AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

ダスト・ランディングにおける安全確保

上級准尉3 ジョン・P・キング
テネシー州兵第278装甲騎兵連隊第4飛行隊

陸軍のパイロットならば誰でも、いつかは砂漠地帯を飛行する日がやって来ます。全てのパイロットが、ダスト・ランディング要領を習得し、訓練しておかなければなりません。かくいう私も、IP(instructor pilot, 教官パイロット)ではないし、ダスト・ランディングのエキスパートだと胸をはって言えるわけではありませんが、イラクでの経験に基づき、私なりの教訓事項を述べてみたいと思います。

我々航空科部隊は、主として展開地を基盤として運用されるが、我々の支援対象である地上部隊は、より前方の戦場を基盤としており、我々が必要とする貴重な情報を与えてくれる。彼らは、いわば前方航空管制官であり、その活用を適切にすれば、非常に有効な情報源となる。ただし、彼らはパイロットではないので、その識能にはおのずから限界があることを忘れてはならない。彼らにとって、傾斜10°の斜面は平地であり、植生が全くないLZも良好なLZなのである。たとえLZの周囲に障害物があったとしても、飛行安全に影響を及ぼすとは必ずしも考えない。さらに、航空機のパワーや巻き上げられるダストの量を、少なく見積もりがちである。飛行安全確保の最終責任を担っているのは、あくまでも我々パイロットなのだ。

砂漠飛行の4C

■ Competence (能力)

ダスト・ランディング訓練の実施前に、自分の航空機の限界を知ること。計器指示の意味を理解し、必要馬力と利用可能馬力をしっかりと把握すること。高温・重荷重で、かつダストの中を飛行している時に、ローター低回転警報音が鳴り響くような事態は、誰だって避けたいものだ。私は、UH-1HやOH-58A-Cなどの非力な機種での飛行経験が多かったため、ブラック・ホークに搭乗し始めたころは、その強大なパワーに安心しきっていたが、それは間違っていた。あるIPが、「自分の航空機を知るということは、射撃検定に似ている。たとえ的のどこに当たっても点数が同じであっても、狙うのはあくまでも的の真中でなければならない。」という説明をしてくれたときに、航空機を理解することの重要性を改めて認識できた。

自分の航空機を理解できたならば、いよいよ訓練だ。訓練は、できるだけ実際に近い環境で行わなければ意味がない。安全地帯に身を置いたままで、ダスト・ランディングを極めることなどできるわけがない。形ばかりの訓練ばかりを行うことは、自分自身に目をつぶっているのと同じだ。「IFR飛行」と「雲中飛行」が違うのと同じように、「軽微なダストの中の飛行」と「本当のダスト状態における飛行」とは違う。常日頃から、機体が砂まみれになってパイロットが機付長の洗機作業を手伝わなければならないくらい、厳しい環境で訓練すること。そして、訓練の賞味期間は短い。訓練、訓練そして訓練だ。

■ Cognizance(認知)

LZには、地盤強化資材が敷設されている場合が多いが、オレンジ色のマーカー・パネルが1つあるだけの場合もある。操縦課程で教わった要点に従って、LZの状況を確実に把握すること。

・ 高空偵察を実施すること
進入軸、障害及び風を把握すること。より良好な着陸適地を発見したならば、着陸地点を変更すること。風向・風速が判明しない場合は、発煙を要請するという選択肢もある。ダスト・クラウドが発生しそうな場所を予測しておくこと。

・ 低空偵察を実施すること
斜面、ワジ、兵器、岩、動物、ポール等の障害物の有無を確認すること。飛散しやすい建築資材、テント、タープ、移動式ランタン等はないか。地盤強化工事が施されていても、ダスト発生の可能性がある。私の場合も、着陸点が道路なので地盤が固いだろうと安心していたら、ものすごいダストに巻き込まれた経験がある。ダストで地面が見えなくなった場合に備えて、あらかじめ着陸点を十分に確認しておくことが重要である。

