CH-47の思い出
はじめに
CH-47チヌークは、1962年(筆者が生まれた年です!)にアメリカ陸軍にCH-47Aとして採用されて以来、実に60年以上にわたって使い続けられている大型輸送ヘリコプターです。日本においては、1986年に陸上自衛隊と航空自衛隊がCH-47Dを改修した機体をCH-47Jとして採用しました。また、1995年からは、燃料タンクの大型化などの改良が加えられたCH-47JAが導入され始めました。
唯一のタンデム・ローター機
このヘリコプターの特徴は、テール・ローターを持たず、2つのローターを前後に配置して、それを逆回転させることでローターの反トルクをお互いに打ち消し合うようになっていることです。このようなローター形式は、タンデム・ローターと呼ばれます。量産されているタンデム・ローター機は、CH-47シリーズだけです。
前後のローターは、その一部が重なり合うように配置されていますが、胴体の上部にあるシンクロ・シャフトと呼ばれるドライブシャフトで連結されていて、前後のローター・ブレードが歯車のようにかみ合いながら回転するようになっているので、ぶつかることはありません。
とにかくデカい
もう一つの特徴は、とにかくデカいこと。高機動車や1/2tトラック(パジェロ)を機内に積むことができますし、最大55名の兵員を乗せることもできます。もちろん、胴体下部のカーゴ・フックを使って、機外搭載を行うこともできます。ただし、高機動車などを機内に搭載するためには、事前に幌を取り外したりする必要があります。また、55名の兵員を乗せるためには、キャビンの左右に取り付けられている33名分の座先に加えて、キャビン中央部にも座席を取り付けなければなりません。
これだけの搭載能力を持つCH-47ですが、その胴体自体は、さほど大きくありません。CH-47(胴体長:15.9m)の横にUH-60(15.6m)やAH-64(14.9m)を並べると、胴体の長さがそれほど変わらないことに気づきます。テール・ローターを保持するテール・ブームがいらないので、胴体を短くすることができるのです。
実は高速
これだけ大きな機体であり、また、その用途が大型輸送ヘリコプターであるということから考えると意外な感じがしますが、実は、CH-47はけっこう高速で飛行できます。航空機の性能は、条件によって大きく変わるので、一概には言えませんが、陸上自衛隊ホームページに記載されているデータでは、CH-47JAの巡航速度は時速約260キロメートル、これに対してUH-60の巡航速度は時速約240キロメートルとなっています。
この高速性能を実現しているのは、2台の4,000馬力を超える強力なエンジンです。さらに、タンデム・ローターなのでテール・ローターという前進飛行には無駄なものを回す必要がなく、そのエンジンのパワーを有効に使えるのです。
アメリカ特殊作戦軍がMH-47というCH-47の派生型機を採用した理由の一つには、この高速性能もあったようです。
長時間飛べる
CH-47JAには、約8キロリットルの燃料を搭載できます。このため、UH-60JAと同じく、5時間程度の飛行が可能です。
アメリカ陸軍のCH-47にも同じような大型のタンクを装備している機体がありますが、日本のほうが早くから導入を開始しました。島国であり、少ない機数で広い地域を確保しなければならない日本の場合、アメリカよりも長距離飛行のニーズが高いからでしょう。
ちなみに、CH-47は、短時間であれば着水することもできるので、海上での運用にも適しています(海外では、特殊作戦を支援する際にゴムボートで直接機内に乗り込むことも行われているようです)。
便利な機能が満載
外見からは分かりませんが、CH-47には、航空自衛隊の輸送機と同じような貨物の搭載や卸下をすばやく行うためのさまざまな装備が付いています。
まず、キャビン後方のドアは開放すると車両などを積み込む際に「スロープ」として利用できる、ランプ・ドアになっています。このため、特別な器材を準備しなくても車両は自走で搭載できますし、人員の乗り降りも素早く行うことができます。
