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陸軍航空の情報センター

テクニカルトーク:オートローテーション(その1)

オートローテーションの開始と定常降下

トーマス・L・トンプソン博士

現代の回転翼機は、極めて信頼性の高いエンジンを搭載しています。しかしながら、万一エンジン出力を完全に喪失した場合に備え、高度が十分で、適切な着陸場所があり、かつ適時に操縦操作が行われさえすれば、オートローテーションで安全に着陸できることが望まれます。

そこで、これから2回にわたって、オートローテーションについて説明することにしましょう。この記事 (その1)では、全エンジン出力の損失を速やかに認識し、ブレード・ピッチを小さくし、ローター回転数を安定させ、定常降下率を適切に設定することの重要性について説明します。また、オートローテーション飛行の基本的な原理について確認します。次回の記事 (その2) では、ローター系統の回転エネルギーを利用して機体の運動エネルギーを吸収し、安全に着陸できるようにすることなど、オートローテーション飛行の最終段階について説明します。

回転翼機のエンジンは、回転するローター・ブレードの形状抗力に打ち勝ちながら、ローター・ディスクを通過する気流を誘導して揚力を生成するために必要な軸出力を供給します。エンジンの出力が失われると、ローターの速度や推力が低下し、機体は降下し始めます。その場合、パイロットは、ブレードのコレクティブ・ピッチをすばやく下げ、ローターの速度を安定させなければなりません (最新型の回転翼航空機の一部には、エンジン出力の損失を検知すると、自動的にコレクティブ・ピッチを下げる制御システムが装備されています)。機体の降下率が増加するにつれて、ローターを通過する上向きの空気流が生じ、エンジンがなくてもローターが回転するようになります(回転翼航空機には、故障したエンジンからローターを切り離し自由に回転できるようにするためのフリーホイール・クラッチと呼ばれる装置が備わっています)。

図1 ブレード断面に作用する速度と力

図1は、オートローテーションの原理が分かるように、動力飛行中とオートローテーション飛行中に翼断面に作用する速度と力を比較したものです。ブレードの揚力(相対速度に垂直)と抗力(相対速度に平行)は、迎え角(ブレードのピッチ角と相対速度がなす角度、つまり翼形が空気に「食い込む」角度)によって変化します。動力飛行中は、相対速度(相対風)が下向きにローターを通過し、揚力のベクトルが後方に傾いて「誘導抗力」が生じます。これは、ブレードの回転運動を妨げるように働きます。これに対し、オートローテーション飛行中は、ローターに対する空気の流れが上向きになり、揚力のベクトルが前方に傾いて「駆動力」が生じます。これは、ブレードの抗力を打ち消すように働きます。比較的高い対気速度でオートローテーションを開始した場合には、ローターの駆動に大きな力が必要となり、ブレードの先端部分では、駆動力が抗力より大きくならないことがあります。その場合は、機体の降下速度が増加します。すると、ブレードの内側部分における駆動力が増加して、先端部分の大きな抗力を打ち消すように働きます(ブレードの内側部分におけるローター回転数が十分に高く、失速が生じない場合)。

緊急時には、翼断面図を思い浮かべるような時間がありません。このため、飛行訓練やシミュレーター訓練を通じて、エンジン出力が失われたならば、直ちに(警告音や警報灯により)状況を認識し、オートローテーションに入り、ローター回転数を制御し、定常降下率を適切に設定する方法を修得しておくことが重要です。訓練や試験においては、(エンジン出力喪失の状況が付与されることがあらかじめ分かっているため)実際の緊急時と同じ位までローター回転数が低下するように、1秒から2秒の間、コレクティブ・ピッチを下げずに待つように指示されることが多いようです。シミュレーターであれば、コレクティブ・ピッチを下げるのが遅れた場合に生じる結果を確認することもできます。ローター回転数が80%未満に低下すると、ブレードが過剰にフラッピングし、機体の制御が困難になります(ブレードがテール・ブームまたは機首に接触する可能性もあります)。

ローター回転数の低下を止められたならば、コレクティブ・ピッチを微調整し、ローター回転数を取扱書に示された範囲内(通常は、定常回転数の±5%以内)に維持します。また、サイクリック・コントロールを操作して、ローターの必要馬力が最小となる対気速度(通常は、70〜80 kt)に調整し、定常降下率をできるだけ小さくします。細部は、次回(その2)に述べますが、定常降下率が低いほど、オートローテーション着陸の最終段階においてフレア操作を行う際に、機体の姿勢の変化や、垂直(降下)速度及び対気速度を適切な範囲内に収めることが容易になります。

トーマス・L・トンプソン博士は、アラバマ州レッドストーン工廠に所在するアメリカ陸軍戦闘能力開発コマンド航空およびミサイルセンター(U.S. Army Combat Capabilities Development Command Aviation & Missile Center)システム即応維持部局(Systems Readiness Directorate)の航空力学担当チーフエンジニアである。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2022年10月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    子供の頃は、一旦ローターが停止して、反対向きに回るんだと思っていた...

  2. 管理人 より:

    訳語は、「航空工学講座11 ヘリコプタ」を参考にしました。