ヘリコプターはVTOL(垂直離着陸)機なのか
VTOL(垂直離着陸)機について、国土交通省は明確な定義を定めていません(※)。このため、VTOL機にはヘリコプターを含める場合と含めない場合の両方が存在します。
※:垂直離着陸飛行機という「滑走をせずに離陸し、又は着陸することができる飛行機」については定義しています。
ヘリコプターを含める場合
垂直離着陸という「機能」に着目する場合や、回転翼機技術全般を議論する場合には、VTOL機にヘリコプターを含めることがあります。
出典(組織/文書種別) | 具体的な記述/文脈 | URL |
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JAXA / 研究ポスター | 「ヘリコプタに代表される垂直離着陸(VTOL)航空機」 | https://www.aero.jaxa.jp/news/event/pdf/event140918/poster08.pdf |
JAXA / 研究ニュース | 「ヘリコプターの特徴を活かした高速化を目指して、JAXAが研究開発進める次世代VTOL(垂直離着陸)機技術」 | https://www.aero.jaxa.jp/research/star/rotary/news181017.html |
JAXA / 研究会報告書 | 災害時のヘリコプターの役割とオスプレイ(VTOL)配備の関心を背景に、「VTOL機」「回転翼機」を議論 | https://jaxa.repo.nii.ac.jp/record/3695/files/AA1530039000.pdf |
国土交通省 / バーティポート整備指針(最終版) | VTOL定義から「(ヘリコプターを除く。)」の記述を削除。「垂直方向に離着陸可能な航空機をいう。」と定義。 | https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000265514 |
ヘリコプターを含めない場合
ただし、一般的な用語解説や一部の技術文書では、VTOL機を「固定翼機に垂直離着陸能力を付与したもの」に限定し、ヘリコプターを含めない場合が多くなっています。
出典(組織/文書種別) | 具体的な記述/文脈 | URL |
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JAXA / VTOL/STOL研究プログラム | ヘリコプターの垂直離着陸能力に「加えて」固定翼機のような高速巡航能力を持つものとしてV/STOL機を定義。 | https://www.aero.jaxa.jp/research/frontier/vtol/ |
JAXA / コンパウンド・ヘリコプター研究 | 翼と推進プロペラで「速いヘリコプター」を目指し、既存ヘリコプターと区別される次世代VTOLとして位置づけ。 | https://www.aero.jaxa.jp/research/star/rotary/ |
自動運転ラボ / 解説記事 | VTOLは固定翼を備えた機体を指すことが多く、従来のヘリコプターとは区別されることが多い。 | https://jidounten-lab.com/u_37695 |
ドローンジャーナル / 比較記事 | ヘリコプター型、マルチコプター型、VTOL型(ハイブリッド)を性能比較のために別カテゴリーとして分析。 | https://drone-journal.impress.co.jp/docs/series/column20231214-01/1185743.html |
Merkmal / eVTOL解説記事 | eVTOLをヘリコプターと比較し、ローター数、動力、制御システムの違いを強調。 | https://merkmal-biz.jp/post/37817 |
経済産業省・国土交通省 / 「空飛ぶクルマ」関連文書 | eVTOLはヘリコプターと「異なる特性を持つ」とし、UAM文脈での区別を明確化。 | https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/pdf/r5_environmental_assessment_policy_japanese.pdf |
空の移動革命に向けた官民協議会 / 関連議論 | 「空飛ぶクルマ」(eVTOL)がヘリコプターに対し経済性・静粛性等で優位とし、UAMにおける役割の違いを示唆。 | https://www.sbbit.jp/article/cont1/104750 |
川崎重工業 / K-RACERプロジェクト | 従来のヘリコプターでは達成困難な高速化を目指す「無人VTOL機」として開発・広報。 | https://www.aviationwire.jp/archives/212626 https://www.khi.co.jp/news/detail/20240617_1.html |
SUBARU / 将来モビリティ議論 | ヘリコプターメーカーでありながら、将来技術として「電動VTOL」に言及。ヘリコプターを上回る静粛性をVTOLの課題として挙げる。 | https://s.response.jp/article/2019/07/17/324496.html https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/002_01_04.pdf |