また、キャビンの床にはローラーの付いたレールが取り付けられるようになっており、物資が載せられたパレット(貨物を載せて運ぶための板)をその上を滑らせて機内に搭載したり、卸下したりできます。ランプ・ドアを水平にして、フォークリフトでパレットを載せれば、あとはそのレールの上を滑らせて機内に運び込むことができるのです。
さらに、キャビンの最前方にはウインチが搭載されていて、重量物をウインチで引き上げて搭載することもできるようになっています。
なんにでも使える
CH-47は、車でいうとトラックのように輸送のために必要な最小限の装備しか持たない機体と思われがちですが、実はそうでもありません。
CH-47JAは、GPSや気象レーダーを搭載していますし、EAPS(エンジン防塵装置)も搭載できるので、悪天候や砂塵環境下でも運用できます。FLIR(近距離暗視装置)を備えていますので、夜間の偵察も行うことができます。また、キャビン前部の窓や後部のランプ・ドアに機関銃を付けることもできますし、チャフやフレアなどの自己防護装置もありますので、敵の脅威がある地域でも作戦を遂行できます。さらに、カーゴ・フックを使って、空中消火も行えます。東日本大震災時に福島第1原発3号機への放水を行ったことは、あまりにも有名ですよね。加えて、こちらはあまり知られていませんが、ウインチのケーブルを機体中央の穴から垂らしてホイストとして使い、人員救助を行うこともできます。
大食いがたまにきず
CH-47JAの場合、1時間あたり1,200リットル位の燃料を食います。これは、UH-60JAの2倍、UH-1Jの4倍くらいにもなります。CH-47JAの燃料タンクには、8キロリットル近い燃料が入りますので、7.5キロリットルの燃料タンク車が、1回の燃料補給で空っぽになってしまいます(実際にそこまで燃料を使うことは、ほとんどないですが...)。
燃料の補給は大変ですが、その機体規模のわりには、整備に手間のかからない機体です。確かに、ローターもエンジンもトランスミッションも、すべてが大きくて交換するのは大変ですが、付いている部品の数はUH-60と大きく変わりませんし、狭いところに手が入りにくくて手こずるというようなことも少ないからです。
強烈なダウンウォッシュ
ダウンウォッシュと呼ばれる、ローターの吹き降ろし風は、基本的に機体の重量が重いほど強くなります。CH-47の場合、前のローターが上から見て反時計方向、後ろのローターが時計方向に回転しているため、機体の右側のダウンウォッシュが最も強くなります。それが及ぼす影響は、天候や地形、そして機体の搭載重量などにより大きく異なりますので一概には言えませんが、物置くらいは簡単に吹き飛ばす場合がありますので、十分な注意が必要です。
前からは近づくな
もうひとつ、CH-47で注意しなければならないことは、地上でローターが回転している時、前のローターの前方側は人の背丈よりも低いところを回っているということです。UH-1装備部隊での経験が長かった私は、ついつい前方から近づいてしまい、パイロットから腰が抜けるかと思うくらい怒鳴られたことがあります。後ろのローターは十分に高い位置にあるので、ランプ・ドアからの乗り降りは安全ですからご安心ください。
高くてもお買い得
CH-47JAの機体価格は約55億円と言われています。UH-60JAであれば、約38億円で買えます。しかし、倍以上の貨物や兵員を搭載できて、同じくらいの速度で、同じくらいの距離を飛ぶことができて、同じような任務を遂行できますので、けっして高い買い物ではないと思います。車に例えるとワンボックスのような感じかもしれません。ちょっと高いけど、とにかく便利なのです。
終わりに
CH-47JAは、2005年に発生したインドネシアでの震災に際し、UH-60JAとともに自衛隊のヘリコプターで初めての海外での災害派遣任務に参加し、航空輸送などを行いました。また、2014年の御岳山の噴火においても、同じくUH-60JAとともに捜索・救助活動を行いました。
最初に述べたとおり、60年近く使われている老いぼれヘリコプターですが、まだまだ頑張ってもらわなければなりませんし、まだまだ頑張れる能力を持った航空機だと思います。
出典:Aviaton Assets 2024年06月
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