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陸軍航空の情報センター

優れた航空安全プログラムの要素とは何か?

フライトファックス1992年9月号

陸軍安全部長として、ここ数ヶ月の間、数多くの出張をしてきました。指揮官養成課程の学生と話をした時も、野外で旅団や師団の指揮官や最先任上級曹長と話をした時も、同じような質問を受けました。 それは「優れた航空安全プログラムの要素は何ですか?」というものです。

指揮官たちは、組織内の安全意識を改善または向上させるためにはどのようにすべきなのかを知りたがっているのです。残念ながら、安全は燃料や弾薬のように支給できるものではありません。 安全は、指揮官のリーダーシップ、指定された安全管理要員、適切なリスク管理、訓練、そして明確に定義された航空事故防止計画を通じて発展していくものです。安全意識は多くの要素を含むものであり、士気と同じように、環境から生まれるものです。航空安全プログラムを成功させている部隊を視察すると、そのすべてが以下の5つの重要な要素に焦点を当てていることがわかりました。

1.指揮官のリーダーシップ

指揮官が発する多くの指針や指導の中で、安全哲学に関する宣言ほど重要なものはありません。安全の目的は、事故防止を通じて部隊の戦闘力を維持することです。指揮官が安全にどれくらい重きを置くかが、部隊全体における安全の優先順位を決定します。その安全哲学は、指揮官のリーダーシップのスタイルを表現し、指揮官自らの言葉で書かれ、指揮官の行動によって裏付けられたものでなければなりません。

指揮官の関与は、航空安全プログラムの成功に最も重要な要素であり、安全は部隊の活動のあらゆる面に統合されていなければなりません。航空機事故を防止できたとしても、私有車事故で搭乗員を失ってしまっては、陸軍の任務を達成することができないのです。サイドラインからの応援だけでは不十分です。 航空安全におけるリーダーシップには個人的な関与が求められます。中でも任務ブリーフィング、AAR(事後検討会)、そして列線視察は重要です。操縦訓練に自ら参加することも、指揮官としての重要な行動です。指揮官は、月次や四半期ごとの安全会議だけでなく、すべての指揮官および参謀会議で安全を確認すべきです。

質の高いリーダーシップは24時間体制のプロセスです。指揮官はさまざまなリーダーシップ手法を使用できますが、成功の鍵となるのは以下の行動です。
•パフォーマンス基準を確立する
•全ての人員がパフォーマンス基準を認識していることを確認する
•訓練が基準に沿って行われていることを確認する
•運用が規則通りに行われていることを確認する
•確立されたパフォーマンス基準からの逸脱に対して即時かつ効果的な措置を講じる

2.安全担当者の指定

指揮官は安全管理者であり、どのような安全検査、訓練、報告が必要かを知っている必要があります。しかし、指揮官は一人でそれを行うことはできません。指揮官は専任の航空安全士官(ASO)を指名する必要があり、その人物は機長として勤務しうる戦闘能力を持つ経験豊富な准尉であるべきです。優秀な航空安全担当下士官も重要です。さらに、最先任上級曹長に至るまでの他のすべての下士官も安全に関与しなければなりません。下士官たちも部隊を守る共同責任を負っており、そのリーダーシップなくしては、無意味な事故が続くことになりかねません。

航空安全士官と航空安全担当下士官のアドバイスは、航空医官や従軍牧師のアドバイスと同じように重要です。指定された安全担当者は自身の責任を十分に理解し、その職務における能力の発揮を確実にするために必要な訓練を受けなければなりません。さらに、安全担当者を岩の下に埋もれさせていたのでは効果的に機能を発揮できません。部隊の任務における安全の重要性を増大させるためには、指揮官へのアクセスや情報の透明性を必要とします。

3.リスク管理

リスク管理は、あらゆる安全プログラムの基礎となります。この5段階の循環プロセス – 危険の特定、危険の評価、リスク決定、対策の実施、監督 – を状況判断プロセスに統合するのは難しいことではありません。前向きな指揮官が用いるリスク管理は、部隊のすべての任務や活動を統括する考え方となり得ます。

指揮官はリスク管理の原則を適切に適用して模範を示すことに加えて、部隊の全メンバーがリスク管理を十分に理解し、効果的にその原則を適用できるようにしなければなりません。安全とは事故を防ぐことであり、指揮官と部隊の全兵士がリスク管理を実践することが任務の強化と事故の防止につながるのです。

