難しくても正しいことをすること
私のUAS(unmanned aircraft system, 無人航空機システム)オペレーターとしての経歴には、幸運にも不安全や事故ががありませんでした。それは私の最大の成果のひとつですが、私一人の力によるものではありませんでした。その多くの成功には、喫煙所での下士官たちからの会話から学んだ多くの教訓が役立ってきました。
その会話は兵士たちから「物語の時間」と呼ばれており、タバコを吸わない私も、それから得られる耳よりな話から知識を集めるていました。若き兵士だった私にとって、そこで聞いた何百もの話は貴重なものばかりでした。その中にはストレス解消と笑いを引き出すためのものもあれば、貴重な教訓となるものもありました。中でも、ある一つの話は、他のどの話よりも、私の経歴に大きな影響を与えました。 それは、近道をしようとして手順を無視したことで事故になりかけた話でした。
ある月曜日の早朝、ある部隊の兵士たちが滑走路の調査を行うために派遣されました。それは、毎週行われる、手慣れた作業でした。作業を始めてすぐに、コンパスを格納庫に置き忘れたことに気づきました。手順書によれば、滑走路の方位角を測定するためには、部隊装備品のレンサティック・コンパスを使用することになっていました。この時、兵士たちは単純な選択を迫られました。自分たちが正しいと分かっていることを行うか、下士官たちが「Easy Wrong(安易な間違い)」と称するものを行うかです。 兵士たちが選んだのは、後者でした。
下っ端にコンパスを取りに行かせる代わりに、スマホにインストールされているコンパスアプリを使って方向角を計測することにしました。作業を完了した後、兵士たちはデータをフライト・オペレーションに持ち帰りました。計測された方位角は、その日のミッション・カードに記載され、いつもどおりに航空機のシステム・データに入力されました。その後、飛行クルーが到着すると、任務ブリーフィングを受けてからシェルターに向かい、いつもどおりに運航業務が始まりました。
機体を離陸させた飛行クルーは、警報や注意、アドバイザリなどもなく、無事に訓練任務を終了しました。問題が起こったのは、最終進入を許可されてからのことでした。機体を回収しようとした際、システムが自動停止し、着陸が復行されてしまったのです。システムの自動停止に慣れていたクルーは、管制塔に連絡し、機体を再進入させる許可を要求しました。しかし、機体はまたしても最終進入に失敗し、着陸を復行してしましました。それは7回にわたって繰り返されました。機体の滞空時間が長くなると燃料枯渇の可能性が高まります。緊急度は次第に高まってゆきました。
クルーはこの問題のトラブルシューティングを続けつつ、フライト・リーダーに通知しました。シェルターには機体が着陸復行を繰り返していることを聞いた多くの人が集まり、他のメンバーもトラブルシューティングに協力し始めました。あらゆる試みが失敗に終わったのち、別の下士官がミッションデータを確認するために滑走路調査チームによる再調査を監督下で実施することを提案しました。
調査チームは、今度はコンパスをもって現地に戻りました。調査手順を再度繰り返すと、コンパスアプリで取得した方位角が少なくとも8度ずれていたことが判明しました。機体の自動着陸システムは、滑走路調査から得られたデータを安全な着陸を行うために使用しています。方位角が数度ずれていたため、機体は滑走路の中心線を正しく認識できず、何度も着陸を中断してしまったのでした。問題の原因が判明し、兵士たちがレンサティック・コンパスではなくスマホのアプリを使用したことが明らかになると、正しいデータが入力されました。再度着陸を試みると、機体は無事に回収されました。
この物語を語った下士官は、機体を失うことなく問題を解決できたことがいかに幸運だったかをその場にいた全員が認識した、と付け加えました。この出来事から得た教訓は、いかに貴重なものであったことでしょう。単純な過ちによって部隊が機体と評判を失い、上級部隊からの信頼をも失うところだったのです。調査チームの兵士たちは、この苦い経験を通じて、手順が定められているのには理由があるということを学びました。時間を節約するためといった単純な理由による、あからさまな無知や怠慢が、二次的、三次的な影響を及ぼす場合があるのです。簡単でも間違ったことをするよりも、難しくても正しいことをすることが常に最善であることを忘れてはなりません。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年10月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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