陸軍機の近代化に貢献する民間部門のSATCOMおよび戦術ネットワーク
アメリカ陸軍は、現在運用中の機体がマルチドメイン作戦における戦闘に適応し、それに勝利できることを確実にするため、AMCS(Aviation Mission Common Server, 航空任務共通サーバー)を構築して、航空機におけるデータの保管、処理および伝達能力の強化を図ってきた。AMCSおよびその関連事業の実施を支援してきたビアサット社は、航空機などの間の通信手段を改善し、新しい機能を迅速に導入することを陸軍に提案している。アメリカ軍が戦術的な優位性を維持し、同等の能力を有する敵を抑制するためには、すべての戦争領域において、先進的な通信およびクラウド技術を利用できる環境を整備することが重要だからである。
ビアサット社は、民間企業の技術リーダーとして、兵士たちに対し、彼らが入隊前に利用してきたのと同じレベルのネット環境およびクラウド・サービスを提供する責任があると考えている。実際のところ、最近の調査によると、回答した現役の軍人や国防総省の職員のうち68%の者が、戦場においても、民間の世界で得られるものと同じレベルのネット環境と信頼できるタイムリーな情報が必要だと答えている。
航空機におけるAMCSと同じようなクラウド技術をもって軍隊を強化するためには、アメリカ陸軍全体にSATCOM(satellite communications, 衛星通信)や地域ネットワークなどの最新技術を導入しなければならない。注目すべきことに、同じ調査の回答者のうち81%の者が、米軍の各端末が、あらゆる戦場において、近代化された衛星および地域ネットワークにアクセスし、クラウド対応技術および戦場IoT(Internet of Battlefield Things)を利用できるようになることを支持している。トーマス・トッド少将が、最近になって指摘しているとおり、「現行の機種を機敏性、相互運用性および生存性がより良好でかつマルチドメイン作戦に適合したものとするためには、分野横断的な取り組みが必要なのである」。アメリカ陸軍には、今日の民間部門の能力を活用し、現在の航空機の近代化を成功に導くために解決すべき問題が、まだ手つかずの状態で残っているのだ。
接続性の提供
ビアサット社のような最先端の民間企業が提供する、秘匿性および回復性に優れ、ハイブリッドなマルチネットワークを提供するSATCOMおよび見通し線通信を導入することにより、アメリカ陸軍は、航空活動の効果を著しく向上させ、AMCSのような事業の実現に必要となるAI(人工知能)、機械学習およびクラウド対応アプリケーションを利用できるネット環境を実現することが可能となる。しかしながら、このことが民間部門の技術をアメリカ陸軍の航空機に適用することにより得られる利点のすべてではない。今日のデータ主導の戦場において、回転翼機および固定翼機の優位性を維持し、勝利を獲得するためには、戦術ネットワーク機能を拡大することも重要な鍵なのである。高い電子戦遂行能力を保持する敵と対峙(たいじ)する中、アメリカ陸軍にとって重要なのは、調達プロセスを改善し、発展を続ける新技術を効果的かつ迅速に取得・導入し、マルチドメイン戦場における優越性の維持を確実にすることである。
ビアサット社の機動的かつ積極的な導入プロセスの提案および多種のNDI(non-developmental item, 非開発品目)の提供などの施策は、いくつかの回転・固定翼機の能力改善に大きく貢献してきた。ビアサット社のKOR-24A STT( Small Tactical Terminal, 小型戦術ターミナル)は、NDI供給の成功例の一つである。STTは、公式の要求事項が示されるまえに開発されたものであるが、現時点において、小さなフォームファクタ(物理的寸法)でリンク16通信を実行できる世界唯一のマルチチャンネル無線機となっている。相互運用性を有するSTTは、複合ネットワークを通じた情報入手を必要とするアメリカおよびその同盟国の軍事機関どおしの通信環境を改善してきたが、任務上の要求の変化に対応するためのさらなる進化を続けている。STTは、2020年始めに施行される暗号化技術近代化へのソフトウエアのみによる対応、複数のメッセージを同時に受信する能力の追加など、これからも陸軍機に新しい機能を提供し続けてゆくことであろう。
戦術データリンク
アメリカ陸軍は、ビアサット社のSTTをAH-64Eアパッチ・ヘリコプターおよび特殊作戦用回転翼機用の戦術データリンクに採用した。2個チャンネル以上での運用能力を有するSTTは、飛行中に波形とネットワーク接続を切り替え、全く異なるネットワークを融合することにより完全な作戦図を出力することができる。このため、これを搭載した航空機は、作戦の展開に合致した、リアル・タイムの状況をパイロットに提供することが可能になる。STTは、従来から備えていた機能に加えて、現在では、CMR(Concurrent Multiple Reception, 同時多重受信)機能を備えるようになり、複数の局から受信した複数のメッセージを1台の無線機で復調および復号化することが可能となっている。このことは、メッセージの待ち時間を短縮し、ネットワークの総処理量を増大させて、陸軍の戦術ネットワーク能力の強化に貢献した。
ビアサット社は、STTを含むすべての次世代戦術データ・リンク製品にCMR機能を実装し、将来の要求性能を見越した緊急の任務上の要求事項を満足させ、通信環境の改善を図ってきた。ビアサット社のCMRリンク16能力は、また、緊要な戦術データに直接アクセスできる部隊数を増加させるとともに、ネットワークの混雑を緩和して、任務要求の増大に適応し、戦術的優位性の維持に貢献している。この製品には、近い将来、戦闘環境下における電波干渉を軽減する機能が新たに追加される予定である。
このような積極的な取り組みは、ビアサット社のような民間部門が、軍隊に新しい技術性能を供給し、かつてなかったほどに迅速に、かつ、高いコスト効率での近代化をもたらすことを可能にしてきた。アメリカ陸軍の指導者たちが、AMCSのような新しい施策を遂行してきたことは、称賛されるべきことである。最先端のSATCOMおよび戦術ネットワークの装備化に関しても、引き続き使用部隊と密接に連携して、陸軍機の任務効率を向上させ、クラウド技術の戦場における利用を可能にしてゆくことが望まれる。
ケン・ピーターマンは、カリフォルニア州カールスバッドにあるビアサット社の政府システム部長である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2019年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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AH-64EアパッチへのSTT搭載の細部に関しては、こちらの記事をご参照ください。