AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

タブレット使用の問題点について

上級准尉2 クリスチャン・ガードナー
第1/101攻撃偵察大隊
ケンタッキー州フォート・キャンベル

各種情報の迅速な入手に対するニーズが高まるにつれ、コックピット内での電子機器の利用頻度が増大しています。飛行任務に関連するすべての情報をニーボードサイズのiPad Miniで閲覧できるのは、大変便利なことです。これらの機器のおかげで任務計画の立案や飛行任務の遂行が効率的に行えるようになりましたが、それによる問題点も生じています。

陸軍規則(Army Regulation, AR)95-1には、電子フライトバッグ(electronic flight bag, EFB)の使用に関する簡単な規定が記載されていますが、複数の重要な問題点について触れられていません。ある技量評価操縦士(standardization pilot , SP)は、同じ大隊のパイロットたちに「(iPadなどを)手袋をはめたままどうやって使っているのですか?」と質問したことがあります。パイロットたちの多くは返答に困ってしまいました。タッチスクリーンを操作するため、飛行中に手袋を外していることを認めたくなかったからです。タッチスクリーンを操作できるiPad対応の手袋も存在するようですが、補給系統を通じては支給されないため、パイロットが個人的に購入するしかありません。実際には、手袋の指先の部分を切断し、手袋の機能を損なってしまっているパイロットがほとんどです。スタイラス(タッチペン)を使うという手もありますが、どう考えても不便です。このように、安全性というものは利便性の名の下に無視されてゆくものなのです。

もう一つの問題は、iPadの置き場所です。危険がいっぱいのコックピットに新たな器材を持ち込むのはできれば避けたいことですが、常に状況を把握できるようにするためには仕方がないことです。iPadをニーボードのように脚に固定しようと思っても、そこはすでに何か別のもので埋まっていることが多いものです。ただし、それを効果的に使用するためには、簡単にアクセスできることが不可欠です。

民間機の場合は、機体にiPadが取り付けられることが多いようです。しかし、AR 95-1は、電子フライト・バッグを機体に装着することを認めていません。特にAH-64の場合、iPadを置く場所が非常に限られていますが、どこに置いているのでしょうか? 他のさまざまな物品やチェックリストと一緒に、ダッシュボードに置かれることが多いようですが、それでいいのでしょうか? パイロットにはコックピット内に持ち込んだ器材でFOD(foreign object debris, 異物)を発生させない責任があるのです。以下は、それによって発生した事故の概要です。

私の大隊の隷下部隊であるAH-64中隊は、戦闘訓練センター (combat training center, CTC) での訓練中に、NOE(nap of the earth, ほふく飛行)および長時間のOGE(out-of-ground effect, 地表効果外) ホバリングなどを含んだ攻撃任務を実施していました。編隊長機は、当該中隊の技量評価操縦士と錬成中の若手副操縦士が操縦していました。与えられた状況は、戦闘位置まで移動して敵が現出するまで待機するという典型的なものでしたが、前席に搭乗した副操縦士にとってはそれまで経験したことのないものでした。副操縦士の状況判断能力は、その飛行時間に見合ったものであり、戦場を捜索し敵を発見するのに苦労していました。後席の機長は、任務遂行に必要な状況判断を継続しつつ副操縦士に助言を与えるため、支給されていたiPad Miniと私物のフルサイズのiPadの両方を使うことにしました。そうすることで、アプリケーションを切り替える必要がなくなりましたが、ダッシュボードのスペースが占有されてしまうという問題が発生しました。フルサイズのiPadは、コレクティブ・スティック上方のダッシュボード左側に置くことにしました。

