AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

死にたくなければ、油断するな!

上級准尉3 チャド・E・スタイナー
第12航空大隊B中隊
バージニア州フォート・ベルボア

ある暖かい日のこと、まだ若手の機長だった私は、アフガニスタンの東部にあるサレルノというところから、重荷重状態のUH-60Aで飛び立ちました(この物語では、この「A」型というところがミソです)。若手とは言っても、機長として数百時間の経験がありました。十分な経験を積んでいるように思われるかも知れません。しかし、初めて戦闘地域に派遣された私は、まだ自分に自信を持てずにいました。

サレルノから西に向かって飛び立った我々は、山岳地域へと入りました。私の大隊に所属するパイロットの多くは、派遣に先立って、コロラド州の陸軍州兵HAATS(High-Altitude Aviation Training Site, 高高度航空訓練所)における山岳飛行訓練に参加していました。アフガニスタンの地形を考えた場合、それは欠かすことのできない訓練でした。しかしながら、カブールのすぐ北にあるバグラム空軍基地まで戻るこの飛行においては、そこで習ったことをどこかに忘れてしまっていたようでした。

操縦かんを握っていた私は、いつもどおりの経路を飛行していると思っていました。ところが、自信過剰だった私は、知らないうちに小さなミスを犯してしまっていました。標高が徐々に増加するいつものあい路ではなく、もっと急激に上昇しなければならない別のあい路に入ってしまったのです。しかも、私は、自分が航法上の誤りを犯していたことに気づいていませんでした。最初に「A」型であることがミソである、と言ったことを思い出してください。我々の部隊が装備していたA型のブラックホークは、かなり古い機体でした。新型のL型と違って、エンジンのパワーが小さく、性能も高くありませんでした。搭乗員全員が「お気楽」に飛行している間に、そのA型のブラックホークで高標高、高温、重荷重の山岳飛行を行うことになってしまったのです。ご想像いただけるように、こういった場合、飛行条件は加速度的に悪化してゆくものです。

私は、風防に稜線が迫ってきたことにようやく気付きました。いつも経路と違うことを理解した私は、直ちに搭乗員全員にそれを伝えました。上昇を開始しましたが、なかなか高度が上がりません。それは、さきほど述べた飛行条件の悪化によるものでした。事の重大さに気づいた搭乗員たちからは、いつもの活発な会話が消え去り、ついには沈黙してしまいました。私は、エンジン温度などの制限値に注意しながら、コレクティブを引き、可能な限りのパワーを絞り出しました。それと同時に、機体の速度を最大上昇率速度まで徐々に減じました。機体の上昇率が最大になるように調節を続けましたが、山頂までの距離は見る見るうちに縮まってきました。

HAATSで教育された事柄がお経のように頭に浮かぶ中、追い打ちをかけるように最悪の事態に陥ってしまいました。細いU字溝のようなあい路の中に入ってしまったのです。山岳地飛行課程で学んだことの一つは、尾根に近づく時は、必ず逃げ道を確保しておくということでした。そして、地面に激突しないためには、比較的パワーを必要としない右方向に旋回することが望ましいのです。しかしながら、この状況では、どちらに旋回するかは問題ではありませんでした。この狭いあい路の中では、どちらにも旋回することができなかったからです。私にできることは、できるだけ高い上昇率を維持し、幸運を祈りながらまっすぐに進むことだけでした。

ようやく尾根が近づき、風防からその頂上が見えなくなりました。対地高度が低下し、頂上を通り越す時には、樹木が機体のすぐ下に迫っていました。その後は、エンジン、トランスミッションおよびローター系統への負担を小さくし、速度を上げることができました。我々は、再び呼吸ができるようになりました。最初に口を開いたのが誰だったのかは忘れましたが、緊張がほぐれ、それまで起こったことについて議論できるようになるまでには、さらに10分程度の時間が必要でした。

この手の物語は、必ず教訓を与えてくれるものです。この物語も、例外ではありません。NASAの宇宙飛行士であったフランク・ボーマンは、かつて、「優れたパイロットは、自らの優れた判断力を、その優れた技量の発揮が必要な状況を避けるために用いる」と述べています。パイロットである我々は、「自信過剰は事故の元」という警告を何度も聞かされてきたはずです。自分自身を振り返ってみてください。環境は常に変化するものです。過去に行ったことのある任務であっても、常に同じレベルの注意を払わなければなりません。過去と全く同じ飛行というものは、存在しないのです。「死にたくなければ、油断するな!」教育課程で助教から何回も言われたこの言葉を、けっして忘れてはなりません。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年11月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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