AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

LSCOにおけるFARP運用

大尉 サマー・S・ランセット

ロシア・ウクライナ戦争は、LSCO(Large-Scale Combat Operations, 大規模戦闘作戦)に関し、多くの教訓をもたらしてきた。そのうち、米陸軍航空がLSCOで直面する課題に適用できるものは次の2つである。1つ目の教訓は、アフガニスタン、イラク、シリアにおける作戦に比べて、弾薬消費量が著しく増加したことである。2つ目の教訓は、分散が生き残るための鍵であるのを実証したことである(Robinson, 2023)。特に2つ目の教訓に関しては、陸軍航空の訓練演習においても中隊や騎兵中隊レベルでの分散運用を行う場合が多いものの、かねてから存在していた問題点を特定し、それを克服するための訓練ができていたとは言い難い。陸軍航空が戦闘準備を十分に整えるためには、分散運用が航空部隊の戦力維持にもたらす効果を適切に理解することが必要である。LSCOへの準備を焦点とした訓練が陸軍全体での最重要課題となる中、戦闘環境下での戦闘力維持という問題に真剣に取り組むことが求められている。

過去20年間にわたるCOIN(counterinsurgency operations, 対反乱作戦)では、陸軍航空の柔軟な運用があまり重視されてこなかった。航空科部隊は、恒久的な軍事基地や飛行場を拠点として運用され、そこで燃料や弾薬の補給を行ってきたのである。

また、展開中のパイロットは主に、航空搭乗員戦闘チーム(aircrew weapons team)の一員としてチームで飛行してきた。陸軍航空は、COINでの慣例から脱却し、LSCOの要求に適応しなければならない。恒久的な拠点からのチームによる飛行はもはや標準的な運用とはなりえない。

中隊のCP(指揮所)は24~48時間ごとに移動(ジャンプ)して、敵に発見されないようにし、生存性を高めなければならない。このことは、複数のCP地域から離着陸する可能性が高まることを意味し、ジャンプFARP(forward arming and refueling point, 前方燃料・弾薬補給所)(訳者注:移動型のFARP)の作戦地域全体での活用を図ることが重要となる。加えて、陸軍航空は、より大規模な部隊での機能別訓練を重視するようになっており、大隊等の展開地(tactical assembly area, TAA)や中隊CPの前方地域に、ジャンプFARPやサイレントFARP(訳者注:準備を完了した状態で待機中のFARP、活動を開始するとアクティブFARPと呼ばれる。)を開設する機会が多くなりつつある。ドイツのホーエンフェルス演習場にある統合多国籍即応センター(Joint Multinational Readiness Center, JMRC)や、カリフォルニア州フォート・アーウィンのナショナル・トレーニング・センター(National Training Center, NTC)では、中隊レベルの任務を重視したLSCO訓練が続けられている。一度に8機から16機の航空機を運用し、目標に対して段階的かつ継続的な攻撃を実施している。加えて、LSCOに対応するため、新たに加えられようとしている訓練方法が、第101戦闘航空旅団(Combat Aviation Brigade, CAB)が検討中の大規模長距離空中機動( large-scale long-range air assaults)である。この新しい空中機動は、最大で1個戦闘航空旅団全体を使用して、統合緊急戦闘加入(joint forced entry)を行うものである。これらは、LSCOにおいては、過去のCOINにおける戦闘航空旅団作戦と比較して、任務の遂行に本質的に異なる規模の燃料(クラスIII)と弾薬(クラスV)を必要とすることを示す例のごく一部に過ぎない。

FARPとその規模に焦点を移すと、これまでの訓練では、4〜8機の航空機が同時降着できる地積を有する、進入の容易な平坦地をFARPの開設場所に選定するのが一般的であった。そこでの燃料補給には、2~4台のHEMMT(重装甲機動戦術トラック)が用いられる。さらに、弾薬補給が必要な場合は、4~5台のPLS(パレット式積載システム)トラックが追加される。このような従来型の場所やレイアウトは、展開地近傍に配置される従来のアクティブFARPには理想的であったが、LSCOによってもたらされる課題を解決するには適していない。師団の縦深を網羅する任務を遂行するためには、FARP部隊の安全性と生存性を確保できるジャンプFARPが不可欠となる。FARPの配置は、発見されやすい開かつ地に限定されるべきではない。目立たない場所で特定の時間に活動を開始するFARPであることが望ましい。そうすることで、我の企図を秘匿し、生存性を向上させることが可能になる。

