アパッチに搭乗中の操縦士が負傷した兵士を救助
6月30日、イラク国内において戦闘行動に参加していた第36戦闘飛行旅団所属の操縦士2名が、自らの危険を顧みない驚くべき方法でAH-64Aにより負傷した兵士を病院まで空輸することに成功した。
第149飛行連隊第1大隊(戦闘)B中隊のケビン・パーテイル上級准尉(テキサス州ヒューストン出身)及びアレン・クリスト上級准尉(ミズーリ州ウォーレンスパーグ出身)は、アパッチに搭乗して、イラクにおける最後の戦闘任務を実施していた。
ラマディ地方のドンキー・アイランド近郊において戦闘行動を実施していたところ、地上で戦闘中の第77機甲連隊第1大隊A中隊の1人の兵士が顔面及び腕を負傷し、病院への搬送が必要となる状況が生起した。アル・ラマディ駐屯地内の病院まで患者を後送するため、地上部隊が直ちに派遣を要求した航空機は、40分以上経過しても到着しなかった。
機長として後席に搭乗していたパーテイル准尉は、無線傍受によりこの状況を把握すると、副操縦士として前方のガナ一席に搭乗していたクリスト准尉に問いかけた。「ケガをした兵士を病院に運ぶまでの間、お前の座席を譲ってくれないか?」クリスト准尉は、きっぱりと答えた。「分かりました。」パーテイル准尉は、負傷した兵士の命を救うため、クリスト准尉をアパッチのウイングに乗せて飛行することを決心したのである。
着陸すると、クリスト准尉は、地上部隊の兵士と協力し、4人がかりで負傷した兵士をアパッチの前席に担ぎ上げ、シート・ベルトを装着した。負傷した兵士は、包帯でぐるぐる巻きにされていたが、その上にはべっとりと血がにじみ出ていた。クリスト准尉は、負傷した兵士の搭載が完了すると、アパッチの左側ウイングに上り、落下を防止するために戦闘用ベストを機体にストラップで縛著した。続いて、小さなウィングに腰掛けてから機体側面の小さなステップに足を掛けると、窓をノックしてパーテイル准尉に離陸準備完了を知らせた。
「クリスト准尉よりも、俺の方が緊張していたと思うよ。」と、パーテイル准尉は語っている。「副操縦士を機体に縛り付け、瀕死の重傷を負っている兵士を前席に乗せて、極めて危険な戦闘地域から離脱するなんて、今まで経験したことがない状況だからね。病院までの飛行時間はそんなに長くなかったはずなのに、永遠のように感じたよ。」
クリスト准尉の表現によれば、機体の外で飛行するのは、「高速道路を走っているトラックの荷台に座っているような」感じであった。
ほんの数分でアル・ラマディの病院用へリポートに到着すると、クリスト准尉は、救急車が来るまでの間、負傷者に声を掛け続けた。クリスト准尉は、「我々はラマディの戦場に引き返さなければならなかったので、冷静さを保っことができたのかも知れない。」と、語っている。救急車が到着し、負傷した兵士が機体からゆっくりと降ろされると、クリスト准尉は直ちに操縦席に戻り、戦場に引き返した。
翌日、自分たちが搬送した兵士がアナコンダ兵姑支援地域内の病院に移送されたことを聞いた2人の操縦士は、面会に行くことにした。負傷した兵士は、あごをワイヤーで固定されており、話ができない状態であったが、看護士が準備してくれた筆記具を使って筆談ができた。
彼は、最初に「ありがとうございました。」と書いた。そして、「お二人の大切なヘリコプターを血だらけにしてしまって申し訳ない。」という文字が続いた。
その負傷兵は、ヘリのパイロットになることを希望しており、数週間後に飛行適性試験の受検を控えていた。パーテイル准尉は、「合格してパイロットになったら、ぜひともテキサス州兵を希望しろよ。」と言って、B中隊の部隊章をプレゼントし、一緒に記念写真を撮った。
もちろん、副操縦士を機体の外側に乗せ、負傷した兵士を操縦席に乗せて飛行することは、正規に認められたことではない。しかしながら、彼を救う手段は、他になかったのである。パーテイル准尉は、次のように語っている。「患者後送のためのヘリを待ち続けている兵士が地上にいるのに、黙って見過ごすことなんてできなかった。助けが必要なやつを助けてやれないことぐらい辛い事はないし、もうイラクでそんな事を経験するのはたくさんだった。だから、ああいうやり方で運んだのさ。」
彼ら2名の操縦士は、自分たちをヒーローだとは思っていない。この物語の本当のヒーローは、交戦中に負傷したあの兵士なのだから。
スミス軍曹は、イラクのアナコンダ兵站支援支援地域に展開中のテキサス州兵第36戦闘航空旅団の写真報道担当官である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2007年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
米陸軍は、僚機のAH-64が敵地で不時着した場合に備えて、当該機の操縦士を武装搭載用のウイングに乗せて回収する要領を訓練しているようです。
上記の行為は、米軍のみならず、日本の陸上自衛隊においても、例え戦場だったとしても、正規に認められることではありません。もし、認められるとしたら、副操縦士は現地に残して、負傷兵を前席に乗せることについて緊急負傷兵空輸の許可を受けて、病院まで空輸するところまでで、アパッチは、現地で降機した副操縦士が別の手段で移動し、再度アパッチに搭乗するまで、戦闘に参加できないと思われます。
だから、陸上自衛隊であれば、例え、患者を速やかに空輸しなければ命が危ない、しかし、戦闘にも速やかに参加しなければならないといった場合においても、上記の米アパッチ操縦士の採った判断はできなかったと思われます。
アメリカは今までたくさんの戦場を経験してきて、真の戦闘の実相を知り尽くしていると思います。だから、上記の判断もできたし、そのための訓練もしているのだと思うと、アメリカ軍の真の強さを感じます。