そうではない可能性もあるのである。部隊等が定量的危険見積を導入する際には、まず、当該部隊の任務、「恒常」任務の危険度、および飛行要領を把握しなければならない。既存の危険見積要領がこれらの要素のいずれかと整合していない場合は、指揮官の指導を受けたうえで危険見積の要領を修正または調整するか、もしくは、定量的危険見積の導入を検討すべきであろう。

ソンタイ急襲作戦の際にニクソン大統領が承認した危険見積がそうであったように、危険見積というものは、任務を正確に反映し、承認権者によるリスク把握を容易にし、搭乗者間に議論を提起して、危険因子の軽減をもたらすものでなければならない。そして何よりも、危険見積は安全性を向上させるためのツールとして機能しなければならない。任務を正確に反映できていない危険見積では、意味をなさないのである。

                               

出典: 360°SAFE, Naval Safety Center 2017年12月

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備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    VMMT-204でMV-22Bオスプレイの操縦などを学んでいる陸上自衛隊の隊員たちは、きっと米軍の危険見積にも新しい風を送り込んでいるに違いありません。頑張れ!

  2. 管理人 より:

    本記事においては、リスク・アセスメント(Risk Assessment)を「危険見積」、リスク・ファクター(risk factor)を「危険因子」と訳してみました。どちらについても、これで良いのか迷っています。ご意見がありましたら、ぜひお寄せ下さい。