FVL(将来型垂直離着陸機)プログラムの現状
FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)担当のTCM(TRADOC Capability Manager, TRADOC装備マネージャー)は、国防総省による将来型垂直離着陸機ファミリー全体の装備体系の構築に関し、運用者を代表してその要求事項を管理を行っている。FVLとは、2030年以降の統合軍用機を確保するため、将来型垂直離着陸機に関する装備上の要求事項と実行可能な解決策を策定する「国防総省の統合的プログラム」である。FVLは、その統合軍用機への更なる速度、航続距離、ペイロード、耐久性および状況把握能力の付与を狙いとした、まさに「統合的」な挑戦なのである。我々は、陸軍航空教育研究センターのCDID( Capabilities Development and Integration Directorate, 装備開発及び統合部局)所属の陸軍TCMとして、運用上の要求事項に関し、米陸軍、海兵隊、海軍、空軍、沿岸警備隊および米国特殊作戦コマンド間の調整を図っている。米国全軍種は、国家軍事戦略を具現するため合計6,400機以上の垂直離着陸機を保有しているが、異なった任務を遂行する各軍種はそれぞれが異なった装備を保有している。現行の各装備は、今後15年から50年の間に更新が必要となることから、2009年に開始されたのがFVLプログラムである。
本プログラムの目標
FVLプログラムは、6つの主要な目標を有している。統合軍の垂直離着陸装備の更新、国防総省装備品の能力の向上、必要な軍用装備品の適時の装備化、現在及び将来の技術革新の適時の適用、各軍種間にまたがる事業の継続的な調整、および行政及び企業のS&T(science and technology,科学技術)要員の維持・拡大である。FVLは、米軍兵士だけではなく、国防総省の技術者、プログラム・マネージャーおよび業界パートナーにとっても絶好の機会となっている。なぜならば、ROMO( Range of Military Operations, 軍事作戦領域)全域における任務遂行要領を改革し、大幅に改善する前例のない装備がもたらされようとしているからである。FVL機は、V-22オスプレイ開発以来、「白紙状態」つまりゼロから設計する初めての垂直離着陸機となる。
装備システム
このプログラムは、我々陸軍航空に対し、統合軍全体の開発担当者で構成されるRIPT(Requirements Integrated Product Team, 要求事項統合プロダクト・チーム)を統制するという前例のない機会を与えている。そのチームは、毎年およそ5回のRIPTワーキング・グループを主催し、FVLのFoS(Family of Systems, システム・ファミリー)開発事業の推進を成し遂げてきた。統合FVL将官ESG(Executive Steering Group, 執行運営グループ)は、各軍に統合垂直離着陸機として計画されている装備システムのうち、最も大きな比重を占めるものの整備に着手するように指示した。陸軍や統合軍の大多数にとって、その装備システムとは、中型機システムを構成するCS3(Capability Set 3, 装備システム3)を意味する。CS3機は、ブラック・ホーク、アパッチ、コブラ、ヒューイといった現行機種を更新することになる。RIPTは、CS3要求事項の洗練に加え、陸軍プロジェクト・マネージャおよびAPT(Acquisition Integrated Product Team, 調達統合プロダクト・チームによるCS3のMDD(materiel development decision, 装備開発決定)通過を支援した。このことは、FVLが将来のプログラムとして正式化され、調達の準備、工学的設計の作業、および要求事項の決定が順調に進行していること意味する。FVLのTCMは、現在、陸軍・海兵隊分析機関および統合戦闘員たちと緊密に連携しつつ、AoA(Analysis of Alternatives, 代替案分析)を実施して、ライフ・サイクル・コストを含めた費用対効果上、各FVLの候補案がそれぞれの代替案に比べて、どの程度の有用性を有しているのかを判定しようとしている。この分析により、要求事項がさらに洗練されるとともに、TMRR(Technology Maturation and Risk Reduction, 技術成熟およびリスク低減)調達段階で必要となるDCDD(Draft Capability Development Document, 装備開発書草案)起案の基礎となる事項が得られるであろう。
