戦闘航空旅団が21日間の機動展開演習から得た教訓
第101戦闘航空旅団 (Combat Aviation Brigade, CAB) は、2,602人の人員をもって、野外演習オペレーション・リーサル・イーグル(Operation Lethal Eagle, OLE)に参加した。21日間に渡ったこの演習は、同時に行われた第101空挺師団(Airborne Division) (空中機動) の機動展開演習に併せて実施されたものであった。旅団は、その隷下部隊を3つの施設および17か所の展開地等(location)に分散させ、旅団戦闘チーム(Brigade Combat Team, BCT)の一員としておよび旅団単独での機能別訓練(collective training)を実施した。その間、のべ8,186名の兵士が合計2,565 時間の飛行を行い、全機種あわせて78名(訳者注:原文は78.5)の搭乗員が資格を取得した。また、作戦即応 (operational readiness, OR)率は、92%であった。本訓練間で得られた主要な教訓事項は、戦闘指揮(mission command)、展開地等の防護(survivability)および補給整備(sustainment)に集中していた。
戦闘指揮(mission command)
地理的離隔度の増大に伴う問題点を克服するため、第101戦闘航空旅団は、戦闘指揮に関する構想の完全な実施に努めた。旅団司令官は、訓練開始前に企図を確立し、その内容を隷下部隊に徹底した。このため、隷下部隊指揮官は、小隊、中隊および大隊レベルに訓練における主導性を維持し、迅速かつ統制の取れた作戦テンポを維持できた。隷下部隊は、展開地等の地理的特性を利用して隣接部隊と直接調整し、訓練機会の増加を図った。特に、第1-101攻撃大隊 (Attack Battalion, AB)は、ノースカロライナ州チェリーポイントでリンク16技術を活用した第335戦闘飛行隊(Fighter Squadron)との連携を演練した。また、第101戦闘航空旅団は、各隷下部隊による訓練機会の積極的な追求および分散による訓練空間の拡大を活用し、大規模戦闘作戦(large scale combat operation)に向けた即応態勢を整備した。
しかし、戦闘指揮システムの維持、特に運用支援機器の取り扱いについては、多くの課題が見つかった。当初の展開地推進間、通信班がネットワーク運用基盤を構築を担当したが、極めて限られた人数の経験者の記憶を頼りに行うほかなかった。さらに、軍事情報システムについては、能力段階1(Capability Drop One, CP-1)を達成した整備要員の欠如および輸送大隊の火力支援将校の不足により、情報および火力戦闘に関する状況把握が十分に実施できなかった。第101戦闘航空旅団は、これらの課題を克服するため、通信機器の取り扱いに関する交叉訓練を行うとともに、師団および隣接部隊と連携して情報融合サーバー(intelligence fusion server)および火力支援要員を確保した。従来、指揮官たちは、任務遂行に必要な連携を維持するため、車両また航空機で移動し、計画立案のための会議やブリーフィングに何回も参加しなければならなかった。旅団が戦闘指揮システムを確立したことにより、指揮官たちは、それぞれの展開先(echelon)で、効率的に意思決定や戦闘指導を行えるようになった。
部隊が分散したため、旅団と大隊本部の間の長距離通信の確保および維持が問題となった。展開する航空科部隊(特に中隊レベル)にとって、組織的な見通し外(over-the-horizon, OTH) 通信機器の装備は、不十分であった。このため、隷下部隊が「上位段階司令部や隣接部隊との効果的な通信を維持」し、旅団から示された指導要領を具体化するためには、自らの創造力を発揮しなければならなかった。見通し外通信の基盤形成に貢献したのは、車載および 指揮所(tactical operations center,TOC)キット構成品の統合戦闘指揮基盤(Joint Battle Command Platform, JBC-P)であった。その高い能力は、それが本質的に有する機動力とあいまって、マップおよびチャット機能を用いた共通運用構想 (common operating picture, COP)の共有を可能にした。また、大隊および旅団レベルでの転送機能により、司令部と任務を遂行する航空機との間のFM通信も、その通達距離が拡大された。
指揮統制計画を理解し、野外演習前の機器の不足を克服するための鍵は、訓練と準備であった。旅団は、戦闘指揮システムに関する教育を実施することにより、統合戦闘指揮基盤(Joint Battle Command Platform, JBC-P) などの見通し外(over-the-horizon, OTH)通信システムを使用できる要員を増加した。その教育では、講義だけではなく、駐屯地の戦闘指揮訓練センターを使用した実習も行われた。その実習には、旅団作戦センターが設立され、野外環境またはSIPR(Secure Internet Protocol Router)領域のいずれかに限定されることの多い戦闘指揮システムが使用された。衛星通信(satellite communications, SATCOM)および戦術的NIPR/SIPR(Non-secure Internet Protocol Router/Secure Internet Protocol Router)ネットワークの接続を確認するための衛星信号の取得などの、複合通信演習 (communication exercise, COMMEX) により、部隊間通信の実施要領が検証された。通信演習の反復により、この使用頻度の低いシステムが完全に任務に対応できることを確認できた。また、隷下部隊は、大規模戦闘作戦(large scale combat operation)に不可欠な指揮所の構築および撤収に習熟することができた。
展開地等の防護(survivability)
