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陸軍航空の情報センター

陸軍航空の過去5年間のクラスA航空事故発生状況

中佐 ショーン・オコネル
航空部長
アメリカ陸軍戦闘即応センター

2024年度、陸軍航空では15件のクラスA航空事故が発生し、その10万飛行時間あたりの発生率は過去5年間の平均値である0.85を大きく上回る1.90であった。これは2028年度以来最悪の値である。この状況を受け、アメリカ陸軍戦闘即応センターの分析・防止局航空部(DAP-Aviation)は、過去5年間のアメリカ陸軍のクラスA航空事故について、その傾向分析を行った。この5年間に陸軍航空で発生したクラスA事故は49件であった。その内訳は飛行中40件、飛行関連2件、地上7件であった。この期間中のクラスA飛行事故の傾向を適切に分析するため、陸軍で記録史上最良の有人航空事故率(飛行間10万時間当たり0.5)を記録したFY22を基準点として使用した。2022年度の低事故率は異常値であったため、別個に分析することとし、その前の2年間と後の2年間に分割して分析した。2020年度から2024年度までの間に生じた事故発生状況のうち重大なものは、実状況または訓練における緊急操作手順の不適切と、テール・ローターの効果喪失の2つであった(図1参照)。

図1:2020~2024年度のクラスA航空事故

本記事では、国防総省のヒューマン・ファクター・タクソノミー8.0(Department of Defense Human Factors Taxonomy 8.0)に焦点を当て、不安全行為(unsafe acts, 何が起こったのか)と潜在的欠陥(latent failure, なぜそれが起こったのか)の双方について検討する。不安全行為とは、人為的ミスや危険な状況を引き起こす操縦士や事故当事者の行動である。その不安全行為は、エラー(基準からの意図しない逸脱, unintentional deviations from standards)と既知の逸脱(基準からの意図的な逸脱, intended and deliberate deviations of standards)に分類される。エラーはさらに「パフォーマンスまたはスキルベース(performance or skill-based)」のエラーと「判断または決定ベース」のエラーに分類される(図2参照)。

図2:不安全行為のカテゴリー
不安全行為とは、人為的ミスや危険な状況を引き起こす操縦士や事故当事者の行動である。これらの行動は、操縦士や事故当事者と密接にまたは直接的に結びついている。不安全行為には、(1) エラーと (2) 既知の逸脱という、2つのカテゴリーに区分される。エラーには、(1) パフォーマンスベースのエラーと (2) 判断または決定ベースのエラーという、2つのサブカテゴリーがある。

なぜ不安全行為が発生したかは、潜在的欠陥や条件によって説明される。 その際、ある不安全行為の発生には、複数の潜在的欠陥が直接的または間接的に影響を与えた可能性がある。潜在的欠陥とは、組織のチェック・アンド・バランス機能を潜り抜け、事故が発生する条件を揃えてしまう組織的な不備(防御層の穴)と考えられる。これらの潜在的欠陥は、システム不備(System Inadequacies)と呼ばれる5つのグループに分類される。それらのグループは、個人、指揮官、支援、訓練および基準(Individual, Leader, Support, Training and Standards)と名付けられている(詳細な説明については図3を参照)。

図3:システム不備のカテゴリー

2020~2021年度

2020年度には、789,678飛行時間で5件のクラスA航空事故があり、その発生率は0.63であった。2021年度には、805,838飛行時間で7件のクラスA事故があり、その発生率は0.87であった。

この2年間に、14件のスキルベースのエラー、1件の判断エラー、1件の既知または意図的な逸脱があった(図4参照)。2020~2021年度のクラスA事故には、27件の個人、14件の指揮官、4件の基準、4件の支援、3件の訓練に関する潜在的欠陥が存在した(図5参照)。言い換えれば、主な不安全行為は意図しないエラー(何が)であり、その原因は個人および指揮官のシステム不備(なぜ)であった。サポート、訓練、基準の不足も2020~21年度の事故に限定的な影響を及ぼした。これは驚くべきことではなかった。ヒューマン・ファクターの分類法によれば、それぞれの不安全行為には少なくとも1つの個人のシステム不備が関連付けられているからである。

