AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

止まれ!

上級准尉3 ジェイ・S・バーレソン
第2ー238全般支援航空大隊C中隊
インディアナ州シェルビーヴィル

イラクに派遣された患者後送ヘリのパイロットだった私は、非常に困難な、時には恐ろしい状況に飛び込み、そこを潜り抜け、そこから脱出してきました。バクダッドの戦闘支援病院までの患者空輸を実施中、多くの飛行任務の中のひとつに過ぎない、いつも通りの任務だとたかをくくっていた私は、まさにそういう経験をすることになったのです。

当然のことですが、我々は、昼夜を問わずいつでもあらゆる任務に対応できるように準備していました。ディーワーニーヤにあるFOB(Forward Operating Base, 前方運用基地)から出発し、バグダッドのCSH(Combat Support Hospital, 戦闘支援病院)まで患者を運ぶという恒常的な任務は、もう少しで異状なく完了しようとしていました。昼間の飛行だったので、通りすがりに景色を見たり、村人たちに手を振ったりしていました。その頃すでに習性化されていたとおり、任務を担当するATC(Air Training Command,航空輸送司令部)に通報し、そこから指示された飛行経路を飛行していました。母国で飛行するのと、ほとんど変わりがないように感じていました。

長機(任務は、常に2機編隊で行われていました)に搭乗していた私は、CSHの手前3~5マイルで2番機に速度と高度を下げることを連絡し、着陸進入を開始しました。当然のことですが、そのためにコレクティブを下げました。それから、速度と高度を所望の値に安定させるため、パワー(コレクティブ)を少し戻しました。その時、良くない事態が起こり始めたのです。コレクティブが引けないのです。「ヤバイ!」 無線通話を行っている副操縦士に、「フリクションをかけていないか?」と聞きました。飛行中の振動でコレクティブが徐々に下がることを防止するために、コレクティブを固定することがあったからです。副操縦士は、「かけていません」と言いながら、念のためにそれを緩める方向に回しました。私は、もう一度コレクティブを引きました。今度は、問題なく動きました。CSHの手前0.5マイルに達すると、着陸前の最終的な速度と高度を2番機に無線で連絡しました。速度と高度を下げるため、再び、コレクティブを下げました。前回と同様に、所望の速度と高度に達すると、コレクティブを引き始めました。ところが、また動かないのです。振動を与えながら、引き上げようとしましたが、だめでした。

高度が地上100フィート以下になり、あっという間に地面が迫ってきました。ご存知の方もいると思いますが、バクダッドCSHのヘリ・パッドの地積は、4機のブラック・ホークが2列縦隊で着陸するだけしかありません。さらに悪いことには、Tウォール(下側がT字型に広がったコンクリート製の仮設壁)で囲まれていたのです。これは、大変な問題でした。機体は、パワーをコントロールできないまま、地面に向かって落下してゆきます。この種の緊急事態については、ブラック・ホーク操縦課程で訓練していましたが、それにはもっと長い滑走距離が必要でした。私は、搭乗員に対し緊急事態を宣言するとともに、ショルダー・ハーネスを固定しショックに備えるように指示しました。着陸の寸前に機首を上げ、速度を利用して降下を止めるとともに、その反動で速度を下げようとしました。機体は、奇跡的にほとんど衝撃を受けることなく地面に接地しました。しかし、機体は、まだ前進し続けていました。お分かりのように、Tウォールの存在が、好ましくない事態を引き起こそうとしていたのです。ペダルの上に立ち上がるようにしてブレーキを踏み込むと、機体は、Tウォールの数フィート手前でやっと停止しました。停止後、すぐに副操縦士のコレクティブを確認すると、収納場所から落ちたNVG(暗視眼鏡)が、コレクティブに挟まり込んでいたのです。私と副操縦士は、「今後は、物品の収納にもっと注意を払うようにしよう」という熱心な議論を交わしました。フォート・ラッカーの操縦課程で、最も強調されたことのひとつは、「細部をおろそかにしない」ということでした。あの日、細部をおろそかにしたことが、大きな災害をもたらすところだったのです。私がこの物語を書けているのは、「母なるラッカー」の偉大な教官たちのおかげだと感謝しています。

           

出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年03月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    ひょっとすると、原因不明の事故の原因は、案外こんなことだったのかも知れません。

  2. 管理人 より:

    「熱心な議論」って、、、どんな風だったのでしょうか。