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陸軍航空の情報センター

空間識失調による操縦の交代

上級准尉2 ヘクター・N・フェンテス
第82航空連隊第2飛行大隊B中隊
ノースカロライナ州フォート・ブラッグ

Transfer the Controls

飛行時間850時間以上でNVG飛行時間約175時間であった私は、飛行時間が私の3倍以上ある、私と同じ中隊の訓練担当操縦士が搭乗する航空機の機長として飛行していた。後席には、2名の経験豊富な機付長が搭乗していた。私と訓練担当操縦士が2機編隊の2番機として参加していたのは、アフガニスタンの複数のFOB(Forward Operating Base, 前方運用基地)を目的地とする夜間飛行任務であった。その頃、我々の中隊は、指揮官交代に伴う物品管理検査を行っている最中であり、この飛行任務の目的には、いくつかのFOBまで上番および下番指揮官を空輸し、物品の申し送りに必要な検査を行うことも含まれていた。

飛行間の気象は、全般的には問題なかったが、任務の終盤に峠を超える際にはシーリング(雲高)が低くなる、とブリーフィングされていた。我々全員が、管理検査を前倒しで行えば、天候が悪化する前に峠を通過して帰投できる、と考えていた。下番する指揮官が1番機、上番する指揮官が2番機に搭乗し、特に問題なく飛行していた。最後のFOBでの管理検査が終了した時点では、予定よりも1時間早く進んでいた。当初の予報では、シーリング8,000フィート、ブロークン(雲が多い)と予想されていた。ただし、時間が遅くなれば、天候が悪化する可能性があった。

飛行の終盤は、夜間飛行となり、NVGを使いながら基地に向けて帰投した。操縦桿は、右席に座っている私が握っていた。すべては順調だった。長機の左後方を3~5ローター離れて追従しながら、平均海面高度6,000フィートを維持した。

峠が近づくにつれて、シーリングがどんどん下がり、視界が妨げられ始めた。とりあえずは、速度を下げるとともに、雲の層に入らないように高度をわずかに下げ、長機を見失わないように編隊間隔を詰めるようにした。私や訓練担当操縦士は、敵と遭遇する可能性のある状況下で、この空域を飛行したことが何回もあり、その経路を熟知していた。しかしながら、峠に近づいても、いつもならばもっと遠くから確認できる地形がよく見えなかった。飛行の間中、私は、NVGを使って何か地上の光が見えないか探していた。現在の気象状態を把握するのに役立つと思ったからである。最後にそれを行った時、NVGを使用した方が、障害物が見えやすくなり始めたことに気づいた。

コックピットの中では、引き返すことについて議論が始まっていた。私と訓練担当操縦士は、自分たちの意見を1番機に伝えたが、1番機からは、まだ地形が判別できている、と返答があった。特に問題がなければ、引き続き前進すると言われ、我々もそれに従うことにした。

峠に入ると、可能な限り低速かつ低高度で飛行した。シーリングおよび視程は、良くなることも、悪くなることもなかった。地形や1番機のIRライトは、判別できていた。峠に入ると1番機が少し右に旋回したので、私も同じように旋回し、1番機が2時の方向を維持するようにした。しかしながら、通常の旋回半径で右旋回を行っている最中に、1号機の機体やIRライトがほとんど見えなくなった。この峠の両側は高く切り立っており、旋回をあまり長く続けるべきではないことが分かっていた。

旋回を止めて水平状態に戻ってから数秒後、視程がさらに悪化し、1号機が全く判別できなくなった。ただし、1号機IRライトは見えていた。私が、1号機がほとんど見えなくなった、と搭乗員たちに言うと、右側の機付長も同じことを言った。許容を超えたと思った私は、搭乗員たちににIIMC(inadvertent instrument meteorological conditions, 予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)に入ったことを宣言した。1番機は、まだIIMCを宣言していなかったが、私は上昇を開始した。

ところが、計器飛行に移行しないうちに、空間識失調に陥り始めた。頭の中では、2時方向の1番機に集中しようとしていたが、それは別の方向に進んでいるように感じられ、まるで宙返りをしているような感覚に襲われた。計器に目を移すと、機体が平衡を失い、ゆっくりとバンクし始めていた。速度をさらに落した。

私は、どうすべきだろうか? 男気のあるところを見せ、多くの搭乗者が乗っている機体を自分自身で立て直し、訓練担当操縦士や新着任指揮官に腕のいいパイロットであることを見せつけるか? それとも、降参して操縦を交代してもらい、臆病者のレッテルを張られるか? そもそも、訓練担当操縦士は、峠に向かってゆっくりと右旋回を始める前の時点で、気象状況がブリーフィングされた内容と違っていると言い、1番機に引き返すことを進言しようとしていた。しかし、訓練担当操縦士が1番機に無線を送信しようとして、セレクター・スイッチを切り替えてから視線を上げた時、彼は何か意味不明の言葉を発した。もう、引き返すには遅すぎた。我々は、スープのような雲の中に入ってしまっていたのである。

私は、できるだけ機体を水平に保とうとしていた。上昇を開始しながら私は言った。「IIMCに陥りました。操縦を交代してください。空間識失調に入ったんです」訓練担当操縦士は、操縦かんを取ると、引き続き上昇し、その後、水平飛行に移行した。訓練担当操縦士がリカバリーするまでの時間はせいぜい5秒程度であったが、私には5分位に感じられた。空間識失調から回復できた私は、計器指示を読み上げ、FMS(Flight Management System, 飛行管理システム)を近傍のFOBまでの緊急アプローチ(進入)に切り替えた。そのFOBは、10マイル(16キロメートル)以内の距離にあった。

峠を通過すると、VFR(visual flight rules, 有視界飛行方式)が可能な状態まで気象が回復し、自分たちのFOBまで問題なく飛行することができた。AAR(after-action review, 作戦後の検討会)において、空間識失調に陥った際に、自分自身で何とかしようとしないで操縦交代を願い出た私は、皆から称賛されることとなった。困難な状況において望ましい結果を得るためには、プライドを捨てることも時には必要なのである。

           

出典:Knowledge, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2016年12月

翻訳:null

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    「I was inadvertent」をどう訳すかでかなり悩みました。結論としては、「inadvertent」をIIMC(inadvertent instrument meteorological conditions、予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)の省略形であると考え、「IIMCに入った」という訳をあてました。他にも「inadvertent」が出てくる箇所が2ヵ所あるのですが、すべて同じ考え方で訳しています。