図4:2020~2021年度の不安全行為
図5:2020~2021年度のシステム不備

2022年度

陸軍航空史上最良の記録となった異常な年であり、803,683飛行時間で4件のクラスA事故しか発生せず、その発生率は0.5にとどまった。2022年度のクラスA飛行事故に関連する不安全行為は、すべて意図しないエラーであった。それらは3件のスキルベース・エラーと1件の判断エラーに分類される(図6参照)。システム不備のカテゴリーでは、7件の個人的な潜在的エラーと3件の指揮官の潜在的エラーが見られた(図7参照)。2022年度も、クラスA事故におけるヒューマン・エラーの主な要因は、意図しないエラー(何が起きたか)と、個人および指揮官のシステム不備(なぜ起きたか)であった。

図6:2022年度の不安全行為
図7:2022年度の システム不備

2023~2024年度

2023年度は、835,278飛行時間で9件のクラスA事故が発生し、その発生率は1.08であった。2024年度は、790,982飛行時間で15件のクラスA事故が発生し、その発生率は1.9であった。この期間中の不安全行為は、24件のスキルベースのエラー、12件の判断エラー、そして3件の既知または意図的な逸脱であった。このうち特にスキルベースのエラーが顕著に増加していることがわかる(図8参照)。

図8:2023~2024年度の不安全行為

システム不備のカテゴリーでは、63件の個人、50件の指揮官、16件の基準、16件の支援、18件の訓練に関する潜在的欠陥が見られた(図9参照)。個人および訓練システムの不備は、事故率に比例して増加した(2020~2021年度と2023~2024年度との間のクラスA事故発生件数の増加率は100%)。注目すべきは、指揮官および支援のシステム不備の増加が不釣り合いに大きかったことである(図10参照)。

図9:2023~2024年度のシステム不備の結論
図10:システム不備の変化

個人による意図しない不安全行為の増加と関連付けると、指揮官および訓練のシステム不備の増加は、経験が不足しまたは適切に訓練されていない兵士および指揮官の存在を示すものであり、これは陸軍航空が現在直面している中堅レベルの経験ギャップと一致している。支援および基準のシステム不備について、国防総省のヒューマン・ファクター・タクソノミー8.0には、次のように記載されている。

「支援システムの不備とは、不十分なリソースが要因となる場合を指す。特に、支援の種類、量、能力、または状態が、任務や業務を適切に遂行するに足りていない場合が多い。支援には、人員、装備、物資、官給品、インフラサービスおよび施設が含まれる。 」

「標準システムの不備とは、基準、規制、方針、または手順が不明確、非実用的、不適切、または存在しないと判断された場合を指す。」

これら2つの定義を額面どおりに受け取ると、経験や練度を超えた任務の遂行が求められている陸軍航空の准尉および下士官の中堅レベルの経験不足と一致していることがわかる。また、文書化された基準の重要性と、経験を補うために追加のリソースを必要としている兵士のための支援体制の必要性が示されている。

では、どうすればよいのであろうか?任務に焦点を当てた訓練を計画することで、不必要なリスクを回避し、指揮官向け航空搭乗員訓練プログラム・マニュアルに示されたリスク管理の本質的要素を具現することが重要である。そのためには、以下の事項を実行する必要がある。
(1) 指揮官の適切な訓練および資格認定
(2) 指揮官の適切な配置
(3) 段階的な訓練の実施(這う、歩く、走る)
(4) 指揮の要訣の完全な理解(部隊および兵士の能力を把握すること)
(5) 機長、編隊長、航空任務指揮官プログラムの厳格な実行

これらの重要な要素に焦点を当てることで、注意散漫(高い作戦頻度)、移行(指揮官の交代)、期待と現実のギャップ(経験不足)などによる危険発生を抑制することができるであろう。

訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故区分の概要は、次のとおりです(AR 385-10、2023年改正)。
クラスA- 250万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 60万ドル以上250万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 6万ドル以上60万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2万5千ドル以上6万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 5千ドル以上2万5千ドル未満の損害を伴う事故

クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷
クラスG- 生物学事故
クラスH- 化学事故

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年11月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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