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陸軍航空の情報センター

陸軍航空における部品枯渇との戦い

ロバート・レイノルズ

航空機の部品枯渇は、陸軍航空において進行している重大な問題のひとつである。部品枯渇は、交換部品の不足や装備品の性能低下をもたらし、部隊の即応態勢にも影響を与える。部品枯渇を完全に排除する方法はおそらく存在しないが、問題の発生を抑制し、その影響を緩和するため、積極的に働きかけることは可能であるし、既に実施されているところでもある。部品枯渇には様々な要因が考えられ、その解決法も多岐にわたる。本記事は、米陸軍レッドストーン兵器廠を中核とした兵站グループである「チーム・レッドストーン」が、部品枯渇によってもたらされる問題点を軽減または排除するために行なっている各種施策について解説するものである。

装備品やその部品に部品枯渇が生じる要因としては、まず新型又は改良型装備品等の開発がある。例えば、UH-1の後継機としてUH-60が開発された場合がこれにあたる。他の要因としては、プログラム・マネージャー(装備品の開発・整備事業管理者)が装備品設計に際し、コスト及びスケジュール上の要求を満たすために行うトレードオフ(一方を追求するためにやむを得ず他方を犠牲にすること)により、装備品のライフサイクルがまだ完結しないうちに部品枯渇が発生する可能性が生じる。一方、製造会社側の都合が部品枯渇の要因となる場合もある。製造会社は、短期間で部品枯渇が発生することが解っていても、「最先端の技術」よりも、「利用可能な技術」を使う傾向がある。また、技術革新や収益上の理由から、特定の装備品等の製造から撤退することもある。

暫定患者後送任務支援システム(Interim MEDEVAC Mission Support System ,IMMSS)の装備化は、戦時における緊急の要求に即応し、部品枯渇との戦いに成功を納めた一例である。

米陸軍が「現行の各機種の耐用命数を延長する」と決定したことは、必然的に部品枯渇が発生しやすい環境をもたらしている。また、平時における装備品調達数量の抑制は、戦時において新たな要求が発生した際に部品枯渇を生じさせる原因となる。このような場合における対処の一例として、UH-60用暫定患者後送任務支援システム(Interim MEDEVAC Mission Support System, IMMSS)の装備化がある。改良型のリッター装置、開放可能なウィンドウ及び医療担当者用機内通話装置で構成されるこのシステムの迅速な開発が、戦時における緊急のニーズへの対応を可能にした。

これらの部品枯渇問題への対応を通じて明らかになったのは、COTS(commercial off the shelf, 民用既成品)調達、PBL(performance-based logistics, 民間業者と包括的に信頼性や可動率を保証する目標達成機能準拠兵站)契約又はPSA(performance specification acquisition, 性能仕様書調達)というような従来の手法だけでは、この問題を解決することができないということである。ただし、航空/ミサイル/宇宙プログラム事務局(Program Executive Office, PEO)、13個部門のプロジェクト・マネジメント・オフィス(project management offices, PMOS)、航空/ミサイル・ライフサイクル・マネジメント・コマンド(Aviation and Missile Life Cycle Management Command, AMCOM)、統合資材管理センター(Integrated Materiel Management Center, IMMC)等、部品枯渇問題に関心を有する組織は多数存在しており、これらが「チーム・レッドストーン」を形成する母体となっている。

最初の一歩

継続的技術回復(Continuous Technology Refreshment, CTR)プログラムで新たに製造された警報灯パネル(Caution Advisory Panel, CAP)は、UH-60A/Lで使用されているオリジナル品との完全互換性を有しているのみならず、より軽量で、信頼性も高いものとなった。平均故障間隔時間(MTBF)は9,151時間であり、1器材あたり8,286ドルの経費節減が見込まれている。(出典:AMCOM IMMC)

2006年、チーム・レッドストーンは、統合プロセス・チーム(Integrated Process Team, IPT)を編成してチーム・メンバー間の連携を図るとともに、航空/ミサイル研究・開発・工学センター(Aviation and Missile Research, Development, and Engineering Center, ARDEC)のエンジニアリング総局に対し、部品枯渇マネジメント・チームを編成して部品枯渇問題への取り組みを統制するように要請した。

