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陸軍航空の情報センター

「IMCに入ってしまった!」

ロバート・A・ブルックス

陸軍の回転翼機パイロットにとって、これ以上に不安を引き起こす言葉はないと言ってよいでしょう。パイロットのレベル(熟練者、教官、計器飛行検査官、機長、または初心者)のいかんにかかわらず、雲に突然入ってしまうことは、計画されたIFR(instrument flight rules, 計器飛行方式)飛行とは異なる、多くの問題を引き起こします。過去に発生したIIMC(inadvertent instrument meteorological condition, 予期していなかった天候不良等による計器飛行気象状態)関連事故を分析すると、この問題の重要性が浮き彫りになります。

陸軍の回転翼機では、1974年1月から2002年8月までの間にIIMCによるクラスAからクラスCの事故が60件発生しています。そのうち54 件(90%)がクラスAの事故でした。そのうち過去8年間に発生したIIMC事故は10件でした。機種別の発生件数は、AH-64が4機、OH-58が3機、UH-1が1機、UH-60が1機、MH-47が1機でした。これらのうち2件を除く事故が夜間に発生しています。

このようにIIMCは重大な事故につながります。そのことが、IIMCに陥ったパイロットたちを一層不安にさせているのです。

過去8年間のIIMC関連事故(2002年時点)

予防策

この種の事故をなくすために何ができるでしょうか?そのためには、個々のパイロット、教官/計器飛行試験官、機長といった複数のレベルでの対応が必要になるでしょう。

パイロットが行うべきこと

個々のパイロットは、次のことを心がける必要があります。
■ 最低限ではなく、「非常に優れた」計器飛行練度を維持すること。
■ 自分の能力に十分自信が持てるまで計器飛行を演練すること。
■ IIMCに陥った場合の手順を理解し、実践すること。そのためには、その手順の高度、機首方位、航空管制周波数、航法用周波数および識別を記憶しておかなければなりません。それらはアプローチ・プレート(IFR飛行中にパイロットが使用する、計器進入手順を印刷またはデジタル表示したチャート)にも記載しておきます。
■ 危険見積に際しては、危険要因の組み合わせによっては個々の危険度の合計値以上にリスクが増加する可能性があることを認識すること。
■ 特に夜間飛行においては、地形の識別が困難なルートを避けること。
■ NVGまたは夜間暗視システムを使用した飛行中は、それらのみを使用した飛行の継続を避けること。(NVGまたはシステムの下側の隙間を通して)定期的に肉眼での視程を確認してください。視界が限界値を下回った場合は、そのまま航行を続けることなく、天候に応じた状況判断を行う必要があります。
■ 飛行中は、特に視程およびシーリングに関し、継続的に状況判断を行うこと。天候が悪化し始めたらならば方向転換を行うべきです。
■ 方向転換しても状況が改善しない場合は、着陸して天候回復を待つこと。
■山岳地帯では天候に挑戦しようとしないこと。峠の反対側まで行けば天候が回復するという保証はありません。
■ 航法基地局を民間無線局ではなく航法局にチューニングすること。
■ 雲中に入ってしまった場合は、VMCに復帰しようとしないこと。IMCへの移行を躊躇すべきではありません!これがIIMCに陥った場合の最も重要な回復手段です。そのための訓練を受けてきたはずです。それを実行しましょう!

教官が行うべきこと

操縦教官/計器飛行試験官は、次のことを行うべきです。
■実機による夜間の計器飛行訓練を実施すること。それは、パイロット間の連携を不可欠にするとともに、計器以外の視覚的な手がかりを排除することができるからです。
■ 特に観測ヘリコプターや攻撃ヘリコプターの計器飛行資格の更新に際しては、IIMCを想定した状況を付与したうえで検定を行うこと。
■ 飛行場へのアプローチだけでなく、ファイナルでのレーダー誘導にも習熟しておくこと。
■ 地域ごとに定められたIIMC手順に従って訓練を行うこと。それは、パイロットおよび管制官の双方に有益です。
■ 計器飛行資格の検定は、困難かつ現実的なものにすること。それが、パイロットの自信を深めることに繋がります。昔ながらの「地獄の計器検定」は、パイロットの自信を養うのにはあまり役立ちません。
■ パイロットおよびそれ以外の搭乗員に視程の推定方法を指導すること。たとえば、1/2マイルの視程と1マイルの視程の違いは何でしょうか?
■ 適切なクルー・コーディネーションおよび相互連携を強化すること。

指揮官が行うべきこと

指揮官は、次のことを行わなければなりません。
■ フードを装着した訓練飛行を夜間に行わせること。
■ 天候に挑戦しようとしないことを徹底すること。パイロットが最低気象条件を把握し、悪天候遭遇時の対処要領を計画していることを確認しなければなりません。
■ 部隊の危険見積の手順に、利用可能なIMC回復手順に関する事項が含まれていることを確認すること。
■ 訓練の想定には、可能な限り、計器飛行を含めること。例えば、部隊訓練終了時に、一部またはすべての航空機が計器進入を伴うIIMCからの回復手順を行うように計画します。
■ 航空機による「ウェザー・チェック」は行わないこと。
■ 天候が不安定な場合には、各人の具体的な役割についてブリーフィングを行わせること。
■ 視界不良状況下での複数機の運用手順を確立すること。
■ 最低気象条件以下であると判断したパイロットを非難しないこと。
■ パイロットの経験を適切に判断すること。パイロットたちは、現地の気象状況に対応できるだけの経験を有していますか?そうでない場合は、夜間任務のシーリングおよび視程を制限すべきです。
■ 自らが模範を示すこと。指揮官が天候に挑戦すれば、すべてのパイロットが天候に挑戦するようになるものです。
■ 最低限の練度ではなく「非常に優れた」計器飛行練度を有する指揮官であること。技術的に熟練した指揮官であるかどうかは、部下からの評価に大きく影響します。

前述のとおり、IIMCによる事故の大部分は夜間に発生しています。総飛行時間に占める暗視装置を用いた飛行の割合は、長年にわたって増加し続けてきましたし、今後も増加し続けます。夜間飛行の増加に応じ、我々航空科職種には、人命および装備に大きな損害をもたらす事故を減らすため、可能な限りの努力を続けることが求められています。

IIMCは「カジュアルなパーティー」に突然招待されるようなものです。それに対応できるかどうかは、そういったことに熟練し準備ができているかどうかで決まります。準備ができているかどうかは、自分自身が一番良くわかっているはずです。雲の中に入ってしまってから、「ここから抜け出せたたならIIMCへの対応を訓練しよう」と思っても遅すぎるのです。

ロバート・A・ブルックス、アメリカ陸軍安全センター運用部、DSN 558-9860 (334-255-9860)、robert brooks@safetycenter.army.mil

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2002年09月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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