ヘルメットを装着すべき理由
ケブラー製戦闘用ヘルメットの防弾性能は、以前から高く評価されている。しかしながら、この個人装具により防護できるのは、弾丸や破片だけではない。本事例のように、約9トンの航空機による荷重から身を守ってくれたケースもあるのである。
当該機(ブラックホーク)は、交戦状態となることが予測されている降着地域(LZ)を目的地とする空中機動任務を実施中であった。そのLZでは、わずか1週間前に激しい銃撃戦が発生し、数機のヘリコプターが敵の射撃により損傷していた。このため、一部の搭乗者は、航空機からの卸下時間を短縮しようとして、着陸の約1分前にシートベルトを外していた。不運にも、当該機はLZの手前側にハード・ランディングしてしまい、シートベルトを外していた兵士のうちの一人が、機外に投げ出されてしまった。
機体は、ローター系統を激しく損傷しながら横転し、投げ出された兵士の頭部が機体の左側面の下敷きになった。しかしながら、戦闘用ヘルメットを装着していたため、航空機の荷重がかかっても、頭部がつぶされずに済んだ(写真参照)。その兵士は、医療施設に搬送されたものの、後遺症等を残すことなく完全回復できる見込みである。
この事故から得られるCRM(Composite Risk Management)に関する教訓は、以下のとおりである。
■ 最終着陸態勢は、全ての飛行状態のうちで最も危険な部分である。この態勢は、敵の火力、突然の回避機動、ブラウンアウト及びエンジン出力の不足により、不安全状態に陥りやすい。このような状態において、シートベルトを外すことが、はたして適切であろうか?本事故において、航空機の横転により重症を負ったのはシートベルトを装着していなかった搭乗者だけである。
■ 戦闘用ヘルメットにより頭部を保護するためには、あごひもを正しく装着しておく必要がある。航空機や戦闘用車両に搭乗している間、ヘルメット、防弾チョッキ及びシートベルトを装着しているかどうかが、戦闘や事故の後、新しい朝を迎えられるかどうかに大きく影響するのである。
CRMを適切にするためには、任務の計画段階において、敵の攻撃及び不安全の発生について危険見積を確実に実施することが重要である。ある危険要因について、しっかりと処置対策を実施しておけば、他の危険要因にもある程度の効果が期待できるものである。全ての危険要因をどれだけ排除できるかは、訓練の練度、情報の量及び各級指揮官のリーダーシップによって決定されることを忘れてはならない。
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出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2006年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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