2006年度米陸軍航空事故発生状況の概要
今年度も航空事故防止の成果をまとめる時期となりました。06年度の陸軍航空における「クラスAからCの事故」(無人機を除く)の発生件数は、108件であり、昨年度よりも16パーセント減少しました。特に「クラスAの事故」は2005年度よりも26パーセント減少し、23件にとどまりました。全航空事故の発生件数についても、昨年度から大きく減少しました。単位飛行時間当たりの「クラスAの事故」の発生率についても、2005年度は1.56件/10万飛行時間でしたが、06年度は1.56件/10万飛行時間であり、41%の減少となりました。「クラスAからCの事故」の単位飛行時間あたりの発生率も10.02件/10万飛行時間から7.56件/10万飛行時間となり、25%減少しました。ただし、年間死亡者数については、昨年度と同数の34名でした。
米陸軍は、今年度も引き続きOEF(Operations Enduring Freedom、不屈の自由作戦)、OIF(Operations Iraqi Freedom、イラクの自由作戦)等の危険性の高い任務を遂行してきた。06年度に発生した「クラスAの事故」のうち61パーセント、死亡者数のうちの79パーセントが戦場において発生した。OEF及びOIFにおける死亡事故としては、2件の地面への激突、1件の海面への衝突、1件の空中衝突、着陸前にシートベルトを外していため、兵士が機外へ落下した事故が2件、ホイストの不具合による患者収容中の事故が1件、及び2点接地状態でピナクル・ランディング(訳者注:狭隘な山頂、家屋の屋根等への着陸。特にCH-47等の大型ヘリの場合は、前後どちらか一方の車輪のみを接地させ、搭載・卸下を実施する場合がある。)を実施中の事故が1件発生した。
各機種の事故発生件数
下のグラフは、各機種の事故発生件数及び死亡者数を示している。以下、これらの事故のうち、主要なものについて説明する。
UH/MH-60 ブラックホーク
ブラックホークは、「クラスAの事故」及び「クラスAからCの事故」の発生件数が全機種の中で最も多く、また死亡者数も最も多かった。特徴的なのは、搭乗中の兵士が、飛行中のブラックホークから落下する事故が、4件発生したことである。これらの事故のうち、3件は戦場で発生し、そのうちの2件においては、搭乗中の兵士が着陸前にシートベルトを外していたため、ブラウンアウトによるゴー・アラウンドの際に機外に落下した。もう1件においては、夜間着陸時、搭乗中の兵士が過早に航空機から飛び降りたため、20フィートの高さから落下し、死亡した。これ以外にも、巡航飛行中の機体から、1名の兵士が落下する事故も発生している。また、患者救助任務を実施中にホイストの不具合が発生し、2名の兵士が落下して死亡する事故も発生した。
戦場において、ブラウンアウト状態で着陸中に発生した事故も3件あった。そのうちの2件は、患者後送任務を実施中に発生したものである。そのうちの1件において、ブラックホーク全体の半分以上の死亡者が発生した。当該機は、2機編隊の2番機として、NVGを使用した人員空輸任務を実施していたが、何らかの原因により、ほぼ水平飛行のまま、約105ノットの速度で地面に激突した。この事故により、8名の兵士と4名の民間業者が死亡した。当該機は、月齢がゼロで月明かりがない中、計画していた経路よりも南側の街明かりが多い経路を飛行していた。当初は、長機の右後方を追従して飛行していたが、墜落の直前に長機の左後方にポジションを変更しようとしていた。当該機にはフライト・データ・レコーダーやコックピット・ボイス・レコーダーが装備されていなかったため、細部状況は明らかになっていないが、2番機が長機の右側から左側に移動する際、地上の街明かりに幻惑され、1番機を見失った。このため、2番機の機長等は、長機を探すことに気をとられてしまい、高度低下に気づかなかったのではないかと推定されている。
もう1件の事故は、夕暮れ(日没後40分)に裸眼によるVMC飛行中、砂漠地域の湖にある小島から離陸する際に発生した。操縦士の証言によれば、空間識失調に陥ったことが原因で、水面に衝突・横転したものと考えられ、2名の搭乗員が死亡した。
「クラスB及びCの事故」においては、グランド・タクシー中のUH/MH-60が、地上の障害物(駐機中の航空機、ライト用のポール等)にメイン・ローター・ブレードを接触させる事故が発生している。
AH-64 アパッチ
アパッチにおいては、「クラスAの事故」が5件発生し、5名が死亡(そのうち3名は戦場において発生)した。