戦闘陣地に進入し、樹木の約20フィート上空でOGE ホバリングに移行すると、機長は私物のiPadをすばやく参照してから、副操縦士に目標に指示しました。それから、特段の注意を払うことなく、そのiPadをダッシュボードの左側に戻しました。機長は、副操縦士のFLIR(forward looking infra red, 近距離暗視装置)が正しい方向を向いているが確認することに集中してしまい、自分のiPadが前後座席を隔てる防弾壁から離れた手前の場所に置かれれていることに気づきませんでした。そして、そのiPadがダッシュボードから滑り落ちてコレクティブ・スティックに当たると、機体は樹木の中へと降下しはじめました。

機長がコレクティブ・レバーを思いっきり引くと降下が止まりましたが、すでに機体はメインローター・ブレードのすぐ下のところまで樹木の中に沈んでしまっていました。機長の操作により、墜落は免れましたが、エンジンのオーバー・トルクとローター・システムの回転数低下が発生してしまいました。幸運なことに、iPadと操縦装置との間にそれ以外の干渉は発生せず、機長の操縦により降着地域に戻ることができました。残念ながら、樹木との衝突またはローター・システムの急減速によりテール・ローター・ブレードが損傷したため、クラスCの事故としての調査が必要となりました。高度がもっと低かったならば、さらに悲惨な結果を招いていたかもしれません。

この事件の発生を受け、当該中隊はパイロットがコックピットに持ち込む器材の制限や、任務遂行に必要な装備品や私物の管理方法を改めて検討しました。iPadは計画立案や飛行任務に幅広く用いられ、その効率性を向上させてきましたが、それに合わせてコックピット内での器材管理の方法も変えてゆくべきだったのです。陸軍では、民間機で欠かせない器材となったiPadがすぐに採用されましたが、コックピットにどのように適応させるかについてはほとんど検討されてきませんでした。中隊には、任務の実施に優先して、これらの検討を実施し、関連するSOP(standing operation procedure, 作戦規定)を確立することが求められているのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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5件のコメント

  1. 管理人 より:

    陸上自衛隊では、機内でのiPadなどの利用が認められているのでしょうか?
    恐らく、まだ認められていないのではないかと思います。
    もしそうであれば、それはそれで別な問題を抱えているような気がします。

  2. 毎週の更新を楽しみにしています より:

    このあと「私物を持ち込んでやらかしたパイロット」はどんな扱いを受けたのでしょう?
    規則・原理原則に反したことを咎められ、批判され、非難され、誰であろうと二度と繰り返さないように吊し上げられ見せしめにされたでしょうか。
    あるいは処分そっちのけで、もっと安全なやり方、もっと確実なやり方、もっと冴えたやり方を巡り、部隊総出で議論が巻き起こったでしょうか。
    いずれも極端な想定ですが、アメリカ軍、そして(iPadを導入してなさそうな)自衛隊でこんなことが起こった場合の対応は、この2点間のどこかにあるのでしょう。
    果たして組織としての健全なあり方とは、たいへん興味深く拝見しました。

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございます。
      私物の持ち込みに対するアメリカ軍の対応について、Risk Manegement編集部に質問してみます。

  3. 匿名 より:

    かってF15を偵察機に改修するプログラムに参加しており、膝に装着する電子ニーパッドの開発をしていました。当時まだ民間でEフライトバッグの装備が始まったばかりで、なかなか理解を得られませんでしたが、この装備品の良いところは、機体改修に依存しない事です。機体改修すれば、高額な予算が必要ですが、このような装備品なら低コストで利用価値がある。加えてパイロットの体に取り付けるものは機体設計よりゆるい(笑)。うまくやれば、非RMAの救済になると言うこと。そもそも自衛隊の装備は古いものが多く、非デジタル品が多いのです。MAPや偵察機器のコントロール、画像提示など色々出来ます。電源はバッテリーと本体からの給電。非常時はアンビリカル式で対応。手袋可能なように圧電式を採用していました。10式(戦車)や機体装備品はベゼルからの赤外線での検出です。ついでにコニカミノルタと共同でメガネ式の表示装置も開発して簡易HMDとやったのですが、東芝がバンザイしてあえなく終わりました。