環境を克服するためにーDVE誘導システム
過去30年の間、アメリカ軍は、NVD(night vision devices, 暗視装置 )を最大限に活用し、低視程環境下での戦闘行動を支配し続けてきた。
しかしながら、近年においては、敵国もアメリカと同等もしくはそれに近い能力を保持している。それどころか、犯罪組織やテロ組織、一匹狼の犯罪者でも、NVG(night vision goggles, 暗視頑強)を手頃な値段で購入することができる(※1)。ARSOA(United States Army Special Operations Aviation, アメリカ陸軍特殊作戦航空隊)は、単なる「夜の克服」から、DVE(degraded visual environment, 悪視程環境)における作戦の支配へと、その能力を向上させようとしている。
つまり、特殊部隊に対し、霧の中や、砂や雪が吹き荒れる中であっても、離陸し、経路間の障害を克服し、X地点に隊員を送り届けられる航空機を提供したいと考えている。そういった特殊部隊のニーズを満たすために必要な開発・統合において、新境地を開こうとしているのが、ARSOAのDVEPS(DVE Pilotage System, DVE誘導システム)である。
ARSOAは、DVEPSが持つ3つの機能をもって、DVEの問題を解決しようとしている。その機能とは、指示機能、画像表示機能および飛行制御機能である。
指示機能は、ディスプレイにカラー記号を表示し、経路の維持、障害物の回避、位置の保持などに必要な操縦操作をパイロットに指示するものである。これまでのところ、この機能は、開発が最も容易であると考えられてきた。ただし、指示を決定する状態データが不正確な場合には、その効果が失われてしまう。
そういった場合においても正確さを維持するため、DTED(digital terrain elevation data, デジタル地形標高データ)および飛行中にセンサーが収集・学習したデータなどから、推測データを生成するのが画像表示機能である。多重のセンサーとデータ融合のための複雑なソフトウェアが必要であることから、画像表示機能は、2番めに実現が難しい機能となっている。
最後に、これらの指示と画像を活用し、高度な飛行制御が可能なオートパイロットが存在することにより、完全なDVE問題の解決策が完成する。オートパイロットは、指示機能に示されたとおりに操縦を行い、機体をDVEの中を飛行させ、任務を完遂する。DVE環境下での操縦上の問題を解決する上において、最も複雑な機能を担っているのが自律操縦装置なのである。
安全基準
このようなシステムには、必要な安全基準を満たしていることが求められる。試験は、そもそも厳密に行われなければならないものであるが、そのシステムのリスクと能力の関係を理解するに従って、ますます厳しいものとなっている。DVEPSが「ヘッドアップ、アイアウト(頭を上げ、目を外に向けた)」の完全な自動操縦を実現するためには、段階的なアプローチが必要である。まず最初の段階は、すでに装備化されている状況認識(situational awareness, SA)用装備品の能力向上を図り、ブラウンアウト着陸状況においてもパイロットを支援できるようにすることである。
アフガニスタンやイラクにおける戦争の初期段階に発生した事故の75%は、離着陸時のブラウンアウトが原因であった(※2)。ブラウンアウトは、21世紀になって生じた問題ではない。1984年から1996年の間に行われた研究においても、パイロットによる飛行環境の視覚的な把握不能により発生した事故は、暗視装置に関連する事故の70%以上を占めていたのである(※3)。これらのデータが指摘した事項は、DVEPSによる完全な自動操縦の前に取り組むべき最初の一歩に影響を与えることとなった。
CFIT(controlled flight into terrain, 操縦可能状態での地表へ墜落)事故は、そのすべてが重大なものではないが、航空機の降着装置などの機体構成品を損傷し、多額の損失を生じさせている。その主たる要因は、予期されていなかったブラウンアウト、認識されていなかった傾斜地形、および指定された地点以外への着陸などなのである。ほとんどの事故において、パイロットは、何らかの問題を認識したにもかかわらず、過剰な修正操作を行って異常な機体姿勢に陥り、最終的に機体を損傷させてしまった。さらに良くないケースでは、問題を認識できず、単にドリフトしていることに気づかないまま不適切な着陸をしてしまったのである。その他の要因としては、ブラウンアウトによる送電塔や電線などの障害物の視認不能があった。着陸の最後の数秒間において、問題に気づかせ、補助をしてくれるシステムがなければ、どんなに熟練したパイロットであっても、機体姿勢を把握できなくなる可能性があるのだ。
システム機器