このうち1件の死亡事故は、ロケット弾射撃のためにダイブした際に地面に激突したものであった。この事故で操縦士が2名とも死亡し、機体も墜落後に発生した火災により損壊した。
また、夜間にNVGを使用し、戦闘隊形で飛行中の2機のAH-64Dが空中衝突する事故も発生した。僚機が長機との位置関係を変更しようとした際に長機に異常接近し、僚機のテール・ホイールが長機のメイン・ローターに接触した。長機は、墜落・破壊し、操縦士は2名とも死亡した。僚機も大きく損傷したものの、無事に着陸した。本事故においては、僚機が真上から長機に接触していることから、街明かりが障害となって、僚機から長機が良く視認できなかったことが間接的要因であった可能性がある。地面の明かりと航空機の航法灯との混同を防止するための対策としては、長機よりも低い高度を飛行することも有効である。長機が僚機よりも上方に位置すれば、夜空が背景となって、僚機から長機を視認が容易になるはずである。
「クラスAの事故」のうち2件は、QRF(quick reaction force, 即応部隊)の戦闘任務中に発生した。一方の事故においては、飛行前に実施すべき点検を一部未了のまま離陸していた。機長は、本来飛行前に完了しておくべき業務に気を奪われながら飛行していた。また、副操縦士(射手)は、TADSの調整及びNVGのピント調整を実施していた。このため、どちらの操縦士も、地面に激突するまで、機体が少しずつ降下していることに気付かなかった。この事故により、機長が死亡した。
もう1件の事故は、昼間に緊急即応部隊としての飛行任務を実施中、機長が空中衝突を回避するため、突然、急激な降下旋回を実施し回復不能な状態となったものである。機長は、操縦以外のこと(航法システムの操作に不慣れな副操縦士の援助等)に気を取られ、他機との異常接近に気付いた副操縦士の声に驚いて、反射的に急激な操作をしてしまったと考えられる。この事故で、操縦士が2名とも負傷した。
CH/MH-47 チヌーク
CH/MH-47シリーズにおいては、3件の「クラスAの事故」が発生し、14名が死亡した。このうち、2件の「クラスAの事故」は、ピナクル・ランディングの最中に発生した。1件目は、山岳地帯において、AN/AVS-6(V)3型NVGを使用し、夜間のPZ(pick-up zone, 搭載地域)からの離脱任務を実施中に発生した。機長は、ピナクル・ランディングにおいて、アプローチを終了してホバリングに移行後、2輪で接地するために後方に小移動した。その際、後部ローター・システムが機体の左側方の樹木に衝突・飛散し、機体は操縦不能に陥った。10名の搭乗者全員が死亡した。
2件目においては、ピナクル・ランディングにおいて機体姿勢が不安定となり、右側に横転して斜面を滑落した。墜落後に火災が発生した火災により機体は破壊してしまったが、幸いなことに全搭乗員は、軽症を負ったものの、脱出することができた。
また、天候が悪化する中、MH-47GがTV受信タワーに衝突し、機体が分断して地面に激突する事故が発生し、4名が死亡した。
なお、飛行中の部品等(コックピット・ドア、後部パイロン・アクセス・パネル、トランスミッション・カウリング、カウリング・クラムシェル等)の落下に起因するクラスCの事故が7件発生している。 このうち2件においては、機体に損傷が発生している。
OH-58D カイオワ・ウォーリア
カイオワ・シリーズに発生した「クラスAの事故」は1件だけであり、死亡事故はなかった。しかしながら、「クラスAからCまでの事故」は、合計23件発生した。
FADEC(full authority digital electronic control, 全電子式燃料制御装置)の手動スロットル操作に関連する事故が7件発生した。そのうちの1件の事故においては、手動スロットル操作の要領を展示中に、滑走路に落着し、「クラスA」に相当する損害を発生させた。もう1件の事故においては、エンジンがオーバートルク状態となり、「クラスB」に相当する損害を発生させた。その他の5件の事故は、エンジンのオーバースピードが発生し、「クラスC」の損害が発生したものである。また、これとは別に、FADECの不具合に起因する「クラスBの事故」も報告されている。
さらに、オートロ訓練中のマスト・バンピングによる「クラスC」の損害も発生した。また、戦場においては、ワイヤー・ストライクによる「クラスBの事故」も発生した。
OH-58A/C