最初の一歩は、統合プロセス・チーム(IPT)に対する教育を実施し、プログラム・マネージャー及びアイテム・マネージャに部品枯渇に対処するためのすべての手法を把握させることであった。特に重要な役割を担っているのは、常日頃から在庫部品を把握しており、「問題のある部品」を最初に確認できるアイテム・マネージャである。

統合プロセス・チーム(IPT)は、部品枯渇に対処する事業に関わっているグループとの情報共有を図り、部品枯渇解消・減少に利用可能な事業を整理した。これらのグループには、信頼性・可用性・保守性(reliability, availability, and maintainability, RAM)改善コミュニティ、ライフ・サイクル・コスト低減コミュニティ、電子部品エンジニアリングセル、及び製造技術(ManTech)コミュニティがある。それぞれの事業は、特定の領域、資金源及び法規制の範囲内で運営されており、それぞれ別個の部品枯渇問題を対象としている。

部品枯渇に対処するために活用できる事業には、米陸軍ワーキング・キャピタル基金(Army Working Capital Fund, AWCF)、補給用部品部品枯渇対策プログラム(Spare Part Obsolescence Mitigation program)、航空/ミサイル・ライフサイクル・マネジメント・コマンド及び国防兵站局信頼性向上プログラム(the AMCOM & Defense Logistics Agency (DLA) Reliability Improvement Program (RIP))、製造技術改善プログラム(装備品製造過程における潜在的部品枯渇問題を所掌する事業、ManTech)、運用及び支援コスト削減プログラム(Operations and Support Cost Reduction, OSCR)、継続的技術回復プログラム(Continuous Technology Refreshment, CTR)、国防調達問題プログラム(Defense Acquisition Challenge, DAC)、国外比較試験プログラム(Foreign Comparative Test, FCT)等がある。これらの事業の管理における重大な課題は、「それぞれの事業をいつ活用するか?」ということと、「それぞれの事業にどの部品枯渇部品や装備品を割り当てるか?」ということである。

課題への対処

航空/ミサイル研究・開発・工学センター(AMRDEC)の部品枯渇マネジメント・チームは、部品枯渇した部品や装備品等の識別に関する業務を統制し、ある特定の問題の解決にどの事業を活用するかを決定し、問題が解決するまでその事業の資金と実行を管理する。まず、各プロジェクト・マネジメント・オフィスや統合資材管理センターが、部品枯渇マネジメント・チームからの要求に応じ、問題解決の候補となる部品を提示する。これに対し、部品枯渇マネジメント・チームは、問題解決のための最善の手法や事業を提示する。一方、統合プロセスチーム(IPT)は、各事業の現況及び実施状況を把握し、チーム・レッドストーンのリーダに四半期ごとに報告する。

継続的技術回復プログラム(CTR)で製造されたUH-60A/L用CDU及びPDUは、従来品と同一の形状・取付・機能 ・性能を有する互換部品であり、最新の回路基板技術とLEDの活用により、CDU1台あたり14,331ドル、PDU1台あたり2,024ドルの経費節減をもたらしている。(出典:AMCOM IMMC)

部品枯渇マネジメント・チームによる「介入」の成功例としては、AH-64の索敵照準システム改良型昼間センサーの 「昼間照準機能」がある。この「昼間照準機能」は、30年前に開発されたレーザーや電子機器を使用しており、明らかに部品枯渇マネジメント・チームの介入が必要となるケースであった。当該装備品のライフサイクル管理者は、部品枯渇マネジメント・チームからの要求に応じ、部品枯渇問題に影響を及ぼす事項と問題解決に必要な資金を明らかにし、問題解決に伴うリスクを評価するとともに、投資リターン(信頼性の向上、ライフ・サイクル・コストの低減等)を含めたメリットを明示した。

「昼間照準機能」に関しては、総額5800万ドルと見積もられる3年間の投資により、約1800万ドルの年間運用コストだけではなく、約1億ドルの部品調達コストの削減がもたらされるものと期待されている。「昼間照準機能」に関する事業は、信頼性と性能が向上した安価な部品を供給するだけではなく、新型の索敵照準システム改良型昼間センサーの装備によりAH-64Dの能力を向上し、米陸軍の戦士達の活躍に大きく貢献することであろう。この事業に必要な資金は、部品調達のための資金源である米陸軍ワーキング・キャピタル基金(AWCF)から供給される予定である。

