油断大敵
飛行中の搭乗員が、通常以上の状況認識や集中を必要とする時期があります。もちろん、駐機場から地上滑走を始めてから戻るまでの間、事故や不安全が発生する可能性は常にあるのですが、特に砂塵や雪が舞い上がる状況における離陸や着陸のような事故の発生が予測される時期に集中力を傾注しがちです。しかし、予期しない時期にそれが起こることもあるのです。
CH-47のことを良くご存じない方のために説明すると、CH-47で4輪接地状態の地上滑走を行う際には、左席のパイロットがパワー・ステアリングとブレーキを操作し、右席のパイロットがサイクリックと推力(コレクティブ)を操作することになっています。右席のパイロットは、機体が滑走を始めるまでスラストを増加させ、その後、フラット・ピッチに戻してしまえば、機体周辺の安全確認と推力の監視の他にほとんどやることがありません。しかし、自分以外のパイロットが「操作」を行っている、というパイロットたちがうわの空になりがちな時期に、重大な問題が発生する可能性もあるのです。
イラク西部において海兵隊を支援するための8か月間の派遣に参加中のことでした。4輪接地状態での地上滑走を実施中に右後方の降着装置が外れたのです。その派遣中の任務は、その頃には、日付が違うだけで同じことの繰り返しになっていました。飛行場は異なるものの、人員用ターミナルから地上滑走で出発し地上滑走で到着するということをほとんど何も問題なく、少なくとも千回以上繰り返していました。
その日、駐機場を出発した私たちは、飛行場の反対側まで飛行し、その日の最初の乗客と貨物を搭載しました。搭載が完了すると直ちに、別の飛行場に向けて離陸しました。全ては順調に進んでいるように思えました。指示された滑走路に有視界気象状態で進入し、指示された誘導路に入りました。着陸すると直ちに、着陸後点検を実施し、その後すぐに地上滑走前点検を始めました。
僚機は既にその飛行場の別な部分に向かっており、それぞれの機体が現在搭載している人員・貨物を卸下した後、搭載地域で落ち合うことになっていました。駐機場への進入許可が得られると、卸下を開始しました。私たちの航空機については、駐機場において再搭載するものは何もない計画でしたので、駐機時間は短いものでした。
私たちは、指定された滑走路の進入点まで地上滑走することを要求しました。その際、その飛行場の規則に従い、駐機場に進入した際に使用したのとは違う誘導路を経由しました。駐機場を離れると、指示された誘導路のところで右旋回をしました。旋回しながら10フィート(3メートル)ほど進んだ時、機体が右に傾き、機首が上を向いたような気がしました。左席にいた私は、パワー・ステアリングが反応しないことに気づきました。操縦桿を握っていた隣のパイロットは、本能的に左前方にサイクリックを倒し、推力を増加してホバリング状態に移行しました。全く予期していなかった状況に遭遇した私たちは、2人同時に統合通信システムで通話しようとするくらいに混乱していました。
数秒後、エプロンにいた搭乗員から右後方降着装置が外れているという報告を受けました。それは、全搭乗員にとって、全く予期していないことでした。生地の降着地域に着陸した際に降着装置が外れることは、なくもありませんが、地上滑走中にそれが起きることは、全く想定外のことだったのです。直ちにタワーに通報し、空いている駐機場までホバリング移動することを要求しました。移動しながら、どうやって機体を地上に着陸させるかを考えました。
私たちがホバリングしている場所に、レスキュー・チームがマットレスと木製パレットを準備してくれました。僚機の搭乗員たちの支援を受けながら、レスキュー・チームは、タイダウン・ベルトを使ってパレットとマットレスを縛りあげ、サンドイッチ状態にしたものを作ってくれました。その間に、私たちは、地上にいる僚機の搭乗員の1人に長い機内通話用コードを機外に垂らしました。マットレスが準備できると、その搭乗員がその即席着陸プラットフォームの上に機体を誘導してくれました。
降着装置が外れたことは、大事に至らずに済みました。もし、右席のパイロットが、ぼやっとしていたり、ちょっとでも反応が遅れたりしたならば、もっと悪い結果がもたらされるところでした。この不安全から得られる教訓は、搭乗員は飛行前点検から飛行後点検までの任務実施間、常に戦闘状態でなければならないということです。そうすれば、油断によって危害を被ることを防止できるのです。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
「長い機内通話用コードを機外に垂らす」という処置が素晴らしいと思いました。