OH-58A/Cに関しては、「クラスAからCの事故」が7件発生した。その内訳は、1件の空中衝突、1件のワイヤー・ストライク、1件のセットリング・ウィズ・パワーに伴う墜落、1件のオートロ訓練中のハード・ランディング、2件のエンジン温度超過、及び1件の原因不明の出力低下に伴う落着であった。
AH/MH-6
「クラスB及びCの事故」が3件発生した。その内訳は、エンジン不具合に起因する事故が2件、オートロ訓練中のハード・ランディングによる事故が1件であった。
UH-1
06年度のUH-1の事故は、2件であった。その内訳は、原因不明の墜落(死亡者なし)が1件及び「クラスB」のエンジン不具合が1件であった。
固定翼機
固定翼機については、「クラスB及びCの事故」が合計6件発生した。その内訳は、バード・ストライクが2件、C-12で発生したタッチ・ダウン時の降着装置のかく坐が1件、C-12Uの階段付キャビン・ドアを開放中の負傷事故(ドアのハイドロリック・ダンパー・アッパー・マウンティング・ボルトのせん断により、ドアが強い力で開放し、搭乗員の指を挟みこんだ)が1件、エンジンのオーバートルクが1件、及びブレーキの機能試験中の機体損傷が1件であった。
要 約
本年度は、全般的には例年よりも良好な成果を残せたものの、34人もの尊い人命を失ってしまったことは、非常に残念である。特徴的な事項としては、着陸直前の航空機からの落下による事故により、2名の兵士が死亡し、1名が重傷を負っていることがある。接地前にシートベルトを外すことが有利かもしれないが、降着後の迅速な卸下のためには、安全確保についても十分な考慮が必要である。事故防止の観点から、安全確保に対する十分な着意が必要である。ある落着事故においては、着陸直前にシートベルトを外した兵士のみが重傷を負い、シートベルトを装着していた他の兵士は、軽症ですんでいる。
我々戦闘員は、常に限界に挑戦しなければならないが、独断で行動することは避けなければならない。いかなる任務においても、指揮官が必ず存在し、常に兵士の行動を統制し、その行動に責任を持たなければならないのである。死亡・負傷した兵士達に対する指揮が適切に実行されていたならば、彼らは死なずに済んだかもしれない。
コンバット・レディネス・センター(Combat Readiness Center, CRC)は、指揮官及び各個人が列線、コックピット及び戦場において、危険要因を発見するために役立つソフトウェアを多数開発している。これらのソフトウェアには、Preliminary Loss Reports(損害発生速報)、Risk Management Information System(危機管理情報システム)、Accident Reporting Automation System(事故報告システム)、Army Readiness Assessment Program(米陸軍即応評価プログラム)等があり、USACRCのウェブ・サイト(http://crc.army.mil.)で入手可能である。
積極的なリーダーシップの発揮が、事故防止の鍵である。今こそ、部下達に感化を与えるべき時である。2007年度も航空事故撲滅に向けて引き続き挑戦し、全将兵が一丸となって、戦友の命を守ろう!
編集者注:本記事は、2006年11月15日現在のCRCデータベースに基づくものであり、今後到着する報告により、統計資料及び結論に変更が生じる可能性がある。
訳者注: 米国の会計年度の開始は10月、終了は9月である。また、米国陸軍の航空事故は、概ね以下のとおり区分されている。
クラスA- 100万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスB- 20万ドル以上100万ドル以下の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは疾病、又は5人以上の入院を伴う事故
クラスC- 1万ドル以上20万ドル以下の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスD- 2,000ドル以上1万ドル以下の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病を伴う事故
クラスE- クラスDに至らない航空インシデント
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2006年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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