ウクライナ紛争の教訓(航空機の生存性の観点から)
航空コミュニティは、これまでも数々の戦争を経験してきた。しかし、現在起こっている戦争は、近年に例を見ない急進的な変化をもたらそうとしている。20年以上にわたり反乱鎮圧作戦を主体とした戦争を続けてきた我々にとって、ヨーロッパ戦域での大規模な攻勢作戦は、航空機の生存性に関する認識を根本から覆すものとなった。テクノロジーの進化により、ほぼ周期的に戦場の様相が変化する現代において、航空機の生存性を向上させるためには、新たに出現した脅威に迅速に対応しなければならない。航空コミュニティには、情報コミュニティとの共同戦線を拡充し、重大性を増す任務の遂行に邁進することが求められている。ただし、その間も、敵の脅威は進化し続けている。戦場の様相が急激に変化し、生存性に関する要求事項も変化する中、作戦機に求められる進化と物的対策に必要な長い期間との間のギャップは、ますます拡大しつつある。そのギャップを埋めるためには、どうすればよいのであろうか? 航空コミュニティが確実に進歩をとげ、その期間が短縮されることを願っているが、実際のところ、その「願い」が通じることはなさそうである。このため、当面の間は、あまりにもよく知られたフレーズに答えを見出さざるを得ない。ジョン・ウッデン(John Wooden)氏(訳者注:アメリカの元バスケットボール選手および指導者。卓越した指導力でUCLAを7連覇を含む10度の全米制覇に導き、スポーツ史上最も偉大なコーチと言われている。その教えは、バスケットボールのみならず、ビジネスや組織におけるリーダーシップなど、多方面において後世の多くの人々に影響を与えている)の「基本基礎を徹底した者が勝利を収める」という格言に由来するこのフレーズは、部隊の指揮官や企業のリーダーたちによって繰り返し唱えられてきた。「基本基礎の徹底」それは、あらゆる分野における成功の基盤であると言われている。では、「基本基礎」を戦場の複雑化によって生じたギャップを埋めるためのツールとして活用するには、どうすべきであろうか? 軍事行動の「基本基礎」は、作戦の計画立案プロセスにもその存在を見出すことができる。このプロセス自体は、物的対策に革新をもたらし、生存性を確立するために欠かすことができないものである。現在のギャップを短期間で埋めるためには、計画立案プロセスの確実な実施に立ち返る必要がある。
現代の状況における「確実」な計画立案とは、具体的にどのようなものになるのだろうか? 計画立案における基本基礎を徹底するためには、「敵」と「我」の2つを深く理解しなければならない。敵が対抗部隊の背後にある人的資源であろうと、保有する装備であろうと、天候であろうと、あるいは地形であろうと、それらを打破するための鍵は、戦場のあらゆる領域における状況の把握にある。また、情報の収集、活用、分析および伝達は、それらの要素が我に及ぼす影響を把握するための手段である。つまり、「確実」な計画立案を行う上で、タイムリーで正確な情報ほど重要なものは他にないのだ。
航空に関する情報支援を確実にするために
航空に関する情報支援には、忌まわしい歴史があったことを認めざるを得ない。イラクやアフガニスタンで得られた教訓を具現する機会があったにもかかわらず、そのプロセスは、完全に「破滅」していたと言う者もいるほどである(Aviation Digest,2013年6月号)。今日の航空に関する情報支援は、いまだに「改善の余地はある」かもしれないが、2013年にコーレル少佐およびタタルカ博士が(航空と情報の)2つのコミュニティが直面している問題を詳述し、その是正を提言して以来、いくばくかの前進があったことは注目に値する。その前進の中で最新のものは、アメリカ陸軍航空教育訓練センター(United States Army Aviation Center of Excellence, USAACE)に情報参謀(Intelligence Staff, G2)が設置されたことである。航空生存性開発・戦術(Aviation Survivability Development and Tactics, ASDAT)事務所は、航空教育訓練センター情報参謀との統合を完了し、航空に関する情報支援の進展による効果が期待されている。