SkyDrive / eVTOL開発・広報 | ヘリコプターとは異なる「空飛ぶクルマ」(eVTOL)を開発・販売。 | https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000082.000038857.html |
トヨタ自動車 / Joby Aviation 協業 | 新しいモビリティサービスのためのeVTOL開発に投資・協業。従来のヘリコプター事業とは別。 | https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/41625879.html |
Wikipedia日本語版の説明
Wikipedia日本語版はVTOL機を「飛行船や気球などの軽航空機や回転翼機を含む場合もあるが、固定翼機に限定するのが一般的である」と説明しています。
これは、元 JAXAの齊藤喜夫氏の「VTOL/STO」(日本航空宇宙学会誌、2006年)の以下の説明に基づいています。
「VTOL機は固定翼機、回転翼機から浮力を利用する飛行船や気球などの軽航空機まで、垂直離着陸するすべての種類の航空機を指す場合から、固定翼で巡航する垂直離着陸機に限定して使用される場合まであるが、独立して分類されるヘリコプターや軽航空機は除くのが一般的である。」
ちなみに、Wikipedia日本語版にVTOLの記事が初めて投稿されたのは2004年2月5日で、この時すでに「ヘリコプターは含まない」とされていました。その後、2004年2月10日に「通常、ヘリコプターは含まない」と修正されて以降、一貫して「固定翼機に限定するのが一般的」という趣旨の記述が行われています。
結論
ヘリコプターは、その基本的な飛行原理から技術的にはVTOL航空機の一種です。しかし、実際の用語の使われ方においては、文脈によってヘリコプターをVTOLに含めないことが一般的です。特に、航空技術の先端分野や新しい市場、規制に関する議論においては、「VTOL」がヘリコプター以外の、より新しい形態の垂直離着陸機(ティルトローター、推力偏向機、eVTOLなど)を指す傾向が強くなっています。
日本国内でVTOL機という用語に接する際には、それがどのような文脈で用いられているのか、特にヘリコプターとの関係がどのように意図されているのかを慎重に確認する必要があります。
参考:アメリカの場合
FAA(米国連邦航空局)が発行している「Pilot/Controller Glossary」は、VTOL機を次のようにヘリコプターを含むものとして定義しています。
Aircraft capable of vertical climbs and/or descents and of using very short runways or small areas for takeoff and landings. These aircraft include, but are not limited to, helicopters.(垂直上昇および/または降下が可能で、非常に短い滑走路または狭い場所での離着陸が可能な航空機。これらの航空機には、ヘリコプターが含まれるが、これらに限定されない。)
また、Wikipedia英語版も次のように説明しています。
This classification can include a variety of types of aircraft including helicopters as well as thrust-vectoring fixed-wing aircraft and other hybrid aircraft with powered rotors such as cyclogyros/cyclocopters and gyrodynes.(ヘリコプター、推力偏向固定翼機、サイクロジャイロ、ジャイロダインなどの動力ローターを備えたハイブリッド機など、様々な種類の航空機が含まれる。)
これは、I. B. Laskowitz氏の「VERTICAL TAKE-OFF AND LANDING (VTOL) ROTORLESS AIRCRAFT WITH INHERENT STABILITY」(The New York Academy of Sciences、1961年4月)の以下の説明に基づいています。
A VTOL aircraft has been defined as one that takes off vertically, changes from hovering to forward flight, cruises to its destination, resumes hovering flight, and then performs a vertical landing.(VTOL機は、垂直に離陸し、ホバリングから前進飛行に移行し、目的地まで巡航し、再びホバリング飛行を行い、その後垂直に着陸するものと定義されている。)
Wikipedia(英語版)にVTOLの記事が初めて投稿されたのは2001年11月25日で、その時点では「ヘリコプターを含まない」という趣旨の記述でした。ところが、2008年10月10日には「ヘリコプターを含む」という記述に置き換えられています。その理由は、最初は固定翼機による垂直離着陸能力に焦点を当てていたが、後になってより一般的な航空工学の定義に合わせたものと考えられますが、正確なところは分かりません。
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