Army Techniques Publication 3-0.17「Techniques for Forward Arming and Refueling Points」によれば、FARPの選定は大隊S-3が担任し、METT-TC(任務、敵、地形、部隊と利用可能な支援、利用可能な時間、および民間への配慮)を考慮して行われる。FARPに求められている要件は、次の3点だけである。

この教義的な指針により、FARPの実施要領には無限の選択肢が与えられている。FARP設置場所の決定に大きく影響するのは、指揮官の革新性とリスクを受け入れる意欲であろう。

訓練中のFARPの能力については、しばしば「お手盛り」の評価がなされる。指揮官には、1~2倍の任務を支援するのに十分な燃料と弾薬を保有していると説明されることが多い。Field Manual 4-0, Sustainment Operationsおよび安全規則によれば、航空弾薬の輸送が許可されているのはPLSトラックおよび同トレーラーのみである(Department of the Army, 2019)。PLSトラックは1台で10パレットの弾薬を搭載可能であるが、異なる弾薬を同一トラック上で同時に輸送することは許容されていないことに留意しなければならない。つまり、AH-64中隊のCBL(combat load, 標準戦闘弾薬携行量)を満たす燃料および弾薬を輸送するためには、5台以上の大型トラックが必要になる。LSCOに対応するためには、このような「お手盛り」状態は容認できない。なぜなら、大規模なFARP部隊の前方への展開は、貴重な兵士と装備を失う重大なリスクをもたらすからである。

LSCOにおいて、FARP部隊は、敵にとって高価値かつ高収益な目標となる。戦闘状況下では、ジャンプFARPの大規模な車列は、敵の間接射撃、FPVドローン、偵察部隊、航空機などによる攻撃の恰好の標的となる(Wilson, 2024)。

このため、最初に提起したとおり、中隊規模の任務を効果的に支援できるクラスIIIおよびクラスVの補給能力を維持しつつ、いかにしてFARP部隊の規模を縮小するかが問題となる。この問題を解決するためには、クラスIIIおよびクラスVの輸送と保管に関する現行の教義やTTP(tactics, techniques and procedures, 戦術、技術及び手順)の再検討が必要となる。例えば、弾薬の混載制限を遵守したうえで、AH-64 8機分の標準CBLをどうやって1台のPLSに積載するのであろうか? CH-47FはクラスVを輸送できるのであろうか、もしできるとすればどれくらいの量までなのであろうか? 1個中隊のCBLに含まれるヘルファイアミサイルのみを輸送するには、何台のLMTV(light medium tactical vehicles, 軽中量戦術車両、陸自の「3 1/2tトラック」に相当)が必要なのであろうか? これらは、陸軍航空が十分な装備品を確保し、生存性を優先するためのTTPを開発する際に検討すべき疑問点のほんの一部に過ぎない。

もう一つの実行可能な解決策としては、FARP部隊の任務からクラスV補給品の輸送を完全に除外することも考えられる。それは、CH-47を使用して師団作戦地域全体にAHA(ammunition holding areas, 弾薬事前集積所)を事前に配置することで実現できる。これにより、ジャンプFARPの車両数を3台(HEMMT×2台、HMMWV×1台)まで縮小できる可能性がある。なぜなら、FARP部隊は前方に事前配置された弾薬まで移動するだけでよいからである。

