陸軍航空兵站における体制変革
この記事は、陸軍航空兵站(Army Aviation Logistics, AVLOG)における体制変革について、その概要とその基本的ビジョンを形成する諸施策を紹介するものです。本記事は、兵站に関する連載記事の最初の記事であり、個々の施策についての詳細は、次号以降の記事において紹介されます。
なぜ、今、体制変革なのでしょうか? 私たちは、現在、陸軍航空の歴史上、未だかつて経験のしたことのない時代を経験しようとしています。2004年2月のRAH-66コマンチ・プログラム中止の決定は、陸軍航空に大きな好機をもたらしました。それに伴い、整備に関する新たな方針が決定され、必要な工具、試験器材、補給処整備用器材を調達し、新型の自動診断装置及び関連技術が導入され、コンディション・ベースド・メインテナンス(Condition Based Maintenance, CBM)の基盤を確立できるようになったのです。
ビジョン
陸軍航空兵站体制変革計画は、2008年度までに、多機能航空旅団(Multifunctional Aviation Brigade, MFAB)の編成、補充、訓練及び装備化を完了し、モジュール化された航空科部隊を維持することを目標としています(※1)。更に長期的には、2015年度までに現在の故障整備を主体とする体制から、故障の予兆をとらえ先行的に対処するコンディション・ベースド・メインテナンスの体制へと変革するために必要な能力を保持することを目標としています。
背 景
2003年9月、陸軍参謀長は、陸軍運営に関する16項目の焦点領域のひとつとして、航空任務部隊を編成しました。そして、「統合戦闘のために最適化された実効性ある機動戦闘力としての陸軍航空」の再設計(兵站業務の縮小を含む)を航空任務部隊に指示したのです。航空任務部隊が承認した航空兵站及び維持に関する小委員会の任務は、「2003年度に開始される全陸軍のモジュール化を推進するとともに、航空兵站業務を軽減し、航空機の維持を容易にするため、陸軍航空をコンディション・ベースド・メインテナンス体制に変革すること」でした。第4部兵站副参謀長は、航空任務部隊の体制変革の目標に加えて、兵站任務部隊及び陸軍兵站の体制変革のため、4項目の包括的焦点領域を制定しました。
その焦点領域は、次のとおりです。
- ・ 兵站専門官の連携: 兵站は、24時間体制で「要求を理解」する能力を有し、専用のデータ・ネットワークと連携した敏捷性と柔軟性を有しなければならない。
・ 戦場補給の近代化: 維持は、補給に基礎づけられた兵站により継続される。維持用のシステム、単一の教義、及び兵站に関する戦略、作戦及び戦術レベル間の統合に関する積極的な管理が必要である。
・ 戦闘力受け入れ能力の向上: 陸軍は、世界中のどこにでも96時間以内に展開できる旅団サイズの行動部隊の編成に取り組んでいる。 そのためには、高度にモジュラー化された戦闘力受け入れ基盤が必要である。
・ 補給系統の統合化: 補給系統は、単一の統制権者により統制され、他軍との統合だけでなく、他省庁及び多国間戦域における全ての補給源と連携できなければならない。
本記事の全般に通じて、全ての航空兵站の変革に関する施策は、第4部副幕僚長の兵站焦点領域の少なくとも1項目以上に基づいたものとなっています。米陸軍航空センターは、2005年10月までに教範FM3-04.500に航空兵站に関する教義を記載し、陸軍参謀長の構想を明示する予定です(※2)。
航空兵站体制変革の戦略
図1は、航空兵站の体制変革における重点目標を示しています。コマンチの中止決定に伴い、陸軍は、航空兵站の体制変革への施策に対し、15億ドル以上の資金調達を計画しています。
優先順位1:新しい航空兵站自動化
第4部副参謀長の第1焦点領域具現のため、2005年度からULLS-A(Unit Level Logistics System – Aviation, 部隊レベル兵站システム-航空)のハードウェア及びソフトウエアの更新が開始されます。これにより、現在のULLS-Aは、ULLS-Aソフトウェア・チェンジ・パッケージ6(SCP6)と呼ばれる新型の改良型ログブック(※3)自動作成システムに変わります。
この新型のULLS-Aは、改良型の自動ログブック作成機能を有しているだけではなく、ユーザー・フレンドリーな整備モジュール、即応モジュール、補給モジュール及び航空飛行記録システムを搭載しています。このシステムは、現在すでに第160特殊作戦航空連隊が装備しているものと同様のものです。
優先順位2:航空部品の準備
この戦略は、航空部品を陸軍の要求目標に合致させるように完全に資金調達するという決定により始まりました。
陸軍は、過去2年間、航空部品の所要を満たす資金を完全に調達し、その公約を実現するためにリーダシップを発揮しました。陸軍のライフ・サイクル管理コマンドもまた、企業と共に努力をし、航空機の運用可能状態を維持するために不可欠な重要航空部品の品質を向上させ、何時でも調達可能な状態に維持しました。もう一つの重要な部品供給先は、小隊レベル展開支援キット(platoon level deployment support kits, DSK)です。このための資金調達は、2006年度から始まり、小隊レベル規定定数リストに従った資材調達が開始される予定です。