現状では、まだ多くの改善が必要である。航空における情報メカニズムは、単に効果を有するだけでなく、確実なものでなければならない。人工知能がさらに発達し、現実世界でも利用できるようになるまでは、情報機能は、既存の人間の能力に大きく依存せざるを得ない。その人間の能力は、それを有する航空コミュニティのメンバーによって育成され、向上される必要がある。経験豊富な操縦士や企業のリーダーであれば、誰でもそのような貢献を行う資格がある。それだけではない。コミュニティの一員である以上、その資格だけではなく、義務を有しているのである。航空コミュニティのメンバーには、「責任は自分にある」という意識を保持し、航空に関する情報に基づいた生存性向上器材の開発に積極的に関与することが求められている。コミュニティのメンバーである以上、誰もがその機能の維持に何らかの責任を有しているのである。ウクライナの最前線において明らかとなった生存性に関するギャップを埋めようとするならば、あらゆる分野における本質的な変革が必要なのである。
新しい鋳型を作るために
アメリカの情報分析担当者は、過去に関与した紛争を通じて作られた専門知識の鋳型を20年以上に渡って使い続けてきた。その鋳型で作った技術は、敵を確実に圧倒するため、適切な精度を得られるまで洗練されてきた。しかし、今年の2月末、これまで使ってきた鋳型の作り直しが必要なことが明らかになった。最新のテクノロジーを備え、高度な訓練を受けた対等な敵から情報を収集するためには、かつて「絶対に確実」だと考えられていた慣行を根本から見直し、分析プロセスを変えてゆく必要がある。既に保有している情報分野の専門知識を再構築するためには、情報コミュニティが航空・宇宙領域に関する専門知識を修得する必要があることに疑いはない。そのためには、航空および生存性コミュニティが、情報のカウンターパートを広く受け入れ、「指導、教育および助言」できる関係を構築しなければならない。
必要なのは、戦場における情報活動に関する作戦計画立案プロセスを確実にすることだけではない。戦場で明らかになった重要な変化をタイムリーに認識できなければならない。ロシアのウクライナとの戦争の最初の100日間は、戦場で直面した問題の迅速な把握とそれへの対応が重要であることを改めて浮き彫りにした。「第三勢力」(その多くはウクライナ支援のためにやってきた)の影響力、近代化された統合防空システムの回復力、対等な敵と対峙した中での兵站など、これまで予測できていなかった課題が突き付けられた。それらが明らかになった以上、その情報を必要とする機関や部隊(情報カウンターパートや支援部隊を含む)に適切に伝達し、対応を準備させなければならない。最後に、ロシアとウクライナの紛争から「重要な教訓」が得られたとすれば、それは、生存性を向上する作戦計画立案プロセスを確実なものにするためには、我が企図する戦い方を訓練するだけではなく、戦場で直面する環境に対応できるように訓練することが極めて重要だ、ということである。生存性の近代化には、対等な敵との多面的な戦いにおける困難な状況を正確に把握することが不可欠である。そのためには、情報コミュニティからの前例のないレベルの情報支援を必要としている。航空情報コミュニティは、歩く前に這って歩かなければならず、走る前に歩く必要がある。今こそ這って歩くべき時である。戦場における生存性を確立するために。
注意:この記事で述べられている見解は著者独自のものであり、陸軍省、国防総省、または米国政府の公式な方針や立場を反映したものではありません。(AR 360-1「陸軍広報プログラム」第6-8d項参照)
サラ・A・ロスは、12年以上の経験を有する情報分析担当者であり、現在は、アラバマ州アメリカ陸軍航空教育訓練センターに本部を置く航空生存性開発・戦術(Aviation Survivability Development and Tactic, ASDAT)チームの主任情報担当官として勤務している。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2022年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
あまり具体的に書かれておらず、翻訳が難しい文章でした。誤訳もあるかも知れません。