FARP部隊の規模を縮小するためのもう一つのアプローチは、AAFARS(advanced aviation forward area refueling system, 先進型航空前方地域燃料補給システム)ファット・カウ(CH-47を改造した燃料輸送・給油ヘリ)などの活用である。AAFARSは合計2,000ガロン(約7,570リットル)の燃料を供給できる、4ポイントの給油システムである。この燃料補給器材は、空のブリビット(500ガロンの燃料ブラダー)をコンテナに収納して車両で輸送したり、満タンの状態でUH-60ヘリコプターでスリング輸送したりすることで移動できる。

CH-47を燃料補給源とするファット・カウ作戦は、最も効果的な手立てのひとつである。私の経験では、ファット・カウは最も迅速な燃料補給手段であり、特に任務開始後のラスト・ミニット(緊急)FARPの開設には有力な選択肢となる。

陸軍航空がLSCOにおいて直面する2つ目の課題は、ここまで述べた新たなFARPを開設するための訓練や準備をいかに行うかということである。訓練は指揮官から始めなければならない。リスクは部隊指揮官によって受容され、かつ軽減されなければならない。前方支援中隊は、大隊S-3と連携し、FARPの選定とFARPの運用に関し、意欲的に取り組まなければならない。このような新しい発想は、FARP選定に関する従来の考え方に転換をもたらす可能性がある。部隊は、開かつ地はなく、使用されていない道路や駐車場をFARP適地として加えるようになるかもしれない。また、大隊および中隊レベルの訓練では、車両操縦訓練や夜間の車両操縦訓練を重視しなければならなくなる。部隊は、敵に発見されるリスクを最小限にするため、ジャンプFARPを暗闇の中でも人目につかない場所に移動できる能力の重要性を理解し、強調しなければならない。また、通常の夜間操縦の訓練管理を適切に行うとともに、統合多国籍即応センターやナショナル・トレーニング・センターでの演習中に、夜間におけるジャンプFARPの開設等の一連の手順を行う訓練を優先して実施しなければならない。さらに、航空機を利用して仮想の弾薬集積所(AHA)を設置し、そこにFARP部隊を派遣して道路上に給油パッドを設置し、航空機への燃料補給を行わせるべきである。こういった訓練や検証こそが、LSCO任務を支援する小規模部隊の即応・運用能力を示すための試金石となるのである。

兵站は戦争の勝敗を左右する。LSCOにおいて、FARPの能力を向上または維持しつつ、その占有面積を減少させる方法を見出すことは簡単なことではない。適切な計画立案、準備、そして訓練を通じて、我々のプロセスに潜む問題点を特定し、戦闘状況下で航空部隊を維持運用する上で最も効率的かつ生存性の高いTTPを考案しなければならない。これまでとは異なるFARP行動方針を確立するためには、戦術レベルでの革新と、リスクを受け入れる意欲の向上が不可欠である。それらが実現されれば、LSCOがもたらす課題に対し、潜在的な問題点を先行的に特定し、解決策を見出し、備えることが可能となるのだ。

略歴:サマー・ランセット大尉はクラークソン大学で工学と経営学を専攻し、2018年に卒業した。現在は、米陸軍の航空科士官として勤務している。

参考文献:
Department of the Army. (2018, June 4). Techniques for forward arming and refueling points (Army Techniques Publication 3-04.17). https://armypubs.army.mil/epubs/DR_pubs/DR_a/ARN32371-ATP_3-04.17-001-WEB-3.pdf
Department of the Army. (2019, July 31).Sustainment operations (Field Manual 4-0). https://armypubs.army.mil/epubs/DR_pubs/DR_a/pdf/web/ARN19602_FM%204-0%20FINAL%20WEB%20v2.pdf
Robinson.T. (2023, May 5).Disperse and survive.Royal Aeronautical Society.https://www.aerosociety.com/news/disperse-and-survive
Wilson, T. (2024).Adapting to the expected LSCO conflicts in the 21st Century.”Army Sustainment, 56(2), 4-6).https://asu.army.mil/alog/currentissue.pdf

                               

出典:AVIATION DIGEST, Army Aviation Center of Excellence 2025年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

アクセス回数:68

コメント投稿フォーム

  入力したコメントを修正・削除したい場合やメールアドレスを通知したい場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。