航空部品に関する最終施策は、陸軍州兵航空分類修理活動補給処(Army National Guard Aviation Classification Repair Activity Depots, AVCRAD)の展開能力を向上させることです。このことにより、戦域における補給処整備が重要な任務であることが公的に認識され、追加の補給処工場整備装備品(depot plant maintenance equipment, DPME)と共に戦域航空整備プログラム(Theater Aviation Maintenance Program, TAMP)装備パッケージ(TEP)の供給が実現されます。この補給処工場整備装備品の増加により、部隊が紛争対処作戦のために展開している状況における陸軍州兵航空分類修理活動補給処による国家整備プログラムのための補給処整備や航空部品の補給が可能となります。
優先順位3:モジュール化の推進
この戦略は、各整備段階区分に応じた適切な人員及び器材を航空整備組織に供給することを目指しています。モジュール化において最も優先される事項は、多機能航空旅団の編成です。現在の編成は、既に旧式化している現在の隊力割当要求諸基準(Manpower Allocation Requirements Criteria, MARC)に準拠していますが、陸軍は2006年度から隊力割当要求諸基準の見直しを開始する予定です。この隊力割当要求諸基準の見直しにより、階級及び保有特技(military occupational specialty , MOS)に応じた適切な資質を有する人員が多機能航空旅団に割り当てられるようになります。この検討が完了したならば、2007年度の多機能航空旅団編成の変更に反映されることでしょう。
モジュール化の2番目の優先事項は、2005年度から2011年度の間のモジュール化を可能にするための追加航空地上支援器材(additional aviation ground support equipment, AGSE)、特殊工具及び試験器材(special tools and test equipment, SITE)及び特定地上支援器材(peculiar ground support equipment, PGSE)を調達することです。陸軍航空兵站の体制変革のための資金調達の主要な部分は、この部分に充当されています。今後3-6年の間に、高機動多目的装輪車に搭載された工場整備 (Shop Equipment Contact Maintenance, SECM)キットをはじめとする、多くの追加航空地上支援器材、特殊工具・試験器材及び特定地上支援器材が支給される予定です。
これらの追加工具及び装備により、大隊レベルの運用飛行隊に対する小隊レベルの支援部隊によるモジュラー支援が可能になります。また、航空支援大隊(Aviation Support Battalion, ASB)の「兄弟」コンセプトに基づく分割運用を可能にし、兄貴が航空中級整備工場セットを保有し、弟分がより機動的かつモジュール化された工場整備を実施できる体制が整います。この計画には、アパッチやカイオワ・ウォーリアを保有するすべての多機能航空旅団に対する分割基地運用に対応するための2つの電子・光学試験施設とその他の主要な試験器材の装備化が含まれています。
優先順位4:2段階整備
航空整備に関する最も大きな変化は、陸軍参謀長が2段階航空整備(Two-Level Aviation Maintenance, 2LM)の兵力構成を承認したことです。これにより、順次に高段階整備施設に後送されるという従来の多段階整備(※4)の問題点が解消されました。また、戦域、軍団及び師団に割り当てられていた航空整備中隊を戦域運用司令部及び前方運用司令部レベルの運用部隊である多機能航空旅団に割り当てることができました。
この整備上の根本原理の変革により、航空旅団長が航空戦闘力の創造及び維持のために、航空整備組織(人員及び装備)を分割運用することが容易となり、運用航空機のより高い能力の獲得・維持が可能となりました。
2段階整備の1つめの段階は、フィールド・レベルと呼ばれます。この段階は、多機能航空旅団に固有の整備段階であり、航空支援中隊に所属する航空支援小隊の実施する整備がこれに該当します。航空支援中隊は、それぞれの航空運用大隊毎に編成されています。航空支援大隊は、航空中級整備中隊と補給中隊で構成され、現在は、それぞれの航空旅団毎に編成されています。
2つめの段階は、装備品製造会社によって支援された陸軍物資コマンド(Army Materiel Command,AMC)隷下の補給処で構成されています。 サステインメント・レベルと呼ばれるこの段階には、今後、新らたに多目的航空維持旅団( Multipurpose Aviation Sustainment Brigade, MPASB)が構成されることが予定されています。この多目的航空維持旅団は、現在、陸軍州兵航空分類修理活動補給処が有している能力を網羅するとともに、有事においては、陸軍物資コマンドの戦域航空整備プログラム(Theater Aviation Maintenance Program, TAMP)の一部として展開する増強旅団です。将来的には、戦域維持コマンド(Theater Sustainment Command, TSC)の一部を形成する予定です。