部品枯渇問題の根本的な解決には、政府と業界による設計エンジニアリング、製造、および技術試験の改善が不可欠である。航空/ミサイル研究・開発・工学センター(AMRDEC)は、自らが保有する専門的なエンジニアリング知識、幅広い分野にわたる試作品製造能力(試作統合工場(Prototype Integration Facility, PIF)は、AMRDEC/ED内の組織である)及び関連業者がアクセスできる通信網を最大限に活用し、部品枯渇問題の改善を図っている。

航空業界とのパートナーシップの重要性

部品枯渇問題の解決のためには、行政側による管理だけではなく、航空業界側からの密接な協力が不可欠である。アパッチの「昼間照準機能」をもう一度思い起こしてもらいたい。この器材に使用されている部品枯渇した部品は114品目に及ぶが、それらを製造しているのは、すべて民間業者なのである。

行政と航空業界は、この困難な問題の解決に一体となって取り組み、革新的でコスト効率の高い解決策を見出すために積極的に協力し、より近代的、高性能、かつ安価な器材の製造に向け努力している。「昼間照準機能」に関しては、OEM(original equipment manufacturers, 相手先ブランド製造元)が解決策の立案を支援してくれたが、もし、彼らが時代遅れの部品・器材の改善に取り組もうとしなければ、どうなっていたことであろうか?

航空業界側からの協力を得るために利用できる事業の一つに継続的技術回復(Continuous Technology Refreshment, CTR)プログラムがある。この事業は、部品枯渇という装備品のライフサイクルへの脅威に対抗するため、米陸軍が航空業界に義務を課する取り組みであり、米陸軍が航空業界による検討が必要な部品やアセンブリを提案し、必要に応じ、航空業界が提案した代替部品の開発を決定する。この際、提案される代替部品は、対象となる交換部品の形状、接続及び機能を維持するとともに、政府による調達に先立って、損益分析をクリア(安価であることを意味する)していなければならない。先行する開発コスト(及びリスク)は、航空業界側が負担することとなっており、予算が不足している現状において、問題が生じている部品や器材を改善するための魅力的な手法となっている。

継続的技術回復(CTR)は、現在までに、UH-60A/Lのコーション・アドバイサリ・パネル(CAP)、セントラル・ディスプレイ・ユニット(CDU)及びパイロット・ディスプレイ・ユニット(PDU)のような成功をもたらし、2億5千万ドル以上の総合的コスト削減を生み出している。

部品枯渇問題が解消することは絶対にない。航空機用システムは、非常に複雑であり、その進歩はとどまることがないからである。しかし、革新的な思考、効果的な管理、そして政府と航空業界関係者の協力があれば、問題解決に向けて前進し続けることができる。チーム・レッドストーンは、コスト意識を常に保持しつつ、部品枯渇問題に挑戦し続け、米陸軍の戦士達に可能な限り最善の解決策を提供してゆくことであろう。

ロバート・レイノルズは、アラバマ州レッドストーン兵器廠の航空/ミサイル研究・開発・工学センター(AMRDEC)の上級エンジニアリング及びライフ・サイクル・コスト削減マネージャである。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2012年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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3件のコメント

  1. 豊丸 より:

    影本君 ご無沙汰しています。
    部品枯渇の問題は陸自でも重大な問題であり、抜本的な対策がない(受動的な対応しかない)状況です。
    機体は日々近代化していきますが、陸自は装備化したなら20年間はN/Cを基本と考えている節があります。また、近代化に対応するには多額の予算が必要となるため決心できず枯渇問題を大きくする悪循環に落ちいっています。
    影本君が現役時代と状況は変わっていませんので、現役にこの種情報を積極的に提供するようお願いします。

  2. 管理人 より:

    お久しぶりです。コメントありがとうございます。
    「近代化」という言葉を聞くたびに、イラクで米軍のUH-60Lのパイロットが「世界最高のヘリコプターで任務させてもらえていることを誇りに思っている」と言ったことを思い出します。当時、陸自は、それよりもはるかに進んだUH-60JAを使っていました。彼がそれを知っていたかどうかは分かりません。でも、それを言い切る米軍のパイロットに「強さ」を感じました。
    今後も、情報提供を頑張りますので、よろしくお願いいたします。

  3. 管理人 より:

    かなり古い記事なのですが、たくさんの方に読んでいただいているようです。
    図の解像度が低かったので、作り直しました。