AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

エア・ソルジャー・システム(エアSS)の3Dコンフォーマル・シンボルについて

DVE関連事故防止対策の検討状況

スペンス・グイダ中佐
エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャー
アラバマ州ハンツビル

「…訓練方法や操縦技術を改善することは困難な状況の中、…DVEに起因する事故を減少させるためには、…航空企業による技術的改善を図り、DVE環境下での運用におけるパイロットの状況把握能力を向上させる以外に道はない。ただし、位置・方向情報を効果的に提供するためのシンボルの改善に関して、その研究の成果が得られつつある。各級指揮官は、技術的な改善方策が確立するまでの間、適切な教育訓練およびリスク判断をもって、空間識失調関連事故の防止に努めてもらいたい。」
–2014年5月発行のフライトファックスに掲載された、将来航空運用に関するアメリカ陸軍戦闘即応/安全センター航空部長マイク・ヒギンボザム中佐の記事からの抜粋

DVE(degraded visual environment, 悪視程環境)は、水平線の確認を困難にしたり、視程を悪化させたりすることにより、パイロットの知覚情報を混乱させ、空間識失調を誘発する。また、ダウン・ウォッシュにより渦巻き状に舞い上げられた砂塵は、ベクション(視覚誘導性自己運動感覚)を引き起こし、操作の誤りの原因となる。さらに、航空機の複雑な運動は、(内耳の)前庭器官の平衡感覚に障害を生じさせ、空間識失調が及ぼす影響をさらに悪化させる。これらの知覚に関わる諸問題は、パイロットの疲労、ワークロードの増加、予定外の計画変更および経験の不足とあいまって、より深刻な結果をもたらす可能性がある。

しかしながら、外部からの視覚情報の代わりに仮想の視覚情報(バーチャル・リファレンス)を利用することによって、DVEにおける空間識失調を防止し、安全性を向上できる可能性がある。このような構想のひとつに「拡張現実(Augmented Reality, AR)」がある。これは、頭部/ヘルメットに装着したディスプレイなどの透過型ディスプレイを用い、現実世界から得られる視覚情報の上にコンピューター・グラフィックを重ね合わせ、リアルタイムで表示できるようにするものである。この際、透視可能なディスプレイを用いることにより、現実世界に付加的情報を重ね合わせて視認することが可能となるのである。

エア・ソルジャー・システム(エアSS)は、アラバマ州ハンツビルのエア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーが開発している、DVE問題を解決するための装備である。このシステムを用いることにより、頭部と同じ方向を向くHMD(helmet mounted display, ヘルメット・マウント・ディスプレイ)に3Dコンフォーマル・シンボル(つまり、拡張現実, AR)を表示させることが可能となる。そのシンボルは、現実世界の視覚情報の上に仮想世界の視覚情報を重ね合わせて表示し、通常の外部からの視覚情報がDVEにより阻害される場合においても、仮想の視覚情報によりDVEにおける離陸、ホバリングおよび着陸のみならず、経路間の航法およびクルー・コーディネーションを容易にすることを可能とするのである。

エアSSの3Dコンフォーマル・シンボルは、2008年から2010年にかけてイギリスの国防省のLVT(Low Visibility Landing, 低視程着陸)プログラムにおいて開発された技術を活用したものである。その開発の過程においては、数多くの3Dコンフォーマル・シンボル・システムを用いたシミュレーション試験が実施され、この技術を用いることにより、ブラウンアウトにおける操作性の改善が可能であることが実証された。結果的には、2つの企業から提供されたシステムが装備化可能な提案として承認され、それを用いた飛行試験が実施されたが、諸般の事情により、イギリスにおける3Dコンフォーマル・シンボル・システムの装備化は、見送られてしまった。

エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーは、過去3年間にわたり、ワーキング・グループによる検討およびシミュレーターによる試験を行ない、3Dコンフォーマル・シンボルを開発・改善してきた。特に、補完情報とのハイブリッド化を実現するため、3Dコンフォーマル・シンボルと改善型2Dホバリング・シンボル(BOSS, ブラウンアウト・シンボル・システムに類似したもの)との組み合わせについて、試行錯誤を続けてきた。その結果、エアSSの3Dコンフォーマル・シンボルは、搭乗員の状況把握を容易とし、ワークロードを軽減し、有用性を改善して、離着陸性能を向上させるなど、DVEにおいて有効に機能することが確認された。

