IIMCからの復帰訓練
IIMC(inadvertent instrument meteorological conditions:予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)に遭遇しないようにする最善の方法は、VFR(visual flight rules:有視界飛行方式)気象状態以下の気象では飛行しないことである。しかしながら、それができないことは誰でも分かっているし、気象予報がVFRであっても、常にVFRで飛行できるとは限らない。IIMCに入ってしまったならば、直ちにIFR(instrument flight rules:計器飛行方式)に切り替え、機体のコントロールを確保して、計器飛行進入が可能な飛行場まで飛行しなければならない。
その事故は、NVG(night vision goggles:暗視眼鏡)を使用した夜間編隊飛行訓練を実施中に発生した。2機のUH-60はそれぞれ所属部隊を出発してから訓練実施飛行場で合流し、編隊飛行を開始した。両機の搭乗員は、以下の気象情報を入手していた。
Minimum Ceiling: few at 700, scattered at 7,000, 7 miles visibility with heavy rain showers
Temperature: 15°C
Dew Point: 14°C
Winds: 260 at 9 knots
Weather Warning: Thunderstorms in the local flying area
訓練実施飛行場でホット・リフュエルによる燃料補給を完了後、編隊は計画された経路に向けて出発した。出発直前に新しい気象情報を入手したが、予報に大きな変更はなかった。しかしながら、飛行するにしたがって気象が悪化し始めたため、長機は飛行経路を変更して訓練を継続した。長機の副操縦士は、当該部隊に配属されたばかりの操縦士であり、所要の訓練をまだ完了していなかった。2番機は2人のベテラン操縦士が操縦していたが、夜間飛行の訓練はやや不足気味であった。
僚機は、編隊飛行を開始してから約20分後に長機を見失った。僚機は長機に対し、長機が視認できるまで、長機との距離を離すことを連絡した。僚機は、それまでの飛行経路に対して直角に飛行方向を変換したところ長機を視認できたので、その旨を長機に報告した。長機は僚機の報告を了解し、回りこんでから2番機の後方に位置することを通報した。その後、長機は僚機に対し、「霧に入ってしまったが、すぐに出られるだろう。」と通報した。10秒後に2番機は長機の状況を確認しようと連絡を試みたが、長機からの応答はなかった。長機は、森林地帯に墜落し、3人の搭乗員は重傷を負った。
教訓事項
本航空事故に関する現地調査の結果、本航空事故に関係する環境、訓練及び指揮について、以下の状況が明らかになった。本航空事故の発生には、これら3つの要素のすべてが関係しているが、特に「IIMCからの復帰訓練の不足」が最も大きく影響したと考えられる。
計画について
本編隊飛行訓練は、飛行当日夕までは計画されておらず、当日の夜遅くになってから2機の搭乗員が集合し、実施を決定した。搭乗員は、編隊飛行の要領、IIMCにおけるブレイク要領、及び長機の交代要領について調整したが、正式なブリーフィングは実施しなかった。また、指揮官は、危険見積書の承認を実施したが、規則に定められたところの飛行任務指揮官の選定を実施していなかった。なお、僚機が長機を見失ったとき、どちらの航空機も調整していたIIMCにおけるブレイク要領を実施しなかった。
訓練について
雲中飛行状態になった場合の対処について、操縦士に自信を持たせるためには、実機を使用した計器飛行訓練が極めて重要である。シミュレーター訓練は、計器飛行及び緊急操作に関する知識を付与するためには有効であるが、例え失敗しても負傷することがないため、どうしても現実味というようなものが不足する。実際に恐怖に直面しているかどうかという点において、航空機とシミュレーターは大きく異なるのである。また、陸軍航空全般として雲中飛行については否定的な風潮がある。私自身も、若い操縦士が「雲中は絶対に飛行しない。」と言っているのを聞いたことがある。このような態度で計器飛行に熟達した操縦士が育つはずがなく、このままでは、すべての操縦士が「IIMCに入りさえしなければ問題がない。」と考えるようになってしまうだろう。しかしながら、我々は、時には我々が欲しない状況に入ってしまうものなのである。
指揮官について
各級指揮官は、操縦士を計器飛行に熟達させるための訓練時間を増加するように着意しなければならない。気象は完全には予想できないものであり、IIMCに対する各操縦士の対処能力も明確ではないが、指揮官は操縦士が計器飛行に熟達できるように最大限の努力を払わなければならない。また、各部隊の航空安全幹部は、訓練担当操縦士と調整し、各個人の飛行記録を再確認して、技量未熟な計器飛行操縦士を指揮官が把握できるように補佐しなければならない。計器飛行においては、指揮官は自ら長機に搭乗すべきである。そうすれば、例え指揮官自身が計器飛行に未熟であったとしても、指揮下の操縦士は必ず指揮官の指揮に従うはずである。操縦士が雲中飛行を恐れていたために命を落としてしまうようなことは、絶対にあってはならない。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Safety Center 2004年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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