SOAR(特殊作戦航空連隊)
成功を継続するための即応性及び適応性の向上
第160SOAR(Special Operations Aviation Regiment, 特殊作戦航空連隊)は、その28年間の歴史において、最も高い即応性と適応性を保持している。しかしながら、その戦術・戦略的成功を将来においても継続するため、装備品の近代化及び組織の変革に引き続き努力している。第160SOARに所属する将兵、軍属及び民間業者は、国外紛争に対処している間においてさえも、優先順位を適切にしつつ、装備品の近代化等を継続しているのである。(訳者注:第160SOAR(第160特殊作戦航空連隊)とは、回転翼機をもって通常部隊及び特殊作戦部隊を支援することを任務とする米陸軍特殊作戦部隊である。主として夜間に高速・低高度で迅速な攻撃、強襲及び偵察任務を遂行することから、ナイト・ストーカーズ(Night Stalkers、闇夜に忍び寄る者達)とも呼ばれている。)
組織の改編
「不屈の自由作戦」及び「イラクの自由作戦」における成功を踏まえ、特殊作戦という作戦形態に対する注目度は、ますます高まっている。
2004年の初め、既存の特殊作戦部隊に対する支援を充実するための第160SOARの改編がUSSOCOM(United States Special Operations Command, 米国特殊作戦コマンド)(訳者注:米国陸軍、海軍、空軍及び海兵隊の全特殊作戦部隊を指揮する統合軍)及び米陸軍により決定された。
2004年から2006年にかけて行われたこの改編と2008年から2013年にかけて行われている再改編により、第160SOAR及びその隷下部隊の指揮・統制及び整備機能の強化、MH-47Gチヌーク×24機及びMH-60Mブラック・ホーク×10機の増加、第2、3及び4大隊の組織の標準化、並びにMH-47及びMH-60を装備する中隊(訳者注:MH-47及びMH-60は、それぞれCH-47及びUH-60の特殊作戦部隊用バージョンである。)における各機あたり1個クルーを超える人員数の配置が実現した。
これらの改編により、第160SOARの特殊作戦部隊に対する支援能力が大きく向上した。しかしながら、特殊作戦部隊全体としての改編や空軍特殊作戦コマンドからのMH-53ペイブ・ローの退役が考慮されておらず、また、結果的には、第160SOAR司令部に統制上の問題が発生することを予想できていなかった。
現時点で承認されている第160SOARの改編は、今後さらに3年間にわたって継続される予定であるが、この旅団規模の組織には、既に重大な問題が発生していることが明らかである。特に大きな問題となっているのは、隷下部隊である4個大隊の運用責任の所在が不明確であることと、隷下大隊のうち2個大隊が司令部から地理的に離隔していることである。第160SOARの司令部及び隷下部隊のうち2個大隊はケンタッキー州のフォート・キャンプベルに配置され、残りの2個大隊は東海岸及び西海岸にそれぞれ1個大隊が配置されているのである。
第160SOARには、32機の訓練用航空機、5台のフル・モーションのシミュレーター及び最新式のダンカー施設(訳者注:水没した航空機からの脱出訓練用装置)を装備する大隊規模の訓練機関、並びに第160SOAR所属機に関する新たな技術の統合を任務とする研究、開発、試験及び評価部門が配属されている。今後、国外紛争の鎮圧に必要な戦闘ヘリコプターや固定翼及び回転翼無人航空機システムを装備する1個大隊の増加が承認されれば、さらなる改編が必要となるであろう。
将来の第160SOAR及びARSOA(ARmy Special Operations Aviation,米陸軍特殊作戦航空隊)のために必要な改編とは何であろうか?(訳者注:ARSOAは、SOARの上級部隊である。ただし、現状では、ARSOAの隷下部隊は第160SOARのみであり、第160SOARの司令部がARSOAの司令部を兼ねている。)今後、SOAR以外の一般飛行部隊が特殊作戦部隊を支援する機会が増大するのであろうか?それらの一般飛行部隊を指揮するため、第160SOARだけではなく、ARSOAも独自の司令部を持つことが必要であろうか?
