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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧–AH-64Eの予期しない右旋転

軍属 ダナ・R・ブリューワー
事故調査および対策部局(Directorate of Assessments and Prevention)航空部
アメリカ陸軍戦闘即応センター

2機編隊での夜間飛行訓練中、後続機(AH-64E)が操縦不能となって森林地帯に落着し、その衝撃および墜落後の火災により機体が大破した。

飛行の経過

当該任務は、2機の航空機による夜間の練成訓練飛行であり、駐屯地外のヘリコプター訓練場付近で地域偵察、接敵機動および攻撃を訓練することになっていた。飛行開始から約39分後、編隊のうちの1機の副操縦士が予期せぬ右旋転に陥った。機長が操縦を交代し、機体制御を回復しようとした。当該機は、その後68秒間の間に一旦500フィートまで上昇したものの、12回転旋転した後、樹木に衝突して墜落した。樹木との接触によりメイン・ローター・ブレードが破損し、100フィート落下して、左側に横転した状態で停止した。衝撃により操縦士2名が重傷を負ったが、墜落後の火災で機体が完全に燃え尽きる前に自力での脱出を完了した。

事故発生前の状況

編隊長は、駐屯地街のヘリコプター訓練場付近における地域偵察、接敵機動および攻撃訓練を実施するため、2機による訓練任務および訓練場までの飛行経路を計画した。副操縦士は、作戦構想を作成し、両機の搭乗員に説明した。

危険見積(R-COP V1.3.1)は、双方の機長によって準備され、2人の機長に対してブリーフィングを実施した有資格の任務担当士官によって審査・承認された。当初は中程度のリスクと判断されていたが、対策の実施により低リスクに変更された。最大のリスクは、射撃準備間の空中衝突および状況認識の喪失であった。搭乗員が状況把握システムを使用し、射撃準備中の距離および高度の離隔を確保することでリスクは低減できたと判断された。任務担当士官のブリーフィングが終了した後、事故機の機長及び副操縦士は、搭乗員任務ブリーフィングを実施した。部隊指揮官から低リスク任務承認権者に指定されていた任務担当士官は、陸軍規則95-1、航空飛行規則および任務承認手順に従い、当該危険見積を低リスクとして承認した。

その後、搭乗員は飛行前点検を実施し、各機にミッション・データをアップロードした。当該編隊の離陸は、航空任務計画システムおよび通信保全システムに生じた問題により遅延した。

事故の発生状況

離陸後、2機編隊は、南西の天候(視界および雲高)が悪化しているのを把握しつつ、予定されていた経路沿いに飛行した。事故機の機長は、天候の悪化により、任務の変更を要請した。編隊長は、任務の変更を承認した。任務変更の時点では、2機のAH64Eは航空訓練場の外を飛行していた。編隊は方向転換し、飛行経路に沿って航空訓練場に進入した。編隊長は、ヘリコプター降着地域まで編隊を誘導し、そこでガン1(1番機)が左側の経路、ガン2(2番機)が右側の経路に分かれ、超低空飛行および離着陸を訓練した。しばらくして、ガン2の機長は、自分の飛行経路の付近に「薄い雲」を発見し、降着地域の変更を編隊長に要請した。編隊長は当該要請を承認し、2機編隊を別のヘリコプター訓練場に移動させ、超低空飛行訓練を継続した。

約30分後、事故機がヘリコプター訓練場の降着地域に着陸するため右旋回を開始したところ、右旋転が始まり、機体が地面に墜落して左側を下にして停止した。

事故発生後の経過

地面に墜落すると、事故機の救命無線機が作動した。副操縦士(後部座席)は、着座のまま自身の負傷程度を判断し、大きな負傷はないことを確認すると、後部コックピットから自力で脱出した。副操縦士は、後部座席の後方から火災が発生する前に前部座席に移動し、機長を救出しようとした。機長(女性)は意識を失っていた。何回か声を掛けると、機長は部分的に意識を取り戻し、副操縦士の助けを得ながら前方コックピットから脱出した。事故後の火災により、機体の大部分が焼失した。事故現場は市街地から遠く、消火設備もなかったため、自然消火するまでにすべての可燃物が燃え尽きた。

その間、2機目の機長は、事故機の上空を周回飛行し、当該機が墜落したことを報告した。空域情報センターが墜落初動対処を発令し、緊急医療対応を開始した。事故機の副操縦士は、機長を助けながら約20メートル離れた場所まで移動し、互いの負傷状況を確認し合った。副操縦士は、その後、懐中電灯で上空の僚機に合図を送り続けた。ガン1は、懐中電灯の信号を確認し、墜落した航空機の少なくとも1名を確認したと報告した。

事故発生当時、同じ大隊のUH-60Mがドアガン銃撃を行うために墜落地点に向かっていた。当該UH-60Mは、事故機の搭乗員を救出するため、事故現場に急行した。事故機の副操縦士は、到着した医療要員の診断を受け、救急車で陸軍医療センターに搬送された。事故機の機長は、同じく到着した医療要員の診断を受け、当該UH-60で同医療センターに搬送された。

搭乗員の練度

機長の総飛行時間は526時間であり、機長としての飛行時間は121時間、副操縦士としての飛行時間は405時間、AH-64Eでの飛行時間は451時間、NVG(暗視眼鏡)飛行時間は63時間、NS(夜間暗視システム)での飛行時間は84時間であった。副操縦士の総飛行時間は341時間であり、AH-64Eでの飛行時間が255時間、NVG飛行時間が35時間、NS飛行時間が52時間であった。

結 論

LTE(Loss of Tail Rotor Effectiveness, テール・ローターの効果喪失)は、テール・ローターを装備するすべてのヘリコプターで発生する可能性のある事象である。意図しない右旋転が突然に発生した場合は、次の要領で回復を試みるべきである。

特に、高出力が要求される状況で、低高度を対気速度30ノット未満で飛行する場合には、当該飛行の実施に先立ち、リカバリー・パス(回復経路)の腹案を準備しておく必要がある。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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