第160特殊作戦連隊の患者後送および搬送間治療
第160特殊作戦航空連隊(空挺)が、攻撃および強襲任務だけではなく、CASEVAC(casualty evacuation, 患者後送)任務も実施していることは、あまり知られていない。この任務を遂行するため、第160特殊作戦航空連隊内の各大隊には、1名の医師、1名の医師助手、および12人の飛行救難員が配置され、連隊の要員および非支援地上部隊に対する医療行為を実施している。これらの要員が存在することで、第160特殊作戦連隊は、海外任務および国内訓練のいずれにおいても、医療行為を伴うCASEVACを遂行できる能力を保有しているのである。
必要性
医療要員を含むチームによるCASEVAC(casualty evacuation, 患者後送)を実施することにより、従来のMEDEVAC( medical evacuation, 医療後送)部隊よりも、迅速な負傷者の搬送が可能となる。MEDEVACとは、医療器材を装備した専用の車両または航空機に医療従事者が搭乗して、患者を後送することをいう。CASEVACとは、医療従事者の搭乗および医療器材の装備の有無にかかわらず、一般の車両または航空機を用いて、患者を後送することをいう。第160特殊作戦航空連隊におけるCASEVACの典型的な実施要領は、まず、医療要員が、強襲航空機、路外機動車または航空機に搭乗して目的地まで飛行する。その後、CASEVACが要求されるまでの間、安全な地域で待機する。地上部隊に負傷者が発生した場合、現地に向かい、負傷者をピックアップし、医療施設に到着するまでの間、搭乗救難員または蘇生チームによる負傷者の救護を行うことになる。
第160特殊作戦航空連隊の各ヘリコプター強襲部隊には、連隊または地上部隊における負傷者発生に対応するため、最低1名の飛行救難員が配置されている。そのうえで、状況に応じ、1名の医官および衛生兵が蘇生チームとしてMH-47に乗り込み、患者の治療を実施する。蘇生チームを派遣することにより、患者の飛行中の生存率と病院施設到着後の回復率の向上が期待できる。イギリスのMERT(Medical Emergency Response Team, 医療緊急対応チーム)も、同じようなコンセプトに基づき、医師、看護師および2名の飛行救護員がCH-47で負傷者発生地点まで飛行し、病院までの搬送間に治療を行うものである。しかしながら、MERTの場合、その待機位置は軍事医療施設であり、第160特殊作戦航空連隊のように戦闘地域の近傍にあらかじめ位置しているわけではない。
第160特殊作戦航空連隊の救命能力の必要性は、将来の大規模戦闘作戦においても変わることがない。むしろ、負傷者数の増大し、従来のMEDEVAC作戦では後送手段が不足して、負傷者を搬送時間が増加することになる可能性が高い。第160特殊作戦航空連隊の武装した航空機が、地上部隊の要求に即応したCASEVACを実施することにより、地上部隊指揮官に対し負傷者を後送するための新たな選択肢を与えることができるのである。
訓練
第160特殊作戦航空連隊および関係する地上部隊は、他の任務と同様に、CASEVACに関しても、緊密な相互の連携を維持しつつ、医療訓練を実施している。ほとんどすべての訓練において、負傷者発生の状況が付与され、より実践に近い訓練環境の実現と、搭乗員の訓練機会の増大が図られている。また、実戦と同じく、訓練中においても、最小限の衛生兵を各編隊に搭乗させ、強襲部隊突入後のCASEVACに即応できるように着意している。地上部隊に負傷者が発生し、CASEVACが要求されたならば、航空機が進入・着陸し、負傷者を収容して、医療機関に到着するまで搬送間治療を実施する。残りの編隊は、その後、地上部隊の要求に応じて、離脱を支援することになる。
駐屯地においては、教訓事項に関する教育、患者の取り扱いに関する実技訓練、トリアージに関する訓練など、飛行を伴わない訓練を行っている。これらの訓練は、隊員の練度の平準化を図るとともに、応急処置要領の変化に対応できるように考慮しつつ、士官または下士官によって実施されている。最近の訓練で焦点が置かれているのは、LTOWB(low titer O whole blood, 低力価O型全血輸血)およびREBOA(Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta, 大動脈内バルーン遮断)である。LTOWBは、近年になって、第75レンジャー連隊によって編み出され、アメリカ陸軍の他の部隊でも採用されつつある手法である。この輸血方法を用いることにより、血液の厳密な交差適合試験が不要となる。このため、ドナーをあらかじめ選定しておけば、血液を抜き取って、直ちに重症の兵士に輸血することが可能となる。REBOAは、圧迫止血が不可能な、腹部および骨盤内の出血を一時的に止めるため、搬送間のみに行なわれる手法である。この手法は、小型のバルーンを大腿動脈内から胸部大動脈弓まで挿入してから膨張させ、それより下のすべての出血を止めることで行われるものであり、病院到着までの生命維持に効果があることが判明している。イギリスの救急航空サービスも、この手法を採用しており、その有効性を示す論文を発表している。第160特殊作戦航空連隊は、現在、その安全な適用要領について、基準を検討し、制定しようとしている。
医療要員
医療支援を伴うCASEVAC作戦を行ったり、新たな医療手法を取り入れたりするためには、高度な技術を有する医療要員の存在が欠かせない。医療支援の継続的実施を可能にするため、第160特殊作戦航空連隊は、医療班の要員を約30%増員した。この増員に伴い、飛行救難員、医療補助者および航空医官の要員選出が行われた。選出された要員は、SOCM(Special Operations Combat Medic Course, 特殊作戦戦闘医療課程)または特殊作戦航空医療導入課程のいずれかの特殊作戦部隊医療訓練に参加する。ただし、医官については、従前に航空医官課程を修了していない者を除き、SOCMへの参加が免除される。
第160特殊作戦航空連隊は、創隊以来、2019年ほどに患者後送に関する資料を得たことがない。このため、医療訓練および特技認定の進捗度、ならびに医療要員の貢献度に関して、現時点で評価することは難しい。ただし、多国籍軍を支援するため、単機任務を実施中、負傷者をホイストで救助した事例があった。当初の情報では、負傷者は2名であったが、その後、人数が増加し、最終的には、15名の患者を1名の飛行救難員で吊り上げたのである。十分に訓練され、高度な技能を有するパイロット、搭乗員および飛行救難員チームの存在なくして、この任務を完遂することはできなかったであろう。
セドア・レッドマン中佐は、ケンタッキー州フォート・キャンプベルに司令部が所在する第160特殊作戦航空連隊の連隊医官、ケビン・メイベリー少佐は、同連隊の医官補助者である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2020年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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