その他の優先事項:コンディション・ベースド・メインテナンスの実施
第4部副参謀長航空兵站部は、先般、コンディション・ベースド・メインテナンス白書を発刊しました。その白書には、2015年度末までのコンディション・ベースド・メインテナンスへの変革のための大まかなガイドライン、目標及びビジョンが述べられています。コンディション・ベースド・メインテナンス・プログラムの重要な目標の一つは、作戦部隊の不必要な整備負担を軽減する一方で、コンポーネントの寿命を改善・延長し、コンポーネントの交換の必要性を客観的証拠に基づいて判断することにあります。
コンディション・ベースド・メインテナンスの究極の目標は、装備品の実際の状態を認知・理解することであり、このことにより、不必要な整備及びそれに関連する負担を減少させ、運用・維持コストの総合的削減を図ることにあります。航空機の部品がいつ、どこで故障するかを予見できれば、指揮官が適切な整備員、部品及び支援を戦場の必要な場所と時間に差し向けることが可能となります。
コンディション・ベースド・メインテナンス戦略の鍵は、共通兵站運用環境( Common Logistics Operating Environment, CLOE)の確立にあります。共通兵站運用環境により、各装備品に共通した「見て感じる」ソフトウエアを開発するためのガイドラインが確立され、兵站データ監視・収集システムを統合して、補給システム全体の視認性を向上させるという戦略目標の達成が可能となります。
結 論
航空兵站の改編及びコンディション・ベースド・メインテナンスに関する変革は、これまで度々延期されてきました。変革のための各施策を速やかに実行することが陸軍航空の将来のため極めて重要です。
各施策について述べた目標を達成するためには、その施策毎に必要な資源、時間等を確保するとともに、各級兵士・指揮官の貢献を得ることが必要不可欠です。この変革が実行され、受け入れられるためには、システムの安全性を確保し、装備品の信頼性、有効性及び整備性を向上させて、戦時状況下の国家及び陸軍を継続的に支援できなければなりません。航空整備及び兵站に関わる者は、その階級に関わらず、航空兵站変革チームの欠くことのできない一員であり、これからもそうであることを深く認識しなければなりません。
Delivering Materiel Readiness!(物的即応体制を確立しよう!)
陸軍中佐キムバリー・A・エンダールは、ワシントンD.C所在の陸軍参謀第4部副参謀長(兵站)の航空兵站変革担当先任将校であった。 現在は陸軍第4部長の軍事アシスタントとして勤務している。
訳者注:
※1 多機能航空旅団(Multifunctional Aviation Brigade, MAB)は、本記事が掲載されてから約1年後の2005年9月に、戦闘航空旅団(Combat Aviation Brigade, CAB)へと改編されることが決定した。
※2 陸軍航空整備(FM 3-04.500)は、2006年8月に改訂され、本記事に紹介されている航空兵站の自動化、2段階整備等に関する教義が記述されている。
※3 ログブックとは、陸上自衛隊の飛行・整備記録(フォーム)に相当するものである。
※4 従来の整備段階区分は、Aviation Unit Maintenance (AVUM)、 Aviation Intermediate Maintenance (AVIM)及びDepot Maintenanceの3段階に区分されていた。
訳者コメント: 本記事の原文は、陸上航空OBで三井物産エアロスペース(株)の顧問であった藤本博久氏がお亡くなりになる前に資料として提供してくださったものです。かなり古い記事ですが、コマンチ・プログラム中止が米陸軍航空兵站に与えた影響や現在の米陸軍航空の兵站体制を理解する上で貴重な資料であると考え、翻訳してみました。ただし、その後の計画変更等により、現在の体制は本記事の記述内容と異なっている可能性があります。お気づきの点がありましたら、ご教授頂ければ幸いです。 この場をお借りして、藤本博久氏のご厚意に感謝を申し上げるとともに、ご冥福を心よりお祈りいたします。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2004年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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4件のコメント
[…] マルチドメイン作戦を促進するため、陸軍航空のサステインメント(維持基盤)にも変革が必要となる。もはや、戦闘力を構築するために贅沢な時間が与えられることはない。航空科部 […]
陸上自衛隊の航空科部隊では、従来どおり、3段階の整備段階区分で整備が行われています。
5段階です
コメントありがとうございます。
3類別5段階ですね。訂正します。
今後とも宜しくお願いいたします。