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陸軍航空の情報センター

マルチドメイン作戦における陸軍航空

マイケル・J・ベスト大佐およびグレン・A・リッツイ

将来の作戦環境は、世界的動向である社会の変革、技術の革新、(偽)情報の蔓延、大国間の競争などの影響を受け、複雑かつ流動的である。敵は、運用および技術における我の優位を無効化し、あるいは低下させるため、陸上、海上、航空、宇宙およびサイバースペースといったあらゆる分野において、幾重ものスタンドオフ(離隔距離)を確保しようとしている。アメリカ陸軍および陸軍航空が自らの勝利を確実にするためには、それらの領域において大規模戦闘作戦を遂行できる能力を有する敵に対し、ベトナム戦争以来の迅速な対処を準備する必要がある。

TRADOC(訓練教義コマンド)パンフレット525-3-1に述べられているとおり、マルチドメイン作戦(Multi-Domain Operations, MDO)の本質は、「常に敵との競争状態を維持し、その競争で勝利を得て、武力衝突を抑止する」ことにある。 そして、その競争が武力衝突に発展した場合、陸軍および統合軍は、敵の接近距離・領域拒否システムに侵入し、それを崩壊させて機動の自由を獲得し、敵を撃破することにより目的を達成して、競争状態への復帰を強要するのである。これらの事象は、必ずしもこの順番に生起するとは限らず、どのような順番でも生起しうるし、同時に生起する可能性さえもある。陸軍は、相互に関連性を有する3つの主要な教義に従って、軍およびその作戦の変革を行おうとしている。その教義とは、(1)作戦的および戦略的距離を踏破できる機動能力と適切な部隊配置により調整された兵力態勢、(2)あらゆる領域の機能を利用できる戦闘力および持久力を有するマルチドメイン構造、および(3)すべての領域において敵を卓越するための時間、空間および戦闘力の急速かつ継続的な収れん、である。
マルチドメイン作戦は、20世紀のエア・ランド・バトル教義を基礎としつつ、宇宙空間における戦闘、サイバー電子戦および情報戦が現実のものとなりつつある状況を踏まえたものとなっている。これらの21世紀の新たな諸課題を解決するため、陸軍航空は、諸兵科連合機動部隊指揮官に対し、大規模かつ正確な航空支援を行い、他国の陸軍の追従を許さない絶対的優位を提供しなければならない。そのためには、作戦地域における機動性および縦深性、圧倒的な殺傷性、生存に必要な防護性、および作戦継続に必要な持続性を確保することが必要である。

競争状態において、陸軍航空が担っている役割は、極めて重要である。戦闘のための展開、継続的な海外派遣、および指定された重要な訓練を継続的に支援しなければならない。地上部隊指揮官に直接的行動以外の行動を選択する余地を与えるためは、陸軍航空がその戦闘力を迅速に発揮することが不可欠なのである。また、陸軍航空は、段列の態勢確立に関しても、重要な役割を有している。陸軍航空の任務は、陸軍全体の作戦および目標の一部を担い、部隊間の信頼を醸成し、敵を制止することにある。そのためには、苛酷かつ実戦的な訓練、再補給、患者後送、非戦闘員退避、偵察および警戒の実施、ならびに同盟諸国および関連企業との連携が重要である。

先進チーム化コンセプト

競争状態から武力衝突に推移した場合、陸軍航空は、敵の接近距離・領域拒否システムへの侵入を容易にするため、火力と連携した偵察/攻撃機、無人機システム、および空中発射機器の間における先進チーム化コンセプト(Advanced Teaming Concepts)を実現しようとしている。侵入作戦を成功させるために必要な戦闘力のその他の要素としては、戦闘任務ネットワーク、情報、サイバー、電子線、統合軍支援などが考えられる。また、作戦的および戦略的距離からの機動も、侵入の成功のために不可欠である。共同航空チームは、通常、複雑な地形において、偽装、隠蔽、欺騙を行いながら幾層にもわたって展開する敵の脅威システムから必要なスタンドオフ距離を確保しつつ、それを発見、識別、追跡、照準、攻撃、評価(find, fix, track, target, engage, and assess, F2T2EA)して、それを無力化する。

マルチドメイン作戦における陸軍航空の役割は、敵の中・長距離システムを崩壊させ、我の自由な作戦機動を可能にすることにある。敵の火力を発見し、捕捉し、打撃するために行われる情報、偵察、および対砲迫戦闘には、顕著な収れんが求められる。陸軍航空は、縦深にわたる機動地域において運用され、敵の統合防空システム(Integrated Air Defense System, IADS)および組織的火力の鍵となるシステムを破壊し、それを崩壊させて我の優位を獲得するととももに、機動の自由を確保しなければならない。これらの高いリスクを伴う航空作戦を成功させるには、高レベルでの状況および脅威の把握、およびマルチドメイン戦闘力の収れんが必要である。

