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陸軍航空の情報センター

FVLを見据えたDVE対策

ヤニク・ドヨン

DVEの中を飛行するアメリカ陸軍のCH-47チヌーク

陸軍の次世代ヘリコプターを操縦するパイロットは、新たな脅威に直面せざるを得ない。将来の作戦においては、敵の高度な防空システムを潜り抜けながら、現在のほぼ2倍の速度で飛行しなければならない。その間、コックピットには大量の戦場データが洪水のように押し寄せる。

このような新たなハードル以上に、従前からパイロットを悩ませ続けてきた重大な脅威がある。DVE(degraded visual environment, 悪視程環境)である。DVEに遭遇するのは、悪天候、煙、ブラウンアウトおよびホワイトアウト状態での飛行である。この状態に陥ると、地面に対する自機位置の把握が困難になる。

タレス・ビジョニックス社で回転翼プログラムのビジネス開発課長を務めるライアン・ウォルターズは、「DVEは重大な危機をもたらします。航空機の性能や搭乗員の能力をたちまち低下させ、墜落の危険性を増大させるのです」と言う。

「タレス社は、モジュラー型DVEソリューションを開発することで、搭乗員などのリスクを軽減し、戦闘能力を強化して、この課題の克服に貢献しようとしています。」タレス社は、古くからのアメリカ軍機へのアビオニクス機器を供給してきた。アメリカ陸軍に対ししては、現在、UH-60Vブラック・ホーク用としてグローバル・ナビゲーション ・テライト・システム・ナビゲーション・レシーバー(Global Navigation Satellite System Navigation Receiver)およびソフトウェア定義を利用した飛行管理システム(Flight Management System)を供給している。

また、アメリカ陸軍のFVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)計画に関しても、FLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)およびFARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)に戦闘実績に裏付けられた技術を提供し、その能力の向上に貢献している。DVEを克服するためのタレス社のアプローチの鍵となっているのは、新型の双眼鏡型HMD(ヘルメット・マウント ディスプレイ)などのソリューションである。その高度な状況把握能力は、より困難な状況下における飛行および戦闘の実施を可能にする。

このHMD は、タレス社の全てのFVLソリューションと同様に、陸軍のモジュラー・オープン・システム・アーキテクチャ(modular open-system architecture, MOSA) 要件を満たしたものとなっている。スマートフォンにアプリケーションをダウンロードするように、さまざまなベンダーから異なるテクノロジーを調達できるのである。アメリカ陸軍がFVL用にタレス社のHMDを選択した場合、既存のヘリコプターにおいても使用することが可能である。

DVEに対処するための高度なツール

タレス社は長きにわたって、アメリカ軍向けにHMDを提供してきた。現在、F-16ファルコンやA-10サンダーボルトなどを操縦するアメリカ空軍のパイロットは、タレス社のスコーピオンHMDを使用している。そのフルカラーのシースルー単眼鏡は、AR(拡張現実)機能を備え、あらゆる状況下においてリアルタイムの高品質画像を提供できる。

また、FVL用には双眼鏡型の改良型スコーピオンを開発し、高度100フィート以下での夜間飛行における奥行知覚の提供を実現した。ウォルターズは「単眼鏡型のスコーピオンでも、パイロットは一方の目で3D映像を見ることができますが、新型の双眼鏡型システムは、パイロットの眼前に2個のシースルー・ディスプレイがあるため、周囲の戦場をより広い視野で見ることができます。 」 と言う。

このHMDは、タレス社のSynthetic Vision System(SVS, 合成視覚システム)と併用することで、ローター・ブレードが巻き上げた砂塵により視界ゼロの状態になっても、それを見通すことができる。

SVS は、障害物や地形データを含む外部環境を3D画像で提供し、危険な状況に入る前にパイロットに警告することができる。ウォルターズは、「タレス社のHMDによって統合された高度な合成視覚システムは、ヘッドアップ(顔を前に向けたまま)、アイズアウト(視線を機外に向けたまま)状態での飛行を可能にします」と述べる。「頭を下げて視線を機内に向け、2次元のインストルメント・パネルに目の焦点を合わせて飛行している間は、何も見えていないのです」視線を上げて、SVSを通して機外を見ることができれば、コックピット内のストレスを軽減し、機外の状況をより良く把握できるようになる。

ただし、HMDが真に効果を発揮するためには、パイロットが上、下、左、右へと視線を移す際に、HMDを頭や目の動きに完全に同期させなければならない。モーション・トラッキングに遅延があると、最悪のタイミングで乗り物酔いを起こすことになりかねないのである。「モーション・トラッキングが正確でなければ、パイロットは吐き気を催す可能性があります。ほんの少しのずれでも、大きな問題が生じてしまいます」とウォルターズは言う。「その点、タレス社のモーション・トラッキングは、極めて正確に作動します。」

タレス社のHMDは、DVEに対処するだけでなく、パイロットにとって最も重要な任務データを表示し、戦場の正確な把握を可能にする。これは、ほぼ対等な敵に対する迅速な戦闘任務を遂行するために必須の能力である。

「FVLのような次世代機種は、既存の機種のほぼ2倍の速度で飛行するので、桁違いに高速なデータの処理および提供が必要となります」とウォルターズは述べる。

ワシントン州ルイス・マコード統合基地のグレイ陸軍飛行場において、夜間の空中機動任務に備え、最終的な準備および点検を行う第16戦闘航空旅団第158航空連隊第2大隊のパイロット

MOSAを実現するための設計

DVEを克服するために必要なのは、ソリューションの質の高さだけではない。すべてのFVLソリューションには、MOSAを実現できるように設計されていることが求められている。MOSAは、FVL機に共通アーキテクチャを確立するためのアメリカ陸軍の戦略である。このため、国防企業は、別のベンダーの製品と組み合わせて使用できるハードウェアやソフトウェア・ソリューションを開発しなければならない。

現在、タレス社のフライト・アビオニクス販売・開発部長であるホルヘ・ヘルナンデスは、「従来から統合システムにモジュラー型アビオニクス機器を提供し続けてきたタレス社にとって、MOSAへの対応は容易なことなのです」と述べる。

「タレス社は、MOSAに関連する企業にとってのApp Store(アップ・ストア)になりつつあります。レーダーやHMDシステムなどのタレス社がハードウェアを提供している分野においても、それらの製品のソフトウェアが機体のコンピューティング環境に適応できるようにしています」

ヘルナンデスは、また、タレス社の新型双眼鏡HMDはヘルメットを選ばない、という。このことは、パイロットのヘルメットにこのテクノロジーを導入する際に、アメリカ陸軍は現行のヘルメットを引き続き使用することもできるし、新たなシステムにアップグレードすることもできることを意味する。

アメリカ陸軍は、2030年代初頭にFV機を配備する予定であるが、その後も現行機種の運用を続けざるを得ない。タレス社のDVEソリューションは、UH-60ブラック・ホーク、AH-64アパッチおよびCH-47チヌークにも適合している。

イラクとアフガニスタンで過酷なDVEの下での戦闘任務を経験してきたウォルターズにとって、明日のパイロットのため、タレス社と共に高度なHMDソリューションを開発できることは、エキサイティングな経験である。

ウォルターズは、「DVEを熟知していることは、アメリカ軍のゲーム・チェンジ能力の発揮に役立つはずです」と言う。「いかなる状況においても、いつでも攻撃できる能力は、アメリカ陸軍に戦場で決定的なアドバンテージを与えるでしょう」

ヤニク・ドヨンは、タレス社の北アメリカ部署のフライト・アビオニクス事業開発および販売担当副社長です。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2022年12月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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