・ 図上検討を実施すること
「着陸点」は、じ後、「離陸点」になることを着陸する時から意識しておくこと。離陸時に障害となるような物はないか?着陸後に燃料や人員を搭載する場合は、必要馬力が増加することを忘れないこと。

ダスト・ランディングの要領は、計器着陸システム(ILS)の着陸進入と非常に似ている。着陸地点を決定し、進入角をセットし、前進速度ゼロ若しくはほとんどゼロで着陸すること。着陸寸前にダスト・クラウドが発生し始めると、世界が急激に狭くなり、時間の流れが突如として速くなる。接地点の状況把握は、ダスト・クラウドに入る前に完了しておくこと。

■ Color/Contrast(色彩・コントラスト)

砂の色は、着陸地域の砂の状態を知る目安となる。通常、着陸に適しているのは、砂の色が暗い場所である。明るい色の砂は、粒子が細かく、ダスト・クラウドを生成しやすい。

植生は、我々の味方だ。接地点には、接近速度とドリフトの判断に利用可能な参照点がある場所を選定すること。例えば、前方から30-45°、機首から15フィートほどのところに小さな草むらを発見したならば、参照点として活用可能だ。ローターのダウン・ウォッシュにより、接地するまで継続的に参照点を確認できるように、参照点がローター・ディスクの範囲内に入るように着陸すること。NVG使用時には、周囲の確認がより一層重要となる。

■ Crew Coordination (クルー・コーディネーション)

私は、イラクで750時間以上の戦闘状況下での飛行を経験した。そのほとんどにおいて、機付長を務めてくれたのは、Gard軍曹とBabb軍曹の2人であった。

ダスト・ランディングが成功するかどうかは、クルー間のコミュニケーションの良否にかかっている。我々の場合、通常、操縦していないパイロットが、無線の操作、計器のチェック、および障害物の確認を担当した。また、一方の機付長は障害物の有無と僚機の位置、他方の機付長は障害物の有無とダスト・クラウドの発生を確認し、注意喚起するようにした。クルー相互がこれらの大量の情報を迅速に伝達しあえることが必要だ。

操縦中のパイロットは、「航空機の操縦」に集中する。各クルーは、地上に参照点を確保し、参照点を見失ったものは誰でも、操縦中のパイロットに通報する。例え1人でも地面を見失った場合、操縦中のパイロットは、ゴー・アラウンドを決心する。また、クルー全員が、ゴー・アラウンドをコールする権限を有している。操縦中のパイロット以外のクルーがゴー・アラウンドをコールする場合には、ゴー・アラウンドする方向、またはゴー・アラウンドする理由をあわせて通報すること。

以下、ダスト・ランディングにおける具体的なクルー・コーディネーションの一例を紹介する。(P:操縦中のパイロット、P*:操縦していないパイロット、CE1:左舷側に搭乗している機付長、CE2:右舷側に搭乗している機付長)

P* : Before landing check is complete.(着陸前点検完了)
P : Go-around is to the left, over the wires 100 feet.(ゴー・アラウンドする場合は、左方向、100フィート先の高圧線超越を予定)I have my touchdown point in sight.(接地点を確認)
CE1: Wires.(高圧線発見)Hold your descent.(高度を保持)
P : Holding.(高度保持中)
CE1: Chalk 2 is two discs 5 o’clock.(2番機は、5時の方向2ローター)
P* : I have a ditch 30 meters 11 o’clock.(11時の方向30メートルに溝を発見)
P : Roger.(了解)
CE1: Clear wires.(高圧線を通過)
P : Cleared of wires.(高圧線通過確認)
CE2: Dust forming at the tail.(後方でダスト発生)
P : Roger.(了解)
P* : Drifting left.(左にドリフト中)
P :(操縦で反応)
CE2: Dust at the doors.(ダストはドア位置)
P : I have the ground.(こちらは地面視認可能)
CE1: I have the ground.(こちらも地面視認可能)
CE2: Dust is overtaking.(ダストがかぶってきている)
P : Still have my reference.(こちらは参照点確認可能)
CE2: I have the ground.(こちらは地面視認可能)Clear down right.(右側着陸支障なし)
CE1: Clear down left.(左側着陸支障なし)