陸軍航空が行うこれらの作戦は、地上部隊にその目的の達成に必要な機動の自由をもたらす。航空旅団は、偵察、警戒、攻撃、再補給、患者後送および空中機動を行い、敵を物理的に孤立させる。航空職種は、国外展開頻度が高い状況の中、すべての戦闘機能を支援して、すみやかに目的を達成し、成果を拡張し、一旦崩壊した敵がその戦闘力を再構築するのを阻止する。地上部隊指揮官がその目的達成に有利な条件を作為し、それを維持するためには、陸軍航空の行う作戦が不可欠なのである。

我の目的が達成され、競争状態への復帰が開始されたならば、陸軍航空は、3つの任務を同時並行的に遂行する地上部隊を支援する。その任務とは、(1)戦闘成果を維持するための地域および住民の物理的な確保、(2)関連企業および陸軍の能力向上による長期的抑止力の維持、および(3)新たな安全保障環境に応じた即応態勢の確立、である。このため、陸軍航空は、分散した兵力を再集結させ、戦闘力を回復させて、敵の反撃または再攻撃に直ちに反応できる態勢を整えなければならない。

サステインメントの変革

マルチドメイン作戦を促進するため、陸軍航空のサステインメント(維持基盤)にも変革が必要となる。もはや、戦闘力を構築するために潤沢な時間が与えられることはない。航空科部隊は、マルチドメイン作戦を遂行するため、直ちに派遣され、即応できるように準備できていなければならないのである。集中的に修理を実施できる後方地域を確保できない公算も高い。FARP(forward arming and refueling point, 燃料弾薬再補給点)は、自己完結能力を有し、常続的に分散を繰り返す小規模な戦闘チームとして機能できなければならない。

生存性を向上させるために必要となる展開地の分散は、兵站だけではなく指揮運用の面においても、さらなる問題点を生じさせる。航空機は、軽易な整備作業のみで長期間にわたり運用できなければならない。「日々」の点検は、「週毎」または「必要に応じ」の点検へと改定されるべきである。FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)機能横断型チーム(Cross-Functional Team, CFT)は、航空マルチドメイン作戦対応戦闘力の物質的な具現を図っている。具体的には、LRPF(Long-Range Precision Fires, 長距離精密火力)に加え、FARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)、AUAS(Advanced Unmanned Aircraft Systems, 先進無人航空機システム)およびALE(Air Launched Effects, 空中発射機器)を活用した有・無人機チームを実現することにより、敵の支配する地域の奥深くに侵入して、その組織的活動を崩壊させ、縦深にわたる機動を確保できる強靭な収れん能力が創造されようとしている。また、FLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)により実現される強襲能力の向上は、競争状態への早期復帰に貢献することであろう。

マルチドメイン作戦は、陸軍航空にとって、ピックアップゲーム(バスケットボールで、集まった者が即席でチームを作って競技を行うこと)ではない。マルチドメイン作戦の収れんを成功させるためには、作戦の統合化および同期化を積極的に推進するとともに、場合によっては、大胆かつ果敢な軍事行動が必要となる場合があるというリスクを確実に認識することが必要である。新たに必要となる物的戦闘力については、既に述べた内容でその要求事項が文書化されようとしている。

物的戦闘力の充実と同様に重要なのは、教義、編成、各個および集合訓練、ならびに指揮官の企図を末端まで徹底するリーダー育成プログラムとの調整を図ることである。また、攻撃/偵察機、UAS、ALEおよび精密火力の先進的チーム化構想のためには、新たな対抗・射撃訓練施設および総合訓練環境の改善が必要となるであろう。

要するに、マルチドメイン作戦は、陸軍および陸軍航空に大きな変革をもたらそうとしている。革新の時代を迎えた陸軍航空は、あらゆる領域における大規模な戦闘作戦という複雑な状況を経験し、新たな課題に立ち向かおうとしているのである。

Above the Best!(最善以上を目指せ!)

マイケル・J・ベスト大佐は、アラバマ州フォート・ラッカーの航空戦闘力開発および統合部局の部長であり、グレン・A・リッツイは副部長である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2019年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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3件のコメント

  1. 管理人 より:

    特にマルチドメイン作戦の教範事項については、翻訳に自信がありません。お気づきの点があれば、ぜひ、お知らせ下さい。

  2. 管理人 より:

    大事なことは、我々は既に、常に、競争という戦いの中にいるということですね。

  3. 管理人 より:

    Wikipedia上での議論を踏まえ、FLRAAの訳語を「将来型長距離攻撃航空機」→「将来型長距離強襲機」へと修正しました。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/ノート:将来型長距離強襲機