Legacy 2D symbology
従来の2Dシンボル
3D conformal symbology example
3Dコンフォーマル・シンボルの一例

最近では、2種類の2Dフライト・シンボル(従来のものおよび改善型ホバリング・シンボル)に3Dコンフォーマル・シンボルを組み合わせた場合と、それを組み合わせなかった場合について、CH-47FおよびUH-60L地上シミュレーターを用いた試験が実施されている。AMRDEC(Aviation & Missile Research, Development & Engineering Center, 航空・ミサイル研究開発技術センター)のSSDD先進試作・実験試験場において実施されたその試験には、経験の度合いが様々な、多数の陸軍パイロットたちが参加した。試験に際しては、フォート・アーウィンのNTC(National Training Center, ナショナル・トレーニング・センター)を模擬した砂漠地形上における編隊での離陸、ホバリング機動、着陸などを模擬した、現実的なシナリオが用いられた。そのシナリオを用いた試験は、昼間および夜間(NVG使用)の双方の環境下において、繰り返し実施された。人的要素に関する判定は、陸軍研究所(Army Research Laboratory, ARL)人的調査および設計部が所掌し、航空機の性能、状況把握、精神的ワークロードおよび有用性についての評価が行われた。その結果、改善型ホバリング・シンボルは、(3Dシンボルの有無に関わらず)従来の2Dシンボルと比較して、パイロットの状況把握能力の顕著な向上をもたらし、ワークロードを軽減し、有用性を改善して、離着陸性能を向上させることが確認された。さらに、3Dコンフォーマル・シンボルを用いた場合には、(2Dシンボルの方式に関わらず)3Dシンボルがない場合と比較して、パイロットの状況把握をより一層向上させ、ワークロードを軽減し、有用性を改善して、離着陸性能に大幅な向上をもたらすことが確認された。加えて、性能、状況把握、ワークロードおよび有用性に関し、相乗的または近相乗的効果を得るためには、改善型2Dホバリング・シンボルに3Dコンフォーマル・シンボルを組み合わせることが最適であることが確認された。

CH-47F Acvanced 2D hover symology
CH-47F改善型2Dホバリング・シンボル(左:巡航画面、右:ホバリング画面)
UH60LAdvanced 2D hover symbology
UH-60L改善型2Dホバリング・シンボル(左:巡航画面、右:ホバリング画面)

エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャーは、現在、ブラック・ホークおよびチヌークに関して、改善型2Dホバリング・シンボルに3Dコンフォーマル・シンボルを組み合わせるために必要な装備改善を推進しているところである。エアSSにおいては、視程障害を克服するために新たなセンサーを機体に搭載することは考えられていない。エアSSにおいては、むしろ、HMDに改善型フライト・シンボルを表示することにより、パイロットと機体の間のインターフェースを改善することが重視されている。このシンボルは、デジタル地形標高データと連接した既存の機体システムにおいて生成され、仮想地上目標、機体の滑り、接近速度ならびに水平および垂直加速指示をパイロットに提供する。完全な3Dコンフォーマル・シンボルを頭部の動きに追従して表示させる機能に関しては、現在、アラバマ州レッドストーン工廠の航空飛行試験部において、CH-47Fを用いた開発試験が実施されている。実用性試験は、完全なエアSSの3Dコンフォーマル・シンボルの実装が完了したのち、2015年度に開始され、その後速やかに製造および装備化が決定される予定である。エアSSは、パイロットの状況把握能力を向上させ、視程障害が発生している状況下における航空事故ならびに搭乗員の負傷および死亡の防止に大きく貢献することになるであろう。

著 者:ブラッドレー・M・デイビス(256-876-3085, bradley.m.davis24.civ@mail.mil)、AMCOM補給部ARL-HREDヒューマン・システム・インテグレーション担当
共著者:ジム・アイザックス(256-313-3921 james.r.isaacs.civ@mail.mil)、エア・ウォーリア・プロダクト・マネージャー・プログラム・インテグレーション担当

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2014年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    少し古い(2014年)の資料ですが、DVE対策の経緯を知るうえで参考になるのでは、と考えて翻訳してみました。アメリカ陸軍が開発中のDVE対策器材は、イギリス国防省の研究開発にそのルーツをたどることができることが分かります。また、2014年当時は、新たなセンサーを追加しない方向で検討されていたこともうかがえます。ちなみに、2016年度に発出された試験成果報告では、地形/障害物画像センサーを追加する方向で検討が進められています。