リスク管理の訓練においては重要な点が見逃されがちです。多くの上級指導者はリスク管理を適切に使用していますが、若い将校や下士官がコックピットや飛行場、整備格納庫などで日々リスク管理の原則を適用することはもっと重要です。陸軍安全センターでは、TRADOC(アメリカ陸軍訓練教義コマンド)と協力して、リスク管理を教育機関や訓練管理教義に取り入れ、小隊やチームレベルにまで具体的な内容を教えられるように努めています。

4.訓練

安全プログラムを成功させるには、個人とリーダーという 2 つの立場における基本的な安全方程式が必要です。兵士は確立された基準に従って訓練され、その技術的・戦術的能力および規則の知識に対して責任を持たなければなりません。危険を効果的に特定し、リスクを管理するための訓練を受ける必要があり、また、一貫して標準に従ってタスクを実行するための自制心も必要です。そして指揮官は、基準を強制する準備ができており、意欲的で、能力がなければなりません。マニュアル通りでない行動に対しては、指揮官はその場で修正を行い、必要であれば兵士に再訓練を受けさせなければなりません。

安全プログラムの整った部隊のパイロットは、航空搭乗員訓練マニュアルで要求される任務の遂行能力の制限を最小限に抑えながら各個訓練を行い、基本的なタスクの能力を向上させています。また、これらの部隊のパイロットは、高度なプロ意識を発揮し、自己管理を責任を持って行っています。

優れた安全プログラムを持つ部隊は、飛行任務の計画と搭乗員の選定を慎重に行っています。クルー・コーディネーションの訓練は、すべての任務の一部となっています。また、教官パイロットと計器飛行審査官は、安全および標準化プログラムを実戦し、飛行規律の違反者に対して即時かつ効果的な措置が取れるように調整を行っています。これらの部隊の下士官は、マニュアルどおりに整備作業を行うよう訓練され、整備基準を満たす作業を行い、航空機が任務遂行可能な状態であることを確認しています。

5.事故防止計画

部隊は、明確に定義された航空事故防止計画を作成し、航空安全プログラムを正式化する必要があります。その計画は、各人の責任を定め、安全プログラムの成功を監視するために指揮官が必要とする実施要領、目標、および手段を明確にしたものでなければなりません。その計画は、事故防止が指揮官の年間訓練指針の重要な要素であるという哲学に基づいていなければなりません。

事故防止計画では、少なくとも月1回の航空安全会議を開催し、現在の安全問題や得られた教訓について部隊の構成員同士が議論できるようにする必要があります。また、半年ごとの航空機事故防止調査の実施も定めるべきです。調査から得られた情報は、指揮官による事故防止計画の効果の判断に用いられます。また、90日間無事故で休暇1日を与えるなど、良い成果が得られた場合の褒賞を含めるのも良いアイデアです。

最近行われたフォート・レブンワースの指揮官養成課程の学生に対する私の教育の後、ある学生は評価シートにこのような意見を書いていました。「陸軍安全センターから指揮官などをわざわざカンザス州まで派遣するのは、その指揮官たちにとっても私にとっても完全な時間の無駄です! 今頃になってもまだ安全について知るべきことをすべて知らないのなら、私たちは問題のある指揮官だということになります!」安全について知るべきことをすべて知っていると思っているなら、その若いリーダーこそが問題のある指揮官だと断言させていただきます。昨年、陸軍は372名の兵士を失いました。49件のクラスA航空事故があり、約1,500台の地上車両に深刻な損害が生じました。1991会計年度の事故による損失の総額は5億ドルを超えています。このような損失は予算に組み込まれていないものです。問題のある指揮官は誰もいないのでしょうか?

元航空旅団長であり、そして陸軍安全部長である私でも、安全に関するすべての答えを持っているわけではありません。しかし、部隊を守るためには、指揮官の関与、指定された安全担当者と部隊のすべての下士官によるリーダーシップ、適切なリスク管理、訓練、そして明確に定義された事故防止計画が必要だと確信しています。これらが優れた航空安全プログラムの重要な要素です。安全とは意識するものです。 安全意識を持つことは訓練や即応性を妨げるのではなく、むしろ向上させることなのです。

標準に従って訓練し、任務の達成に必要なタスクのリストに安全を組み込んでいる部隊は、追悼式を行ったり重大事故を発生させたりすることを防止できるプログラムを定義しています。私たちは、そういった優れた組織が多く存在することを幸運に思います。私たちの課題は、師団や旅団が、部隊を守るためにこの素晴らしい例に従うことです。

デニス・カー准将(アメリカ陸軍、退役)は、この記事を書いた1991年12月から1994年2月まで陸軍安全部長を務めていました。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2013年02月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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