DVEPSには、複数の任務装備が統合されており、視覚的指示が失われた場合においても、パイロットが状況把握を継続できるようになっている。そのためには、長波長IR(Long Wave IR, 長波長赤外線)、LIDAR(Light Detection and Ranging, 光検出と測距)、SVAB(Synthetic Vision Avionics Backbone, 合成ビジョン・アビオニクス・バックボーン)、あらかじめインストールされたDTED(Digital Terrain Elevation Data,デジタル地形標高データ)および飛行中に取得したDTEDが用いられている。これらすべてのデータを混合し、融合することにより、多機能表示機のパネルや将来的にはヘッド・マウント・システムに合成画像を表示することができる。つまり、LZ(landing zone, 降着地域)の状況を把握し、センサー融合高解像度画像を作成する、「見て覚えるシステム」なのである。
LIDERにより生成された3D点群は、推測データ上に融合される。この画像は、ホバリング指示記号を補うものとして用いられる。ディスプレイには、ホバリングおよび進入に関する指示が表示されるが、背景にこの画像が表示されることにより、そのLZに着陸することが安全・適切であるという確信をパイロットに与えることができる。このため、DVEPSは、ブラウンアウト状態になりやすい、視覚的に制限された厳しい環境においても、パイロットや使用部隊のリスクを軽減することができるのである。
また、DVEPSには、高解像度の記憶データを任務開始前にあらかじめインストールしておくこともできる。このため、最新の送電塔、電線などの障害物の高解像度データを用いた、完全に受動的な機能を提供することができる。新たな記憶データ(タワー、ワイヤーなど)がDTEDによりあらかじめ記憶されていた地表面データと異なっている場合は、障害物として認識され、聴覚および色別信号の双方で警告が発せられる。眼の前の電波高度計が90度も振れるような状況を考えてもらいたい。DVEPSにおいて障害物警報音が鳴るかどうかは、限界状態になるまでの時間に応じて設定されが、それは、電波高度計の低高度警報音の設定要領に似ている。
DVEPSを装備した機体が飛行を継続し、運用経歴を積んでゆくに従って、適切な操縦システムになるためには何が必要なのかが明らかになってゆくであろう。その道のりは、決して平坦なものではない。そこには、洗練された厳格な試験を必要とする課題が待ち受けているのである。現在行われている開発飛行試験は、過去10年以上にわたって行われてきた開発と調整の結果に基づくものである。これらの試験は、DVE環境下における戦闘進入を予測可能かつ再現可能にするための、暗号解読のようなものなのだ。
将来的には、「ヘッドアップ、アイアウト」を実現するヘルメット・マウンテッド・ディスプレイの導入、およびDVEPSの指示機能および画像表示機能へのレーダー機能の融合が行われ、その後の自律飛行制御の統合に必要なステップを完了することになるであろう。
雨は正しい者にも正しくない者にも降る。悪視程環境は、通常の部隊と同じように特殊作戦部隊の時間に制約のある任務も阻害するのである。近年の努力により、DVEでの飛行に伴うリスクは軽減されてきている。ARSOAの目標には、事故発生の軽減だけではなく、開発の推進も含まれている。もはや、長年行ってきた暗闇の中での飛行を続けるだけであってはならない。敵の聖域とする領域を粉砕し、容赦のない攻撃を遂行するためには、環境を克服しなければならないのである。
※2 Johnson, Chris W., Ph.D. (2007). Interactions Between Night Vision and Brownout Accidents: The Loss of a UK RAF Puma Helicopter on Operational Duty in Iraq. Department of Computing Science, University of Glasgow, Scotland. Retrieved from https://pdfs.semanticscholar.org/ab49/4b4e6a9971568025d0eb5dcc47363464d19d.pdf.
※3 Bachelder, Edward N. (2000). Perception- Based Synthetic Cueing for Night-Vision Device Rotorcraft Hover Operations (Doctoral dissertation). Department of Aeronautics and Astronautics, Massachusetts Institute of Technology. Retrieved from https://www.researchgate.net/publication/328736870>>
上級准尉4 マイケル・G・ポンドはケンタッキー州フォート・キャンプベルの陸軍特殊作戦航空コマンドのシステム統合管理オフィスのセンサー・航法・武装部長であり、少佐 ジェフ・ティモンズは同オフィスのシステム統合将校である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2019年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
もはや夜を克服しただけでは戦いに勝てない、DVEを克服することが必要だということなんですね。