オペレーション・リーサル・イーグル全体を通じて、全隷下部隊に徹底されたのは、展開地等の防護の強化であった。このため、部隊の分散だけではなく、部隊活動の痕跡を最小限に抑制するための取り組みが積極的に実施された。第101戦闘航空旅団内の各部隊は、大隊レベルで航空機を分離して装備品の集中を防止するとともに、樹木等で隠蔽された場所に指揮所および車両を配置して、展開地 (tactical assembly area, TAA)の偽装に努めた。隷下部隊には、敵による偵知の可能性を低下させるため、1つの展開地に中隊規模の航空機しか配置させないように示された。加えて、各指揮官は、UH-60ならびに保有するRQ-7BおよびMQ-1Cを使用した展開地の航空偵察を実施し、偽装効果の確認を行った。指揮所や車両の偽装による隠蔽と同様に、前方支援中隊 (forward support companies, FSC) は、植生を利用して車両を林縁に隠蔽し、所望の給油地点まで給油ホースを延長し、FARP(forward arming and refueling point, 燃料弾薬再補給点)の隠蔽を行った。この処置により、FARPが使用されていない間に上空から発見することは、実質的に不可能になった。一方、航空機の隠蔽能力には、防護上の問題が確認された。特にCH-47チヌークのような大型機について、機体への偽装網の装着は現実的ではなかった。陸軍航空関連企業による目的に適合した既製の航空機隠蔽方策の提案が待たれる。
もう1つの課題は、全方位(full spectrum)訓練に必要な統合防空システム(integrated air defense systems, IADS) シミュレーターが不足していることであった。本演習間、2台のSA-7シミュレーターが第160特殊作戦航空連隊から提供された。しかし、3回以上の展開地推進が実施され、17箇所の展開地が使用される中、すべての訓練において適切なシミュレーションを準備することは困難であった。このシミュレーションの利用は、通常は、主要な演習に限定されている。駐屯地や演習場での訓練環境を整備するためには、より軽易に利用できる統合防空システム・シミュレーターの開発が望まれる。
補給整備(sustainment)
広範囲にわたる運用上の要求を満たすため、第101戦闘航空旅団は、前方支援を充実(sustained from the close area)させた。第96航空支援大隊 (Aviation Support Battalion, ASB) は、所要量を正確に予測し、人員および装備品を適切に配分し、保有する能力を確実に把握することにより、9か所のFARPに前方支援中隊を派遣し、19日間で349,505ガロンのクラスIII(燃料)を交付した。各飛行大隊は、運用計画および燃料使用率から燃料所要量を正確に予測し、第96航空支援大隊による個々大隊のニーズに適合した燃料の配分を可能にした。加えて、補給所要を事前に予測することで、支援作戦運用将校(support operations officer, SPO)による長期間にわたる複数の支援先への人員および装備品の割り当てを可能にした。最後に、第96航空支援大隊は、第101師団支援旅団(101st Division Support Brigade) から車両に関する戦術統制 (tactical control, TACON) 要員および専属の補給要員の派遣を受けた。隣接する部隊からの戦術統制要員の派遣は、日々の調整作業を不要にし、効率的な支援を可能にして、補給整備活動の頻度維持に寄与した。さらに、第101戦闘航空旅団は、9か所のFARPを設置することで冗長性を確保し、旅団戦闘チームの22名の要員に対する訓練を実施して、師団の能力強化に貢献した。
旅団の運用頻度を維持するためのもう一つの鍵となったのは、補給支援活動(supply support activity, SSA)の前方展開であった。第96航空支援大隊は、計画策定の早い段階から需要の見積りを開始し、8つの機動展開補給品リスト(Expeditionary Containerized Authorized Stockade Lists, ECASL)、1つの小規模支援窓口(Very Small Aperture Terminal (VSAT)、および26名の要員を準備した。これらを用いた補給支援活動により、被支援部隊の要求の90%が履行され、展開間の部品の受領、返納、交付などの業務が完全に実施された。第96航空支援大隊は、また、支援地域に基盤を維持し、補給品の供給を継続するため、毎日4回の兵站パッケージ(logistic package, LOGPAC)輸送を実施した。クラス IX(航空部品)の迅速な取得により、120時間および125時間の定期点検に到達するまでの間の非計画および計画整備を含めた作戦即応率を92%に維持することができた。もう1つの要因は、隣接部隊と連携した補給支援活動の実施であった。補給業務の実施に必要な権限を有する要員を各隷下部隊に配置することにより、部品の長期保有を防止した。本演習間を通じた補給支援活動の実施および移転能力の維持を可能にしたのは、初期段階における詳細な計画および物資の継続的な供給であった。
要約
オペレーション・リーサル・イーグルは、第101戦闘航空旅団に対し、上級司令部および旅団戦闘チームと連携した野外演習を実施する貴重な機会を提供した。分散配置によってもたらされた課題は、戦闘指揮システムの確立と維持、偽装、隠蔽および分散による部隊の防護、および前方支援に関する教訓を生み出した。これらの教訓は、大規模戦闘作戦への対応が重視されてゆく中、ますます価値を高めてゆくことであろう。
トラビス・ハバブ大佐はケンタッキー州フォート キャンベルの第101戦闘航空旅団の指揮官、アシュレー・マノッチオ少佐は同作戦将校、エリック・ヒューストン大尉は第2-17航空騎兵大隊C飛行隊の元指揮官です。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2022年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
新しい戦術(ネットワーク)用語が多く含まれており、翻訳にはかなり苦労しました。不適切な部分もあると思います。お気づきの点がありましたら、教えて下さい。
陸自とは、いろいろと異なる点があるようです。私が気づいた点を記載しておきます。
・旅団(陸自の航空隊に相当)には、2,600人以上の隊員が所属
・17か所の展開地に分散(中隊ごとに展開地を割り当て)
・システム(長距離通信網)による戦闘指揮を重視
・航空機への燃料補給は、定点方式が基準
・CH-47などの大型機の偽装要領を検討中
・対空戦闘訓練にシミュレーターを活用
・航空支援大隊(陸自の航空野整備隊に相当)の主任務は航空燃料および部品の補給(アメリカ陸軍には第3段階整備がない)