装備の改善
FVLは、いくつかの主要な分野において、現行の垂直離着陸機からの大幅な改善が期待されている。CS3は、UH/HH/MH-60Mブラック・ホークおよび海兵隊のUH-1WベノムとAH-1Zバイパーの更新にあてられる。その際に追加される機数や任務は、現在検討中であるが、性能の分野においては、3つの顕著な向上が期待できる。①230ノット(時速425キロメートル)以上の速度、 ②225海マイル(415キロメートル)以上の運用行動半径、③内部ペイロードの増加、である。
FVLは、これまでの陸軍航空機がほとんど有していなかった空中給油能力を持つことになり、戦略的レベルの航続距離が得られるようになる。CS3には、自己防護装置としてCDA(cognitive decision aiding, 認識決断支援)が装備され、搭乗員が航空機を運行し、任務を遂行しつつ敵の脅威の認識・交戦・回避を行うのを自動的に援助する。センサー情報を空中、地上および海上の各種装備品とリアルタイムに共有するため、部隊レベルで再プログラミングが可能なセンサーとジャマーを用いるとともに、CDAコンピューターと統合COP(Common Operating Picture, 共通作戦図)を自動的に取り込んだ秘匿データベースに機上および地上においてアクセスできるようにする。さらに、統合全天候/悪視程環装備がもたらす生存性の向上により、統合軍は、運用の時期と場所の自由を獲得する。
維持整備に関しては、より故障が少なく、予防整備も少ない高信頼性を有する構成部品を使用するように設計される。また、特別な技術や支援器材をほとんど必要とせず、修理が容易にできるように設計されるので、これまで以上に部隊の分散や前方整備を追求できる。さらに、共通のマニュアルおよび手順書を制定することより、ある軍の航空機を他の軍でも同じ手順で修理でき、各軍が完全な相互運用性を持つことができると考えられている。
その他の向上分野としては、次の事項がある。任務システムとの「プラグ・アンド・プレイ」を可能とするMOAS(Modular Open Architecture System, モジュラー・オープン・アーキテクチャ・システム)、能力向上型拡張可能兵器システム、統合共通作戦図、および電力の再生・地上状況の把握・ヘリボン部隊の搭乗スペースの向上、である。
FVLを装備した統合軍の地上部隊指揮官および上級戦闘部隊指揮官は、より能力の高い戦術的兵器システムを用いることにより長距離の自己展開および運用機動が可能となる。現有機種を遥かに超える能力は、将来の対抗部隊に対して、運用・戦術上優位に立ち、複合的なジレンマを与え続けることになろう。
FVLを装備した戦闘航空旅団は、200マイル(320キロメートル)以上離れた目標に対し、地形、高度、温度、気象および視程の制限を受けることなく、軽旅団戦闘チームのヘリボン作戦を遂行できるようになる。
FVLにより、陸軍、統合軍および同盟国軍にもたらされる機動力、防護力、戦闘力は、現在及び将来の敵性勢力に対する非対称な優位性を維持する。FVL事業は、その当初の段階から統合的事業であり、国防総省と陸軍の航空近代化のための最優先課題のひとつとして、非常に重要な将来的国防プログラムに位置づけられてきた。国防戦略上、国防総省や統合戦闘員が要求しているのは、展開完了後に直ちに兵力を投射できる即応性と展開性を有する機動部隊であり、FVLは、そのために必要不可欠なプログラムなのである。
陸軍大佐アースキン・R・ベントレーは、アラバマ州フォート・ラッカーの米陸軍訓練教義コマンドのFVL(Future Vertical Lift,将来型垂直離着陸機)担当装備マネージャーです。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2017年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
複合ヘリコプターとティルトローターのどちらが採用されるか楽しみです。
マニアの素人考えですが、二者択一というよりは用途に応じた使い分け、もしくはサイズに応じた棲み分けに落ち着くのではないかと思います。
確かに、そうあるべきなのかも知れません。ただし、コストが問題になりそうです。