任務の成功に不可欠な任務ブリーフィング
多くの人々は十分に理解や準備ができていないまま任務を開始しがちです。 これには航空搭乗員も含まれます。 事故記録を見ると、望ましくない結果が生じるのは、搭乗員が任務の内容について適切にブリーフィングを受けておらず、十分に準備ができていない場合が多いことが分かります。 計画、調整そして任務ブリーフィングの過程でコミュニケーションに隔たりや誤解があると、作戦はローターが回り始める前に深刻な問題に陥る可能性があります。
以下は、任務ブリーフィングの欠如または不完全さが要因として挙げられた事故事例です。 (ただし、その要因が事故の原因であったとは限りません。)
- ある飛行中隊が3日間の訓練演習を行っていました。 搭乗員は演習開始前にブリーフィングを受けていませんでした。 中隊長はブリーフィングの必要性を認識しておらず、演習前に行われた計画会議には、航空安全担当士官が出席していませんでした。 3機のUH-1航空機の搭乗員には戦術的な空中強襲潜入任務が割り当てられました。 空中部隊指揮官(AMC)は作戦担当士官によるブリーフィングに出席しましたが、そのブリーフィングは部隊の野外SOP(作戦規定)に従ったものではありませんでした。 作戦担当士官は搭乗員にブリーフィングを行う際にチェックリストを使用していませんでした。 このため、必要な項目のいくつかがブリーフィングされませんでした。 すでに真夜中に近く、早朝のフライトのため全員が早く就寝したがっていました。 中隊長は任務の完遂を急がせました。 天候の回復を待つことで失った時間を取り戻そうとしていました。 翌朝、緊急性を感じた隊員たちは、気象ブリーフィングを行わずにフライトを開始しました。 航空機の飛行前点検は前夜に終わっていました。 任務開始前の外観点検は、チェックリストを使用せずに行われました。 長機の搭乗員は航空機の重量重心計算を確認しましたが、パフォーマンス・プラニング・カードは準備できていませんでした。
3機の航空機が離陸し、搭載地域まで飛行しました。 中隊長は一部の搭乗者用座席を取り外し、任務を急ぐように指示していました。 搭載地域に降り立った3機の航空機には、それぞれ7名の兵士が搭乗しました。 長機の搭乗員は搭乗者へのブリーフィングを行わず、1名の搭乗者がシートベルトを着用していない状態のまま離陸しました。全員がシートベルトを着用できるように座席の配置を変更する時間を惜しんだためでした。 搭乗者名簿も記入されていませんでした。 離陸後数分して、長機のパイロットは傾斜地に向けて緩やかな進入を開始しました。 着陸予定地点の約100ヤード手前で右側のスキッドが地面に接触しました。 パイロットはサイクリックを操作して機体の制御を維持しようとしましたが、機体は右側に横転しました。 シートベルトを正しく着用していなかった搭乗者1名が軽傷を負いました。 長機のパイロットは、任務を急かされる雰囲気の中で操縦していたことに加え、疲労も感じていました。 部隊が定めた24時間、48時間、72時間の勤務時間制限を超過しており、過去24時間で5時間、過去48時間で11時間しか睡眠を取っていませんでした。 - 別のUH-1は、兵士をある場所から別の場所に移動させる4機編隊の長機でした。 長機の操縦は副操縦士が担当していましたが、任務前ブリーフィングに参加できず、要約した情報を機長から聞いただけでした。指揮所にはワイヤー・ハザード・マップがなく、谷間を飛行する予定であったにもかかわらず、事前の経路偵察も行われませんでした。
編隊は高速道路に沿って数分間飛行した後、戦闘縦列隊形に移行し、対地高度約125フィートを90ノットで飛行していました。 副操縦士は1組のワイヤーを発見し、それらの上を飛行し、航空機の右側からそれを見ていました。 前方に注意を戻した時、飛行経路上にさらに多くのワイヤーを発見しました。 航法を担当していた機長もほぼ同時にそれに気づきました。 機体はワイヤーに衝突し、樹木の中に墜落しました。 - 6機編隊が夜間の有視界飛行に必要な条件を下回る気象条件で離陸しました。 2番機の副操縦士は長機を見失い、空間識失調に陥った後、意図しない左旋回をしながら降下してしまいました。 当該機は墜落し、3名の搭乗員全員が死亡しました。 飛行開始前に最新の気象情報に基づいたブリーフィングは行われず、任務ブリーフィングには予期せぬIMC(計器気象状態)に遭遇した場合の対応手順に関する情報も含まれていませんでした。 事故の数か月前に操縦課程を卒業したばかりだったその副操縦士は、計器飛行の経験が全くありませんでした。 同乗していた教官操縦士は、許容時間を7時間以上超えた勤務をしており、疲労状態にあるのが明らかでした。
- ある部隊が野外演習を行っていました。 その部隊には夜間の野外運用に関する具体的な手順が定められておらず、搭乗員に対する演習前の機動ブリーフィングも行われていませんでした。 あるAH-1パイロットは、夜間任務に割り当てられました。 当該パイロットは気象ブリーフィングを受けず、パフォーマンス・プラニング・カードの作成や検討も行わず、ヘリコプターの正確な重量重心も確認せず、飛行間点検にチェックリストも使用していませんでした。 照明のない制限地から離陸しようとした際、ホバリング高度で右後方にドリフトしてしまいました。 メイン・ローター・ブレードが何本かの木に接触し、当該AH-1は墜落してしまいました。
- あるUH-1の機長は山岳飛行に関する正式な訓練や経験がなく、その副操縦士も山岳飛行を経験したのは9年前でした。 兵士を山岳地帯に輸送する任務が与えられましたが、どちらのパイロットも山岳地形飛行についてのブリーフィングを受けていませんでした。 ヘリコプターは山頂が平らな山に着陸し、兵士らは降機して任務を完了しました。 その後、兵士たちは航空機に戻り、離陸しました。 2人のパイロットは重量、密度高度、風が航空機の性能に及ぼす影響を考慮していませんでした。 指揮官は、パイロットたちに対し、任務中に予想される環境条件に応じた運用限界を考慮した計画を要求していませんでした。 航空機が有効な転移揚力を獲得すると、副操縦士は出力を上げました。このことが左ペダルの余裕を減少させてしまいました。 その後、航空機は山頂の外縁付近で不利な風を受け、左ペダルの要求量が利用可能量を超えてしまいました。 機体は右に旋転し、墜落しました。
部隊における任務の計画は管理者の役割です。 そして、指揮官に至るまでの指揮系統がそれに関与しなければなりません。 任務に関するすべてのパラメータを定義する任務ブリーフィングは、部隊のSOP(作戦規定)に従って、その指揮系統の一員または作戦担当士官によって行われるべきです。 これは特に、パイロットが直接の監督下から離れて行動する、単独機や単独パイロットでの任務において極めて重要です。 指揮官や作戦担当士官は全ての飛行に同行することはできませんが、航空機搭乗員があらゆる面で飛行の準備ができているかどうかを確認することはできます。 飛行前に、搭乗員が任務を十分に理解し、どのように任務を遂行するか、それに伴うリスクについて把握しているかどうかを確認することはできます。完全なブリーフィングを行うことは、任務完遂を確実にするための最初の重要なステップなのです。
この記事は、1984年3月14日のフライトファックスに掲載されたものです。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2013年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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