UAS(Unmanned Aircraft Systems, 無人航空機システム)
将来の作戦環境に適合した装備群の開発
アメリカ軍のUAS(Unmanned Airceraft Systems, 無人航空機システム)は、過去20年以上にわたり、その卓越した能力をもって兵士たちの作戦遂行に貢献してきた。そして、指揮官たちが戦場を掌握する方法を根本から変化させてきた。それは、有人機よりもはるかに安価かつ効率的に、状況を把握し、情報を収集し、通信を拡張し、目標を捕捉・攻撃して、国境や軍隊を持たず、伝統的な戦い方を用いない敵との戦いにおいて、非常に有益な装備であることを証明した。また、現地における運用、飛行および整備が容易なこのシステムは、要求基準を大幅に上回る可用性と信頼性を維持している。
戦場における需要が高く、数多くの国外展開においても任務を遂行してきたUASは、飛行時間200万時間以上(その大半を戦闘支援が占める)の達成という、大きな節目を迎えた。TRADOC(Training and Doctrine Command, 訓練教義コマンド)は、有無人機のチーム化、殺傷力の向上、有無人機双方の機能の最適化に関し、新たな教義を発表した。UASに対する需要は、将来のマルチドメイン作戦においても変わることがなく、無人システムと必要に応じた有人機への要求がさらに高まることが想定されるのである。
一方、陸軍UASプログラムは、その人生の岐路に立っているを言わざるを得ない。これまでの成果は、主に対反乱作戦での運用におけるものであったが、今後は、それとは異なる方向にUASを指向させなければならないからである。想定される作戦が対反乱に焦点を当てたものから、対等またはほぼ対等な敵とのものへと変化する中、大規模戦闘作戦を行わなければならない可能性が高まっているのである。陸軍の指導者たちは、我々が大国間競争の時代にあることを強調するようになってきている。マルチドメイン作戦(Multi-Domain Operations, MDO)(空、陸、海、サイバー、宇宙)は、平時における運用においても常に行われている。このような状況の中、UASシステム(および関連技術)には、必要とされる作戦機能の変化や新たな技術の発展に伴い、進化し続けることが求められているのである。
今こそが、UAS改善のための技術に投資すべき時期である。UASは、マルチドメイン作戦における生存性および殺傷性の向上に不可欠な 1)自律性、2)分散制御、3)ペイロード、4)APNT(Assured Precision、Navigation、and Timing , 正確性、航法、時期の保証)、5)オープン・アーキテクチャ、6)ネットワークという6つの分野横断的な考慮事項を踏まえた開発が行われている。国外作戦で活躍する兵士たちを支援しつつ、その能力を維持するためには、科学技術組織および学術機関との連携による新たな技術の導入と、業界との協力による装備品の近代化が不可欠となっている。
陸軍のUASには、1)グレイ・イーグルER(Extended Range, 航続距離延伸型)、2)FTUAS(Future Tactical UAS, 将来戦術UAS)、3)ALE(Air Launched Effects, 空中発射型UAV)、4)SUAS(Small UAS, 小型UAS)、5)SCI(Scalable Control Interface, 拡張型制御インターフェース)という5つの装備があり、そのそれぞれについて、航空企業関係者の協力を受けつつ、任務遂行能力の向上が図られている。
グレイ・イーグルER(Extended Range, 航続距離延伸型)-既存装備UASチームは、改良型グレイ・イーグルERに関連する装備化および訓練に関わる業務を継続している。劇的な性能の向上により、作戦領域とペイロードを拡大し、APNT、アビオニクスの再設計、データリンクの最新化、エンジンシステムの信頼性向上、Link 16による統合、弾薬/ペイロードの代替性確保、ALEおよびSCIの統合/などの将来のアップグレードに対応できるようなる。マルチドメイン作戦への対応に不可欠なグレイ・イーグルERの設計、開発、および供給の継続は、陸軍のUAS装備群のアップグレードにおける中心的業務に位置づけられる必要がある。
FTUAS(Future Tactical UAS, 将来戦術UAS)-戦術UASプロダクト・オフィスは、陸軍将来コマンド(Army Futures Command)と協力しつつ、FTUASプログラム関連業務において、目覚ましい進歩を続けている。また、5つの陸軍旅団チームとの実証試験に参加している4つの業者と緊密に協力し、その実施状況の把握に努めている。これらの実証試験の進捗に伴い、各陸軍旅団チームは、要求事項および調達戦略の策定に資するための意見を兵士たちから聴取しはじめている。FTUASの目標のひとつは、共通的な基本設計概念とインターフェイス制御規定を確立し、モジュラー・オープン・システム手法の取り込みを容易にすることである。その意図は、戦略および要求性能に関する最新情報に基づき、企業との協議を継続することにある。飛行場や大規模な地上支援装置による制約を受けずに運用できるFTUASは、展開および機動が容易なシステムの兵士たちへの供給を実現する。
