「鳥だ!」

私たちはニューヨーク市のヘリコプター飛行ルートの1,500フィート弱の高度をロングアイランド南岸に沿って西方向に飛行していました。澄み切った空気の中、約20マイル先のまるで絵画のような美しい街並みや青い空にそびえ立つビル群が手に届きそうに感じられました。地平線近くで太陽がゆったりと舞い、ピンク、紫、青の光線を放っていましたが、私たちの視界を妨げてはいませんでした。日没までにはまだ2時間あり、余裕を持って基地に戻れるはずでした。
無線は静かで、システムは正常、大西洋は下方に見える人けのない白砂のビーチに向かって穏やかに波打っていました。その時、「鳥、11時の方向」と左席のパイロットが淡々と声を発しました。右席のパイロットは「了解」と応じ、滑らかなサイクリック操作で機体を1時方向に向けました。突然、マンハッタン中心部の高層ビル群からヘリコプターに向かって飛び出してくるものが見えました — 「鳥だ!」ヘリコプターは90度近くまで傾きながら左に急旋回しましたが、それを避けるには十分ではありませんでした。バン!ドン!ガツン!そして、静寂が訪れました。
すべてのシステムは正常で、機体姿勢にも変化がなく、目に見える損傷もないようでした。飛行を続けながら、計器を監視し、操縦装置の反応を確かめました。我々は、予定していた給油地点までの飛行継続を決定しました。着陸後、機体を点検し、上級司令部に事故を報告し、基地への帰投許可を得ました。
帰投後の点検でも、機体に損傷は確認されませんでした。ただし、ローター・ブレードの1枚に血や内臓などのベトベトした物質が付着していました。やはり、バード・ストライクだったのです。私たちは、またしても同じ空を飛ぶ仲間を天国へと送り出してしまったのでした。
バード・ストライクまたは野生動物との衝突は、陸軍機と民間航空機の双方にとっての重大な懸念事項です。FAA(Federal Aviation Administration, 連邦航空局)によると、米国内での2022年の民間航空機における野生動物との衝突は、17,000件以上にのぼりました。この数字は、米陸軍の事故情報データベースから収集した統計と比較すると、驚くほど高くなっています。8年間(2010年から2018年)で、陸軍の回転翼機におけるバード・ストライクは41件でした。もちろん、これらは機体が損傷し、報告された事例です。ニアミスや軽微な損傷、あるいは無傷だった事例については報告されないため、その件数を確認することができないのです。
FAAの報告によると、米国における民間商用機のバード・ストライクのうち92%は対地高度3,500フィート以下で発生しています。例えば、USエアウェイズ1549便は、高度約2,900フィートでガンの群れに衝突し、両エンジンが停止してハドソン川に緊急着水しました。大型旅客機を墜落させることができる鳥にとって、ヘリコプターを撃墜するのはいとも簡単なことです。ヘリコプターの飛行速度はずっと遅いので鳥を発見して回避できる可能性は高まりますが、その運用高度はほとんどの場合、問題となる「92%」の領域である3,500フィート以下です。
陸軍が「対等またはほぼ対等な敵」との将来作戦を検討する中、確実なことが1つあります。対空脅威の高度な発達により、ヘリコプターはより低い高度で任務を遂行する必要があるということです。陸軍のパイロットは、谷、河川、樹木、そして鳥類により近い高度での飛行を余儀なくされます。そうです。任務計画を策定するにあたって鳥を考慮することが、これまで以上に重要になる可能性があるのです。パイロットは、鳥の影響を常に意識し、任務を慎重に計画・実行する必要があります。過去の統計では大きな事故が少ないかもしれませんが、それに関連する損害額は無視できません。作戦環境が変化する中、陸軍のパイロットには人命の損失を避けるだけではなく、限られた運用および財政資源を無駄にしないことが求められるのです。
新しい作戦環境に適応しつつ、バード・ストライクを増加させないために、パイロットが行うべき簡単な手順がいくつかあります。まず、航空運用施設から提供されるNOTAM(航空情報)に注意を払うことです。多くの場合、NOTAMには鳥の移動に関する情報が記載されています。これにより、計画された飛行ルートにおける鳥の活動を予測することが可能になります。また、搭乗員ブリーフィングの内容には、鳥に遭遇した場合の行動を含める必要があります。さらに、見張り方向の分担、回避操作、そしてバード・ストライクが発生した場合の対応についても話し合っておくべきです。
加えて、鳥の活動が最も活発な時期についても把握しておく必要があります。FAAによると、報告されたバード・ストライクの過半数が7月から10月の間に発生し、その大半は日中に発生しています。夜間に発生したバード・ストライクは約30パーセントです。自身の安全を確保するため、飛行中はヘルメット・バイザー(クリアまたはシェード)を下げ、顔面シールドを着用すべきです。これにより、バード・ストライクによってコックピットが損傷した場合でも、負傷する可能性を減らすことができます。最後に、ニアミスや軽微なバード・ストライクについても、安全担当者に報告すべきです。そのことは、事案発生の傾向を追跡し、それを回避するための戦術、技術、手順を開発して、空をヘリコプターと鳥類の双方にとってより安全な場所にすることにつながるのです。
参考: FAAによると、渡り鳥とのバード・ストライクが発生しやすいのは、3~4月と8~11月の期間であるとされています。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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