これらの問いに対する答えが明らかになるには、もう少し時間が必要であろう。しかしながら、1つだけ確かなことがある。第160SOARが陸海空軍の特殊作戦部隊を支援する唯一の回転翼機部隊であるかぎり、ナイト・ストーカーズが暇になることはないのである。
航空機の近代化
高度に近代化されたヘリコプターの装備は、部隊の改編と同じくらいに困難な業務である。過去7年半にわたる戦闘任務において、ナイト・ストーカーズと被支援部隊のニーズに応えてゆく中で、数えきれないほどの問題点が明らかになった。第160SOARのシステム統合・整備部門(Systems Integration and Maintenance Office)は、常にこれらの問題点に悩まされ続けてきたのである。
第160SOARは、航空機の近代化に対する努力を適切に指向するため、次のような基本的ガイドラインに従って業務を行っている。
– 緊要な特殊作戦部隊に特有の任務遂行能力の付与
– 任務遂行の可能性の向上
– 各プラットフォーム間の共通性の拡大
– 陳腐化したシステムの管理及び処分
– 信頼性、有効性及び整備性の向上
– 運用・支援コストの減少
老朽化したMH-6リトル・バードの更新は、第160SOAR指揮官にとって最優先の課題である。リトル・バードは、ベトナムの初期からグレナダ及びソマリアに至る長期間にわたる戦闘において、その効果が確認された血統書付きの機体である。特に2003年9月11日以降に製造されたMH-6Mは、MELB(Mission Enhanced Little Bird, 任務強化型リトル・バード)と呼ばれ、特筆すべき性能を誇っている。
リトル・バードの陳腐化問題に関する最も緊要な課題は、MELBブロック2のアップデート・プログラムの実現である。MELBブロック2には、イーサネットLANが搭載され、改良されたコントロール・ディスプレイ・ユニットと相まって、飛行管理システム及び武装システムの能力が飛躍的に向上している。
MH-60Mブラック・ホークは、まだ開発途上にあり、通常のUH-60Mをベースとした機体改修が行われている最中である。MH-60Mには、2,500軸馬力のYT706-GE-700エンジン×2台、幅広タイプのブレード及びCAAS(Common Avionics Architecture System,共通アビオニクス設計思想システム)が搭載されており、現在戦場に展開しているどのヘリコプターよりも格段に高い性能を有している。また、従来のMH-60LやMH-60Kに比べて、高高度及び高温状態におけるペイロードが大幅に増大しており、より広い運用範囲において特殊作戦部隊を支援できるようになっている。
すべてのMH-60Mは、DAP(Defensive Armed Penetrator)と呼ばれる機能を有しており、襲撃又は攻撃形態のいずれの形態にも迅速に変換できる。性能向上型ガン・コントロール・ボックス、改良型660発30mm弾倉、及び統合軽量型武装サポート・システム・ウイングを装備している最新型のDAP機には、重量軽減プログラムが適用されており、機体全体として400ポンド以上の重量が軽減されて、戦場滞在時間、搭載弾薬重量及び運用高度の増大が図られている。
MH-47チヌークは、これまで約10年間にわたって、高高度からの特殊作戦部隊進入・離脱作戦の立役者として活躍してきた機体である。現在、最新型のMH-47Gがフル生産状態にあり、より成熟された装備品を搭載するためのブロック向上プログラムが逐次実施されているところである。
来年には、耐用命数延長プログラムが適用された61機のMH-47G(重襲撃タイプ)の就航が予定されている。この機体には、CAASコクピット及び機能向上型オプティカル・センサーFLIR、マルチモード・レーダー及び空中給油装置等、数多くの新型任務用装備品が搭載されている。
技術開発
性能向上を目的とした各種の開発プログラムが第160SOARの全機種を対象に実施されている。
戦場における情報、監視及び偵察の重要性が増大するに従って、コックピットへのISR(Intelligence-gathering, Surveillance & Reconnaissance,情報収集、監視及び偵察)装備に対する要求がますます強くなってきている。このため、第160SOAR所属機の総合・統合的改修が実施され、飛行中に目標地域の画像をリアル・タイムで撮影・送信する能力が全機に付与された。
また、第160SOAR所属機の自己防護システムについても、継続的な改良が行われている。MH-47Gブロック2.2アップグレード・プログラム機及びMH-60Mの基本形態機には、統合無線周波数防護装置が装備され、レーダー脅威に対する防護能力を有している。また、このシステムは、5個の統合センサー共通ミサイル・ワーニング・システムで構成され、いかなる脅威に対しても、搭乗員を防護できる能力を有している。
一方、優先順位の低い要求及び要望に関しては、将来の技術革新を可能な限り活用できるように着意している。HFIS(Hostile Fire Indication System, 敵火力表示システム)は、国外紛争対処作戦における生存性向上のために不可欠のものである。また、合成画像システムは、視程ゼロ状態でも飛行を可能とするパッシブ・タレーン・アボイダンス・アンド・フライト・ディレクタ(パッシブ地形回避及び飛行指示)への道を切り開くものである。
第160SOARは、ブロック・アップデート・プログラム及びそれに付随する開発により成熟された各種技術が戦場においても有効であることを立証してきた。最も緊要な課題は、今後の技術革新の進行を踏まえつつ、高高度・高温ホバリング性能を維持しながら、より遠くに、より早く、より高く、そしてより静かに飛行する技術をいつ、いかにして、導入するかということである。
まとめ
現時点において予測しうる将来において、世界中で行われている特殊作戦に対する回転翼機による支援の要求は、益々増大するであろう。第160SOARは、これまでの成果を戦術・戦略的に再評価し、ナイト・ストーカーズがその任務を完遂するために最も有効な手段を模索し続けなければならない。
特殊作戦地上部隊指揮官の要求に応えるためには、ブロック・アップデート・プログラムにより航空機及びその他の装備品の性能を向上させるとともに、厳しい訓練を続けてゆくことが求められているのである。
Night Stalkers Don’t Quit!(ナイト・ストーカーズは諦めない!)
陸軍大佐 クレイトン・ハットマッチャは、ケンタッキー州フォート・キャンプベルに所在する第160SOARの指揮官である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2009年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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