マルチドメイン作戦の時代におけるチヌークとブラック・ホークの近代化
TRADOC装備マネージャーの現状
アメリカ陸軍の輸送・多用途機は、テロとのグローバル戦争を遂行している間においても、近代化が進められてきた。その中心となったのは、CH-47チヌークとUH-60ブラック・ホークの技術的能力の向上であった。
今日のCH-47FおよびUH-60Mならびに近い将来に装備化されるUH-60Vは、アメリカ陸軍のマルチドメイン作戦(Multi-Domain Operations , MDO)の枠組みにおいて、地上部隊指揮官に空中機動能力を提供するための準備を整えつつある。このため、今日の戦場において空中機動を遂行し、地上指揮官が必要とする有効性および優位性を維持・向上させるために必要な改修が継続的に行われている。CH-47やUH-60のように長期にわたって運用され続けてきた航空機を更に改修し、将来においても運用を継続できるようにするのは、決して容易なことではない。この課題を解決するためには、陸軍航空、関連企業および諸外国のチームメイトたちとの緊密な協力とパートナーシップが不可欠なのである。
TRADOC装備マネージャー-垂直離着陸機(TCM-L, TRADOC Capability Manager-L)は、作戦部隊からの要望に基づき、マルチドメイン作戦がもたらす動的な環境に対応するための作戦用航空機のペイロード、整備性、即応性および生存性の維持・向上に重点を置いた取り組みを続けている。
マルチドメイン作戦の教義実現に必要なペイロードの回復
陸軍の装備化事業および近代化事業により、重量が増加した車両、火力装備および兵士の輸送能力を向上させるための最重要課題は、CH-47やUH-60などの作戦用航空機のペイロードの回復である。
材質改善による恒久的な重量軽減を同型機全体について行うには、大きな投資と長い時間が必要である。リード・タイムの長い材質の改善とそれ以外の改善とをバランスよく組み合わせながら進めることにより、同型機全体についてのペイロード回復を速やかに実現しなければならない。2018年、TRADOC装備マネージャー-垂直離着陸機は、作戦用航空機のペイロードを復元・改善するため、輸送機プログラム・マネージャー、多用途機プログラム・マネージャーおよび機動教育研究センター(Maneuver Center of Excellence)と連携し、CH-47F用の搭載装備品の構成について複数の案を検討した。航空部隊指揮官による特定の任務に応じた搭載装備品の見直しを支援することにより、いくつかの形態案においては、環境条件に左右されるものの、CH-47Fの場合で3000~5000ポンド、UH-60の場合で700ポンド以上の作戦用ペイロードを回復できた。
これらの形態が最も重要なのは、機外搭載任務(スリング)である。HMMWV(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle, 高機動多目的装輪車)・LTV(Light Tactical Vehicle, 軽戦術車両)系列車両、火力装備、施設器材などの兵器システムは、そのいずれもがマルチドメイン作戦の遂行に欠かせないものである。しかしながら、これらの装備品を地上部隊指揮官の作戦上の要求に合わせて輸送することは、最適な環境条件においてさえも困難なことであり、より高温かつ高高度での過酷な環境条件においてはさらに困難な課題なのである。HMMWVの後継装備であるLTVは、Bキット装甲を装備すると1万8000ポンド以上の重量があり、現行および将来の火力装備であるM777系列(けん引カノン砲形態)は、9500ポンドから1万300ポンドの重量がある。
統合軍のマルチドメイン作戦を遂行するためには、これらの装備品を弾薬や燃料を含めた戦闘形態で空中輸送できる能力が欠かせない。地上部隊指揮官の要求を満たすため、航空部隊指揮官は、最大のペイロードが得られるように航空機の搭載装備品の構成を見なおす必要に迫られている。CH-47Fでの一例を紹介すると、EAPS(Engine Air Particle Separators, エンジン空気・砂塵分離機)およびIRSS(Infrared Suppression System, 赤外線抑制装置)を取り外すことで6%のエンジン出力の増加が得られる。これは、2100ポンドのペイロード回復に相当する。
図は、各種環境条件化における、全装備品を搭載した形態および一部の装備品を削減した形態での、CH-47Fのペイロードの一例を示したものである。
各級指揮官は、任務上の要求、リスクおよび環境条件に応じて、航空機の搭載装備品を調整する権限を有している。イラクおよびアフガニスタンで活動しているCH-47部隊のおいては、一部の機体を大きなペイロードを必要とする任務に用いる「指定機」として定め、あらかじめ形態を変更している場合が多い。
最初に取り外される装備品は、EAPSおよびIRSSであるのが通常であるが、任務によっては、より劇的な効果の得られる装備品の取り外しを行う場合もある。取り外す装備品の決定に際して考慮しなければならないことは、任務上の要求、リスクおよび準備に要する時間である。
UH-60の場合も、搭載装備品を一時的に変更してペイロードを最大化するための重量軽減措置には、いくつかの方策が考えられるが、キャビンの装甲板を取り外すことが最も一般的である。UH-60における長期的なペイロード回復策としては、ITE(Improved Turbine Engine, 改善型タービン・エンジン)が検討されている。また、UH-60テール・ローターの再設計、メイン・ローター・ブレードの改修およびITEを装備したUH-60が将来にわたって使用できるトランスミッションの開発などが検討されている。
CH-47FブロックⅡ
CH-47FブロックⅡプログラムは、チヌークのペイロード、整備性および即応性を改善するための長期計画である。CH-47ブロックⅡにおいては、示したとおり、運用環境条件に応じて、すべての装備品を搭載した状態で1万8000ポンドまで、搭載装備品を制限した形態では2万1000ポンドまでの機外搭載が可能となる。
固定翼機
アメリカ陸軍の固定翼機は、世界中に展開する部隊に対し、卓越した情報、監視および偵察能力を提供し続けている。
運用支援航空機は、時間的制約のある人員および装備品の空輸任務を完遂してきた。過去2年間においては、ASCC(Army Service Component Command, 陸軍管理構成部隊コマンド)の直接支援に全飛行時間の60%以上を割り当ててきた。老朽化した運用支援航空機に代わる固定翼多用途機の導入は、今後も要求が続けられ、承認を受けてゆくことであろう。
ラコタ
ラコタLUH-72は、アメリカ陸軍の練習機として、十分な能力を発揮し続けている。また、ラコタを装備する作戦部隊は、アメリカ本土の警備、防災、患者空輸および要人・物資空輸などの多様な任務を遂行している。
要 約
CH-47FチヌークとUH-60M/Vブラック・ホークは、地上部隊指揮官に対し空中機動能力および戦闘ペイロードを供給する信頼できる航空機として、絶対的な地位を確立している。将来の地上部隊指揮官に対する支援をより確かなものとするためには、これらの作戦用航空機のペイロード、即応性および生存性に焦点をあて続けることが必要である。
他の固定翼機および軽多用途ヘリコプターと共存するチヌークとブラック・ホークの真髄は、複雑かつ困難なマルチドメイン作戦を実行する地上部隊指揮官の空中移動要求に的確に応えてゆくことにあるのだ。
マシュー・L・ムラーツは、アラバマ州フォート・ラッカーに所在するアメリカ陸軍航空教育研究本部TRADOC装備マネージャーの輸送用垂直離着陸機課の課長である。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2019年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
米陸軍においては、あらかじめ搭載装備品を取り外して重量を軽減して、ペイロードを増加させた機体を準備している、という点が参考になるのではないかと思いました。
原文には、UH-60Mの空中機動能力に関する図も添付されていますが、図に明らかな誤りがあり、かつ、本文との関連付けも誤っているため、削除しています。