明日の戦士を支援する航空タービン・エンジン・プロジェクト・オフィス
今日の戦士に高品質のT700およびT55エンジンを供給している航空タービン・エンジン(Aviation Turbine Engines, ATE)プロジェクト・オフィスは、T901改良型タービン・エンジン(Improved Turbine Engine, ITE)およびエレクトリカル・パワー・システム(Electrical Power Systems, EPS)事業で明日以降の戦士を支援します。
陸軍航空の革命
T901-GE-900(T901)改良型タービン・エンジン(ITE)は、先進的な積層造形(3Dプリンターで材料を積み重ねて立体物を造形する製造方法)と従来の機械加工部品を組み合わせ、T700からの重量増加をわずかに抑えつつ燃料消費量を低減し、出力を50パーセント向上させています。軸出力3,000馬力のこのエンジンは、AH-64アパッチやUH-60ブラック・ホークの既存のエンジン・マウント、ナセル、およびスペースに適合しており、そのT700エンジンの代わりに搭載することができます。T901は高高度/高温条件下での運用における任務搭載量を大幅に増加させ、戦場全体にわたる地上指揮官の到達性、生存性、殺傷性を劇的に向上させます。これらの能力向上により、AH-64およびUH-60ヘリコプターは、より少ない機数でより速く任務を遂行し、より少ない燃料で長時間の飛行ができるようになります。ITEエンジンは、ブラック・ホークとアパッチをより効率的に駆動し、将来のパイロットにより高い信頼性を提供します。
米陸軍参謀総長のランディ・ジョージ大将は、2023年9月の就任宣誓式でのスピーチで、自らの4つの重点分野の1つである「継続的な変革(continuous transformation)」の重要性を強調しました。ITEエンジンは、耐久性に優れたT700のエンジン能力を向上させる、陸軍航空の「継続的な変革」に向けた取り組みのひとつとなっています。
T901は、現在のT700の整備要領を踏襲しつつ、自己診断と自動整備アラート(automated maintenance alerts)に必要な予後および予測整備(Prognostic and Predictive Maintenance)を採用し、将来の戦士により優れた整備要領を提供します。この画期的な技術により、エンジンの状態・整備データ(health and maintenance data )がネットワークを通じて航空関連企業全体で共有され、航空機の管理能力が大幅に向上します。エンジン・ヘルス・モニタリング・システムは、エンジンの状態と残存耐用時間を正確に評価し、ニーズ・ベースド・メインテナンス(needs-based maintenance, 必要に応じた整備)の実施を可能にします。暦日や時間に基づく整備ではなく、必要に応じた整備を実施することにより、非可動時間と全体的な整備コストを低減できます。
T901は、先進的な耐摩耗コーティング、熱バリア、セラミック・マトリックス複合材料などの最先端技術を使用することで、エンジンの耐久性を向上させています。ITEは、進化する脅威に対応し、将来の戦士に到達性、殺傷性、信頼性の向上をもたらすために設計された、数十年に一度の技術革新なのです。
「継続的な変革」
航空タービン・エンジン(ATE)プロジェクト・オフィスは、T901の初飛行に向けて準備を進めることで、陸軍の未来に適応し続けようとしています。2024年初頭に陸軍はシコルスキーの試験施設でFARAプロトタイプを使用した機上地上試験を実施しました。この試験により、ブラック・ホークの統合試験プロセスと計測手順におけるリスクが軽減するとともに、航空機内のエンジン熱条件を正確に評価することができました。
6月27日、UH-60Mへの搭載試験を行うため、ATEプロジェクト・オフィスは2基のT901改良型タービン・エンジンをブラック・ホーク製造元のシコルスキー社ウェスト・パーム・ビーチ工場に交付しました。9月には、シコルスキー社が陸軍のブラック・ホークにT901 ITEを搭載し、エンジン搭載試験の重要なマイルストーンを達成しました。来年初めには、シコルスキー社が地上運転を完了し、2025年後半には初飛行を予定しています。これらが完了すれば、2026年度から始まるUH-60Mエンジン認定試験に必要な条件が整い、2029年度にマイルストーンCを達成する道筋が見えてきます。改良型タービン・エンジン(ITE)およびエレクトリカル・パワー・システム(EPS)事業は、2030年の陸軍の「継続的な変革」戦略の継続を支援します。
「継続的な変革」のための追加事業
現在の陸軍航空機の電気系統には、旧式の技術が残り、出力に余裕がなく、飛行中の緊急事態やシステム障害時に負荷の遮断が必要になるなど、能力不足の問題が生じています。これらの問題点は、将来、より先進的かつ高度なアビオニクス、電子機器、および生存システムが搭載され、電力の負荷と需要が増加するにつれてさらに拡大するでしょう。 エレクトリカル・パワー・システム(EPS)事業は近代化された電気系統アーキテクチャと共通コンポーネントを開発し、航空機の電気系統の容量と能力を向上させ、戦士の安全性と生存性を改善することで、航空計画管理室(PEO Aviation)の航空機近代化戦略をサポートします。 EPS事業は多方面にわたる事業ですが、資金が提供されれば、まずはアーキテクチャと電力管理の取り組みに焦点が当てられます。EPSチームは、各機体のプロジェクト・オフィス、従前の搭載機器製造企業、産業界、および科学技術コミュニティと緊密に連携しながら、各機体に固有のアーキテクチャ調査を実施し、どこに問題が存在するのか、どのようなアップグレードが必要かを把握し、より高度な共通コンポーネントを活用しることで、どのように電気系統を近代化できるかを検討します。このスマート・パワー・マネジメント(Smart Power Management)の取り組みは、現在利用可能な新技術を活用し、パイロットの作業負荷を軽減し、システム効率を向上させ、既存の民間や他の軍用機でも利用可能な、より能動的な電力の管理を提供し、飛行中の緊急事態における安全性を向上させます。
さらなる資金が確保された場合には、より大容量の発電機、(APUに代えて搭載することで)飛行中のシステム容量と冗長性を向上させる追加電源装置(Supplemental Power Units, SPU)、および電気的熱負荷の増加に対応可能な最新型コンバーターの導入を目指します。
ジナ・ブブリッツ女史は、アラバマ州レッドストーン工廠にある航空プログラム・エクゼクティブ・オフィスの航空用タービン・エンジン・プロジェクト・マネージャーです。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2024年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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