AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

ニアミス報告

元陸軍少佐 ジェフ・ウォーレン

Near-Miss Reporting

軍隊における任務遂行中においては、数多くの者がニアミスを経験しています。それは、高圧線を危機一髪で回避したことかも知れないし、編隊でブラウンアウト状態のLZ(landing zone, 着陸地帯)に着陸している時に空中衝突しそうになったことかも知れません。

ひょっとすると、UAS(Unmmand Aircraft System, 無人航空機システム)を操縦中にヘリコプターに衝突させるところだったことかも知れません。あるいは、地上移動中にLMTV(Light-Medium Tactical Vehicle, 軽中型戦術車両)で水牛にぶつかりそうになったことかも知れません。いずれにしても、これらのニアミスが事故に至らなかったのは、事故発生に至る前に事象の連鎖が断ち切られ、負傷や死亡、装備品の損傷などが回避されたからです。

航空科隊員のほとんどは、安全確保の重要性を理解できています。ブリーフィングを行い、危険見積を行うことが習慣となっています。航空機や搭乗員、そして任務に関し、安全の確保が常に意識されています。しかし、ニアミス報告については、どうでしょうか?恐らく、戦闘計画の作成やその下達のようには、しっかりと行われていないのではないでしょうか?

ニアミスは、計画されず、予期されず、認識されないまま、日常的に発生しているのです。その事象には、小さなことから大きなことまであります。例えは、油圧供給装置の固着したバルブをハンマーで叩いて回そうとしたとか、通路を横切って設置されている電気コードにつまづいたとか、トレーラーを接続するため大型車を誘導なしで後退させたとか、ブラウンアウト状態のLZに着陸した航空機同士が異常接近したことを上空の統制機だけが目撃したとか、運用中の航空機が知らされていなかった建築物に「ほとんど」ぶつかりそうになったとかいうようなことがあります。

Safety Triangle
図1 安全の三角形(コノコフィリップス社)

あなたは、今、思っていることでしょう。「だから? 誰も怪我をしていないじゃないか」事象の連鎖が断ち切られて、事故が発生せず、死亡したり、ケガをしたり、物を壊したりしなかっただけのことではないか。しかし、1件の死亡事故が発生する前には数多くの不安全が存在することが、その詳細には差異があるものの、多くの研究によって明らかにされているのです。図1の安全の三角形モデルは、不安全(Unsafe Acts)、ニアミス、小事故、大事故および死亡事故の相関関係を示したものです。この図から分かるように、30万件の不安全が発生すると600件のニアミスが発生することになります。三角形の頂点を見れば、30万件の不安全が発生すれば、それに関連する1件の死亡事件が発生することが分かります。ニアミスを見逃さず、何らかの対策を講じれば、死亡事故を防止することができるのです。

だから何なのでしょうか?それが軍事作戦に何か関係があるのでしょうか?実際のところ、それは大いに関係があるのです。軍人である我々には、睡眠不足になりながら長時間に渡り、過酷な環境の中で困難な任務を遂行することが求められています。それゆえ、すべての隊員が自分自身のニアミスや、それを目撃したことを記録し、それを簡単に報告できるようにしたならば、非常に多くの件数のニアミスが発生していることに驚かされることでしょう。ニアミスについて知ることは、我々がどのレベルにいるかを明らかにし、頂点の死亡事故に至ることを防止することにつながるのです。ひとりひとりの隊員は、かけがえのないものであり、毎日使用している装備品も大切なものです。

ニアミスについて報告することは、陸軍における安全文化を変えることを意味します。ニアミス情報の報告・収集を行い、新たな安全文化を作り上げられるのは、小隊長から師団長までの各級指揮官しかいません。部隊安全担当将校に報告するための記録・提出要領は、簡単なものでなければなりません。メモ用紙のようなものであっても良いのです。報告の手段としては、報告者が記名で報告するかどうかを選択できるようにしたうえで、目安箱のようなものを設置すべきです。安全担当将校は、そのカードからデータを収集し、指揮系統に沿って報告することになります。このことにより、最下層の指揮官が自分の部隊のニアミスを把握し、対策を取るとともに、上級部隊の助言や援助も得られるようになるのです。

日々、任務を遂行する隊員たちにとっては、余計な仕事を増やすだけのことのように思えるかも知れません。各級指揮官や下士官兵は、それが自分自身や戦友の命を救うために必要なことであることを教えてやらなければなりません。ニアミス報告は、飛行前ブリーフィングや危険見積と同じ位に重要な安全施策なのです。飛行前ブリーフィングや危険見積の制度化は、陸軍の安全管理に関する文化を変え、人員の死亡や負傷および航空機の損傷を減少させてきました。今では、ブリーフィングや危険見積は、陸軍におけるすべての作戦に浸透しています。今こそ、陸軍航空の部隊にニアミス報告を浸透させ、陸軍全体での制度化を目指すべき時です。これは、事故発生に至るまでの事象の連続を断ち切るために必要不可欠な施策なのです。

           

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2018年03月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    ニアミスとは、通常、「航空機同士の異常接近」を表す言葉ですが、ここでは、「重大な事故や災害が発生する寸前の状況(a situation when a serious accident or a disaster very nearly happens – Oxford Advanced Learner’s Dictionary)」を表す言葉として用いられています。