空中消火用バケツの不時落下
これからお話しする事案が発生した時、私は他の5名の搭乗員たちと一緒に空中消火活動を行っていました。この活動の間、ほとんどの者が50~70時間の飛行をこなしていました。これほど集中して飛行することは、滅多にないことです。飛行時間を重ねるほど、我々搭乗員は互いに親しくなり、任務にも慣れてきました。飛行を繰り返すごとに、迅速な対応の重要性を認識するようになっていました。任務に慣れるに従って、自信過剰になってもいました。
通常の任務は、機体の飛行前点検で始まり、各機関とのブリーフィングで最新情報を入手し、その日の飛行任務を把握することになります。ブリーフィングが終了すると、航空機のエンジンを始動して飛行前点検を完了し、エンジンのパワーチェックを実施します。また、カーゴ・フックの点検および空中消火用バケツ(水のう)の機能点検も行います。
ある日、朝のブリーフィング中に空中消火任務の要求がありました。山火事は、昼頃になって気温が上昇してから勢いを増すことが多いので、朝のうちに任務を実施するのは異例のことでした。私たちは、直ちに航空機に向かい、離陸することにしました。急いでいたため、カーゴ・フックの点検を忘れてしまいました。さらに、搭乗員訓練マニュアルで示されている、対地高度300フィート未満ではカーゴ・フックをアーミングして使用可能状態にする、という手順も忘れていました。
飛行中は、視程が非常に悪かったので、最初の散水を実施するまえに、散水地点の偵察を行うことにしました。地形が予想外だった場合に備えて、機体重量をできるだけ軽くしておきたいと考えました。山間部を飛行している間に、対地高度300フィート以下を飛行しているのにカーゴ・フックをアーミングしていないことに気づきました。操縦を行っていない私がその操作を行いました。SAFE/ARMEDスイッチをARMEDに切り替えた途端、カーゴ・フックが開き、空中消火用バケツが燃え尽きた樹木の中に落下してしまいました。燃え尽きて温度が下がった黒焦げの地面に着陸し、クルー・チーフを降機させて、空中消火用バケツのところまで徒歩で移動させ、その状態を確認させました。空中消火用バケツは破損しており、それをヘリコプターで回収するためには、追加の搭乗員が必要なことが分かりました。
ヘリコプター基地に帰投後、故障探求を行ったところ、パイロット側のカーゴ・リリース・スイッチが埃でリリース側に固着していたことが判明しました。このため、私がSAFE/ARMEDスイッチをARMEDに切り替えた際にカーゴ・フックが開いてしまったのです。この不具合は、カーゴ・フックの点検を行っていれば把握できたはずでした。結果的には、損傷した空中消火用バケツは修理できましたが、急いで離陸する際に守るべき教訓が残りました。飛行前点検においては、確認すべきことをすべて確認できる時間を確保しなければならないのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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