SUAS(Small UAS, 小型UAS)-兵士プロダクト・オフィスは、SUAS(グループ1および2)に関し、陸軍の階層的装備化手法の適用を焦点として業務を実施している。この戦略の目的は、大隊レベル以下の部隊に適合した装備の開発にある。この小型のシステム系列は、機動部隊が必要とする状況認識能力の向上をもたらそうとしている。昨年は、主として短距離偵察(Short Range Reconnaissance, SRR)UASの供給を主眼とした業務を行ってきた。短距離偵察UASの生産および装備化は、2021年の開始を予定している。このシステム系列のUASには、この短距離偵察UASのほかに、中距離偵察および長距離偵察UASがある。SUASチームは、これらの機体の開発と並行的に、携帯地上管制局(Handheld Ground Control Station, H-GCS)に関する業務を実施中であり、本年は、2つの企業とその製造契約を締結した。この携帯地上管制局は、SUASシステム系列の重要な構成品として位置づけられ、すべてのSUASに共通するハードウェアおよびソフトウェアの供給することを目指している。
ALE(Air Launched Effect, 空中発射型UAV)-指示・制御・効果(Command, Control and Effects, C2E)プロダクト・オフィスは、ALEおよびSCI(Scalable Control Interface, 拡張型制御インターフェース)機能の迅速な装備化を追求し、大幅な進捗を得ている。本年は、複数の企業との共通売買契約を活用して、ALE試作機、任務システム、ならびにペイロードおよびセンサーの技術的評価および醸成を行っている。この調達戦略においては、民生品(Commercial Off The Shelf, COTS)および非開発品(Non-Developmental, 非開発品)の機体を活用し、初期ALE能力を承認(2024年度を予定)して迅速な装備化を進めるとともに、オープン・システム手法を活用し、将来のALEシステム系列における搭載機器の互換性向上および将来のセンサー能力機能との統合促進を図ることとしている。
SCI(Scalable Control Interface, 拡張型制御インターフェース)-SCIは、将来におけるUASの装備化、取得および運用方法に大きな変化をもたらそうとしている。この装備は、マルチドメイン作戦環境での相互運用性と作戦遂行能力を著しく向上させることになるであろう。今後のUAS装備の開発における重要な柱となるのがSCIなのである。SCIは、UASの指揮運用用の共通インターフェイスを提供し、ペイロード制御を簡素化して、単一の操作員による複数機の複雑な運用を可能にする。この一対多数運用構想は、その実現の一歩手前のところまで来ている。複雑な装備品であるSCIの開発には、多くのプログラム・オフィスとの連携や、複数の地上および空中器材との連接が必要となる。プログラム・マネージャーUASは、元請業者、業界パートナーなどの関係者と密接に調整を続け、SCIの開発に引き続き努力を傾注してゆく。
我々は、今、陸軍UASの岐路に立っている。UASは、戦場における有用性が確認されており、かつ、その運用態勢が確立できている重要な兵器システム群である。技術開発機関への投資により、マルチドメイン作戦に必要な装備品の導入が完了するまでの数年間は、既存の陸軍UASへの投資も拡大し続けることであろう。陸軍の要求性能を実現するためには、既存のシステムの焦点を絞った近代化と将来のプログラムの鍵となる技術への投資が必要なのである。
大佐スコット・アンダーソンは、アラバマ州レッドストーン工廠の航空プログラム・エクゼクティブ事務局に所属するUAS担当プロジェクト・マネージャーである。
訳者追加写真の出典:
https://www.army.mil/article/239411/future_tactical_unmanned_aircraft_system_ftuas
https://www.afcea.org/content/aiml-critical-army-strategy-counter-small-uas
https://www.army.mil/article/238407/air_launched_effects_ale
https://api.army.mil/e2/c/downloads/2020/09/25/f909b8ef/sci-v3.pdf
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2020年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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