そして、着陸する。一方、ゴー・アラウンドが必要な場合は、以下のようになる。

CE2: Go-around, barbwire.(ゴー・アラウンド、鉄条網あり)
P : Go-around (initiates a climb).(ゴー・アラウンド(上昇開始))
P : Chalk 1 is go-around (to Chalk 2).((2番機に対し)1番機はゴー・アラウンドする)
P* : 50 feet (AGL), 800 (TGT) climbing.((対地)50フィート、(TGT)800で上昇中)
(TGTがリミットの場合はTGT、トルクがリミットの場合はトルクを読み上げる。)
P* : 80 feet, 846 stop collective.(80フィート、846コレクティブ・ストップ)
P* : 100 feet clear the wires, clear to go left.(100フィート、高圧線をクリアー、左方向に離脱)

CE1: Clear left; Chalk 2 is three discs back 5 o’clock.(左方向クリア、2番機は5時の方向3ローター)
P* : Chalk 1 is coming left (to Chalk 2).((2番機に対し)1番機は、左側に移動)

編隊でダスト・ランディングを行う場合、1番機よりも2番機のほうがより難しい部分がある。例えば、2番機には「1番機と同時に着陸するか、または、1番機が着陸しダストが治まるのを待ってから着陸するか」という決心が必要になる。どちらに決心すべきかは、「状況による」としか言えない。ただし、基本的には全機同時着陸が望ましい。後続機は、風の利益を最大限に生かせる場所に着陸すること。可能ならば、2番機は、1番機と同時に、1番機の後方でかつ風上に着陸すべきである。ただし、地盤の状況が不良あるいは不明である場合には、2番機は1番機の着陸が終了してから着陸すべきである。そうすれば、2番機はダストの程度を把握することが可能になり、1番機がゴー・アラウンドするのに必要な余裕も確保できる。

最後に、ゴー・アラウンドの是非について考えてみたい。ゴー・アラウンドは、「無料」である。我々パイロットにとっての第1優先は、搭乗者及びクルーの安全であり、着陸に問題があると思ったならば、躊躇せずゴー・アラウンドすべきである。確かに他のパイロットから、何か言われるかもしれない。私は、あるダストの発生しやすいLZにおいて、2回ゴー・アラウンドし、3回目に着陸した経験がある。最初のゴー・アラウンドはコ・パイロットが決心し、2回目は私が決心した。確かに、他のパイロットたちにはからかわれたが、機付長たちは「機長の決心は正しかった」と言ってくれた。それだけで私には十分である。安っぽい椅子に腰掛けて遠くから見ている人間よりも、実際の現場にいる人間の判断が尊重されるべきだ。

陸軍航空は、中東における我々の任務遂行に不可欠な存在となっています。私がイラクで所属していた飛行部隊は、8機のUH-60Aを運用し、1年間におよそ28,000人の兵士を輸送しました。我々の任務は、再補給、空中機動、人員空輸、そして偵察と、非常に多岐にわたっており、他の飛行部隊が実施するVIP任務を支援するために、搭乗員を派遣することもありました。戦地においては、灼熱地獄のなか、一日がとてつもなく長く感じるほどに疲れきった状態であっても、ダスト・ランディングを実施しなければならないことを覚悟しなければなりません。

私の経験が、今後イラクに派遣されるパイロット諸官の参考になれば幸いです。戦地における飛行安全を祈念しています。

キング上級准尉の連絡先は、john.p.king@us.army.mil.である。

           

出典:FLIGHTFAX, June 2006, U.S. Army Combat Readiness Center 2006年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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