規律違反 それは、もう一つの敵
パイロットである我々は、初めて飛行した時から、規律違反と飛行は、相容れないものであることを教え込まれています。しかしながら、事故報告によれば、飛行中のスタンドプレーや規則または規定に対する意図的な違反などの規律違反行為に起因する事故が例年発生しています。陸軍のほとんどの航空機搭乗員は、一度や二度、飛行中の規律違反を経験したことがあるはずです。私の経験をお話ししましょう。
UH-60Aの副操縦士である若き准尉として勤務していた時、初めての任務を実施していた時のことです。私は、周りから尊敬されていたある上級准尉の機長(pilot in command, PC)と一緒に飛行していました。その任務は、空中機動を実施し、背のうを装備した戦闘部隊をLZ(降着地域)に侵入させるものでした。LZに向けて飛行中、その機長は、搭乗者にマイナスGを経験させて、「スリル」を味合わせてやりたい、と言い出しました。私は、以前にもその機長と飛行した経験がありました。彼は、その時にも、同じような状況下でそのような飛行を行っていたのです。マイナスG状態にすることに少し躊躇しましたが、それをもう一度行うことに同意してしまいました。
機長は、飛行機動を開始し、マイナスGにするため、コレクティブを押し下げました。機内の縛着されていない物が空中に浮かび上がり、床面の泥までが舞い上がりました。
突然、マスター・コーション・ライトが点灯し、CDU(central display unit,中央表示装置)の油圧コーションが黄色く点滅し始めました。すべての油圧注意灯が点灯していることを確認しました。目の隅に、キャビン内で何かが動いているのが見えました。振り返ると、ガナー・シート(射手用座席)の間を背のうが前方に向かって来るのが見えました。背のうがこちらに来ないように手を上げながら、「止めろ!止めろ!止めろ!」 と機内通話装置に向かって叫びました。その状態に気づいていない機長は、コレクティブを上げました。背のうは、センター・コンソールのすぐ後ろの床に落下しました。
私は、機長に何が起こったのかを説明し、背のうがにコックピット内に飛び込んで来た可能性があったことを伝えました。こんな「スリル」はもうたくさんだ、と階級に関わらずに機長に言いました。
数年後、同じように低G機動飛行を実施していた1機のUH-60が墜落しました。輪止め(ホィール・チョーク)がコックピット内に入って、コレクティブを拘束させたのが原因でした。1名の搭乗員が死亡、3名が重症、11名が軽症を負い、機体は大破しました。
自分の不安全を振り返ると、本当に幸運であったと思います。昔から兵士は、自らの練度以上に自信をもち、自分のおかれた状況においては、規則や規定に従う必要性がないと判断しがちです。規律違反は、操縦席だけでなく、私有車の運転席にも蔓延しています。部隊長、小隊長、准尉、下士官など、あらゆる階層の指揮官は、厳格な基準と規律を遵守させ、課業内外における全ての日常的行動における安全を確保しなければなりません。
規律違反を容認してはなりません。兵士たちが命令に反することの結果を分からせなければならないのです。規律違反を容認する者は、無意識のうちに、同じような規律違反が発生する環境を生み出すからです。事故防止に積極的に取り組み、我々の兄弟姉妹を戦場から家庭に無事に帰還させましょう。同僚や部下たちに対し、彼らに行ってもらいたい規律溢れる行動を自ら実践しましょう。
敵に負けてはなりません。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
ヘリコプターでマイナスGができるとは、知りませんでした。
こんにちは。
UH-60の要求性能にはローG項目が含まれてます。UH-60自体の荷重制限も+3G-1Gだった記憶です。
コメント頂いていたのに、気付くのが遅くなってしまいました。要求性能上、マイナスG飛行が求められていたのですね。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。