危険箇所への突進
任務遂行を急ぐOH-58Dの搭乗員にとっては、「弱くて方向が定まらない風」でさえも危険要因となり得る。以下は、「弱くて方向が定まらない風」が原因でもう少しで命を失うところを幸運にも助かった搭乗員達の手記である。
2010年6月19日の夜、我々は、計画任務の地域監視を実施することになり、最終承認権者である飛行大隊長から飛行計画の決裁を受けた。その夜の空は晴れ渡り、視程制限はなく、風は弱くて方向が定まらない状態であり、NVG飛行にパーフェクトな天候だった。この時、この風が重大な事態を招くことになろうとは、誰も予測できなかった。
飛行計画の作成は、通常通り行われ、任務を受領すると、必要な装備品の集積、重量重心の算定、ホバリング出力と出力性能の把握、飛行前点検の実施、クルー・ブリーフィングの実施等を完了した。すべては通常通りであり、我々にとって、何百回も行ってきた任務の一つに過ぎなかった。
OH-58Dカイオワの2機編隊で飛行場を離陸すると、アフガニスタン南部において地域監視を実施し、地上部隊を支援した。支援終了後、その近傍の前方運用基地(forward operating base, FOB)において燃料の再補給を行った。地上部隊からは、燃料補給完了後は、監視地域への進出を指示されるまで、その前方運用基地の着陸点(landing zone, LZ)においてアイドリング状態で待機するように指示があった。
前方運用基地到着時の風は、予報通りに弱かった。1番機からは、北向きに着陸するという無線連絡があった。我々の2番機は、1番機に続いて北向きに着陸点に進入した。両機とも、狭い駐機位置に異状なく着陸し、小移動を完了した。
燃料補給を完了後、地上部隊から離陸の要請があった。1番機は、風が弱かったため、反転して南向きに離陸した。それを確認した我々も反転し、南向きに離陸し、任務遂行のため監視地域に向かった。
約2時間、監視地域で任務を実施すると、再度燃料の補給が必要となった。両機は、燃料補給のため、先ほどと同じ前方運用基地に戻った。
前方運用基地に到着すると、2機のチヌークが着陸点の東側に着陸し、エンジンカット状態で任務待機をしていた。1番機は、まだ風が弱いので、前回とおなじく北向きに着陸することを無線で連絡してきた。我々は今度も、1番機に続いて着陸点に着陸し、燃料補給を行った。
今回は、監視地域に直ちに戻る必要がなかったので、燃料補給後、駐機位置に航空機を移動させた。駐機位置の地積が限られていたため、1番機は西側に寄せて着陸し、2番機は東側に寄せて着陸しなければならなかった。着陸後、燃料を節約するため、スロットルをアイドルまで絞った。10分ほど待機していると、地上部隊指揮官から離陸の要請があったので、スロットルを100パーセントに戻し、離陸を準備した。
1番機からは、前回と同様に、南方向に離陸するという連絡があった。我々は、離陸準備が完了したことを伝えた。1番機は、離陸し南方向に方向変換をした。続いて、我々も離陸し、1番機に続いて南方向に旋回した。2機のチヌークと燃料補給点の位置関係から、我々は1番機の真後ろを離陸しなければならなかった。この時、1番機のダウン・ウォッシュを全く考慮していなかった。
離陸したとき、我々の2番機は、1番機の飛行経路の真後ろのわずか下方に位置していた。機速が増加し始めると、転移揚力を得て機体が振動し始めた。このことは、ローター・システムを通過する空気量が増大し、ローターがより効果的にその能力を発揮し始めたことを示している。機体が振動し始めるとほぼ同じ時期に、我々の機体は1番機のダウン・ウォッシュの中に入ってしまい、それに打ち付けられるように降下し始めた。機長のミラー上級准尉は、コレクティブ・レバーを引き、降下を止めようとした。しかしながら十分なパワーを得られなかったため、機体は降下し続け、ミラー上級准尉は「着陸する」と言った。着陸地点の南端には障害物があり、錯雑地に着陸せざるを得なかった。
離陸状態から着陸状態へと転移している間に、ダウン・ウォッシュがダストを引き起こし、地上の目標を見失った(ブラウンアウト状態)。私は、コレクティブ・レバーを引き、計器飛行への移行を試みたが、上昇に必要なパワーを得られなかった。地上が視認できず、上昇もできない状態の中、我々にできることは、幸運を祈るだけだった。ブラウンアウト状態の中、我々の機体は、右方向にドリフトし、軍が保有するコンテナに衝突してしまった。
我々の搭乗していたカイオワは、ひっくり返って、左側面を下に横倒し状態になり、火災が発生した。私とミラー上級准尉は、共に意識があり、お互いに機体から脱出することを援助しようとしていた。我々は、シート・ベルトでぶら下がった状態であり、どちらもシート・ベルトを外せないでいた。私は、両足と左腕で体重を支えながら、何とかシート・ベルトを外すことに成功した。ウィンド・スクリーンを蹴り上げ、半身を乗り出すと、チヌークの搭乗員が私の体を引っ張り出してくれた。ミラー上級准尉は、シ-ト・ベルトを切断してから、やっと機体の外に引っ張り出すことができた。私に怪我はなかったが、ミラー上級准尉は鼻を骨折してしまった。
教訓事項
結果論ではあるが、危険箇所に突進してはならないということである。ミラー上級准尉と私は、できるだけ早く地上部隊のところに到着したいと思っていた。しかしながら、墜落してしまっては、地上部隊を支援するどころか、その足を引っ張ってしまった。
風が弱い今回の状況においては、離陸する際に1番機からもうすこし距離をとり、1番機のダウン・ウォッシュが消えてから離陸すべきであった。もし、あと2-3秒待っていれば、ダウン・ウォッシュを避けることができ、このような事故を起こさすに済んだと考えられる。
そして、万が一、前方の機体のダウン・ウォッシュの中に入ってしまった場合には、直ちに上昇するか、あるいは着陸するか、どちらかに全力を傾けるべきである。利用可能馬力が制限されているアフガニスタンにおいては、性能限界ぎりぎりの飛行は避けなければならない。
更に、ひっくり返った航空機からの離脱について、常に腹案をもっておくべきである。航空機は地上に上向きに着陸するものだと思い込んではならない。装備品はベストに装着しておき、シート・ベルトをつけたままでも、取り出せるようにしておくこと。逆さまになっている場合は、シート・ベルトは通常のようには外れないので、シート・ベルト・カッターをベストの手の届く場所に装着し、ひもで縛りつけておくことが必要である。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2011年05月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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